ほのぼの……魔王!?
「お帰りなさいませ、お嬢様。〈グランベルジュ〉の魔術師とは如何なものでしたか?」
「何もかも、レベルが上じゃったよ。さすがは最強スキル保有者じゃ」
「では、その方に教えを?」
「いや、教わるには早すぎたようじゃ。まずは自分で努力せんとな」
「おお……。アルルお嬢様から『努力』と言う言葉が聞けるとは……。わたくし、これほど嬉しい日はございません。今日を祝日にしたいほどです」
「……お前、ちょっとバカにしとるじゃろ?」
「何か必要なものがありましたら、何なりとお申し付け下さい」
「流すなっ。しかし、必要なもの、か……。お前はお父様にも付いておったな? お父様はどんな風に強くなられたのじゃ?」
「そうですねぇ。では、最初から話しましょうか。私とアルル様のお父様との出会いを」
「いや、要点だけ纏めてちゃちゃっと話せ」
「…………」
◇◇◇◇◇
パトリックさんからの依頼を達成したあたしは、意気揚々とグランベルジュに帰って来た。いやー、テンション上がるよね。今回の報酬はかなりデカい。金額的な意味もあるけど、それだけじゃない。
「ただいまー!」
「あっ、お帰りなさい、ミアさん。どうでしたか、依頼の方は?」
「余裕、余裕。それで、これが今回の報酬ね」
「うわっ……。さすが領主様からの依頼……」
今回の褒賞金は二万Gだ。一般的に流通している最強武器も余裕で買えちゃう金額だ。
ちなみに、お金の管理はオーナーであるクロエちゃんに任せている。
「けど、妙に嬉しそうよね? 他にも何かあったの?」
「さすがオリヴィア。実はね、今度パトリックさんが王都に行くらしいの。そこで、あたしたちのことを王様に紹介したいって」
「ま、マジで……!?」
オリヴィアでこの驚き様だ。クロエちゃんなんて目が点になって固まっちゃった。
「王様への謁見は数ヶ月待ち。てか、王様に商売の宣伝をしようなんて、予約の受付で撥ねられるよ。でも、あたしたちはパトリックさんに付いて行くだけで、それが叶うんだ」
「王様に知ってもらえるメリットはかなり大きいわね。勇者パーティーを含めた、ほとんどの冒険者に知られることになるし、国王軍からの依頼だってあり得るわ」
「うん。魔物との闘いで最前線にいるのは未だ国王軍だからね。危険な場所に行く分、グランベルジュの需要も高いはず」
「やるわね、ミア。たまにはいい話、持って来るじゃない」
「いつも持って帰ってるわいっ」
ああ、そうだった。オリヴィアには聞きたいことがあったんだ。
「あのさ、北の森の中で魔族の女の子に会ったんだよね。十歳くらいの」
「何、いきなり?」
「いや、その子がね、結構な魔力量を持ってたの。多分だけど、血筋がいいんじゃないかなって。見た目も、子供だけど品があるって言うか、どことなく貴族の雰囲気を感じたんだよね」
「へぇー……。その子の名前は?」
「それが長くて憶えられなくて……。長い名前ってのも貴族っぽい要素じゃん?」
「まあ、確かに」
「たださ、渾名って言うか、その子が自分のことを『アルル』って――」
「あ、アルフィード・インゲノール・アルカンタ様!?」
「知ってんのかーい! てか、よく噛まずに言えたね、マジで……」
アルルが魔族界の貴族だったらオリヴィアが知ってるかも、程度に聞いてみたんだけど、この様子だとアルルはあたしが想像していた以上の人物なのか……?
「その、アルルさんって有名な方なんですか?」
「アルフィード・インゲノール・アルカンタ様っ。ご本人が自分をそう呼んでいても、勝手に略称を使わないで」
「す、すみません。それで……その方は偉い立場の人、と言うことですか?」
「偉いとか、そんな次元じゃないわ。アルフィード・インゲノール・アルカンタ様は……先代魔王様のご息女よ!」
「えっ……マジすか……」
クロエちゃんの口からは絶対に出ない言葉が出ちゃうくらいの衝撃。いやいや、あたしも言いたいよ。マジすか、オリヴィア姐さん……。
「てことは、あの子が次の魔王候補……?」
「その一人であるのは間違いないわね。人間界の王と違って、魔族界の王は血筋よりも純粋な強さが優先されるわ。だから、いくら先代の子供と言っても、弱ければ魔王にはなれない」
「でも、魔王になったほどの人物の血を引く子供なら、普通にポテンシャルは高いよね。それを超えられた者が王になるって言うのは、合理的なのかも知れない」
「実際にアルフィード・インゲノール・アルカンタ様に会ったことはないんだけど、話だけは聞いたことがあってね。魔力量は先代譲りの強大なものだけど、その扱いに少し難がある、と」
「それは本当のことだよ」
魔法のセンスがある魔族とは言え、あんな子供がグラビティデスフォールを使用するだけでも凄いんだ。ちゃんと魔導学を学べば、きっと凄い魔術師になれる。
ちゃんと、ゆっくり学ぶことができたなら。
「破壊力のある魔法は使えるけど燃費が悪い。持久戦には向かない。二、三発魔法を撃たせればスタミナ切れで即アウト。でも、勇者を超えるだけの才能は持った子供だよ」
「へぇー、将来有望じゃないですか」
「うん。だから、今のうちにその芽を摘んでおこうって考える奴はたくさんいるだろうね」
「そ、それって……」
ちょっと変だなって程度には感じていたんだけど、あの子が魔王の娘だと知って余計疑問に思った。
何で、あの子はあたしに修行してほしいと頼んだんだ? 魔族が、何で人間に? 魔王の娘であるあの子が、自分の父親を殺した人間に、なぜ?
答えは簡単だ。親の仇に頼ってでも強くなりたかった、強くならなきゃいけなかったんだ。
「ミアの言う通りよ。これが魔王の、魔族の歴史。先代の子供は次の魔王の第一候補。まずはそこを討つのが成り上がりのスタート地点よ」
「勇者だってそうだしね。血筋じゃない。数々の試練と困難を乗り越えた者だけが勇者を名乗れる」
「それで、ミアはアルフィード・インゲノール・アルカンタ様と何を話したの?」
「うん。その前にさ……アルルって呼んでいい? 本名長い」
てか、未だにちゃんと言える気がしない。
「私もいい加減、面倒臭くなってきてたの」
「あんたが略すなって言ったんでしょうがっ」
仕切り直しに咳払いを一つして、
「アルルには修行を付けてほしいって頼まれたの。どうもあたしを不老不死だって知ってたみたいだから、どこかでグランベルジュの噂を聞いたのかも」
「魔王の娘さんにまで知られるって、結構凄くないです……?」
「先代の娘だから情報が集まりやすい、と言うのはあるでしょうけど、確かに凄いことではあるわ。で、ミアはアルル様の修行を請け負ったの?」
「いや、断ったよ」
二人はちょっとびっくりしたって程度で、そこまでの驚きはないみたいだった。
あたしのこと、理解してくれているってことかな。
「その話し方からしてそうよね。けど、どうして?」
「あたしって、誰かに教わって強くなったわけじゃないでしょ? だから、教え方ってよくわかんないんだよね」
「優秀な能力者が優秀な指導者になれるわけじゃない、と言うことかしらね」
「だからって、アルルに関しては見離す気はないよ。あの子には確かな才能がある。それを補う心の強さを手に入れたら、またおいで、とは言ってあるから」
知らなかったとは言え、魔王の娘さんに「またおいで」とは、あたし何様なんだろ……。自分で言ってて思ってしまった。
「じゃあ、修行する際にはうちの宿屋に泊まってもらいましょう。それで、魔族の方々にもどんどんアピールです」
「おおっ、さすがオーナー。商売上手」
「オリヴィアさんの魔族料理もいよいよ本格的に提供し始めますからね。タイミングとしてはバッチリなんじゃないかと思います」
「そっか。パトリックさんも絶賛してたしね。こりゃ、忙しくなるぞぉー」
思い返してみれば、人間と魔族の偉い人と立て続けに出会ってるのか。
これは何かいいことが起きる兆しなのか。はたまた、その逆か。
「そうね。ミアには全国を飛び回って魔族料理の食材を集めてもらうわけだから、とりあえずミアだけは忙しいわよね」
「……言い方が気に食わん。あんた、あたしを便利な宅配便とか思ってない?」
「思うわけないじゃない。あなたは私のパシリよ」
「もっとランク下じゃんか!」
いつにも増して、笑い声の絶えないグランベルジュでした。
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