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三宅町の赤いカブ  作者: Elena
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初通学

 引っ越しに伴う事も昨夜のうちに済ませたカイ。

 後は、学校に行き、転入手続きの後、新しいクラスに入るだけだろう。

 今、峠の踏切で貨物列車の通過待ちをするカイ。

 白上ダムへ向かう工事用貨物列車で、DD51が三宅町鉄道の私有貨車になった元JR貨物のワム80000型有蓋車と車掌車ヨ3500を牽引している。ちなみに車掌車には、白上ダムの交代職員が乗っているらしい。

(さっき、峠手前の信号所で上りの三宅町行き旅客列車を追い抜いたが、列車より車の方が早くて便利。なんだけど、ここは―。)

 と、三宅町鉄道沿線地域特有の事情を思う。

 そして、先ほど追い抜いた列車には、アカネも乗っている。

「せっかくだし、一緒に列車通学したらどうだ?」とタキは言ったのだが、学校にはバイク通学すると言ってしまっているので、そうはいかなかった。

 アカネに関しては、「こんな奴と一緒に通学してやる義理は無い」と一蹴した。

(アカネにしても、その他の奴にしても、バイクで列車より速く通学する俺は、やっかみを受けるだろうな。)

 と、カイが思った時、やっと踏切が開いた。しかしここは、車同士のすれ違いが難しい踏切で、カイのバイクは難なく通れたが、その後ろのタクシーは、前から来た軽トラとのすれ違いに難儀していた。

 この、三宅町鉄道沿線地域にある、伊地山と二ノ山による急峻な山岳地帯を唯一通れる美奈川渓谷沿いの僅かな隙間を縫うように走る鉄道と、更にその隙間に出来た僅かなスペースへなんとか通した県道は、普通の乗用車ですらこの有様。これでは、乗用車に乗っている人からもやっかみを受けそうだ。

 渓谷沿いを走っていると、対岸に岩の裂け目から水が噴出して、滝になっているのが見えた。

 かつて、バイパストンネル工事がこの場所で行われたが、その際に大破砕帯に遭遇。これを突破しようとしてトンネルが一気に崩れてしまい、トンネルの坑口から水だけが噴出しているのだ。

 その他にも、バイパスとなる長大橋梁工事を試みたが、こちらも失敗し、その残骸が美奈川渓谷に残っている。

 そうした物を見ながら、カイはCT125の赤い車体で軽快に峠道を駆け抜ける。

 気持ち良いのだが、学校の制服を着てのバイクの運転は少し難儀する。

 峠を抜け、少し走ると、三宅町市の中心地に入る。

 三宅町市の中心地に位置する三宅本町駅は、JR線と接続しており、貨物列車の中にはここで機関車を交換し、JR線に乗り入れていく物もある他、トラック等で運んできた物を三宅町鉄道の貨物列車に乗せ換えるための貨物ヤードもあり、一昔前の組換え駅を思わせる。本当は、そんな光景も見たいカイだが、ここでは鉄道好きは一切出さず、バイク好きで押し通すため、目もくれず、学校に向かう。

 駅からあまり離れていない場所に、カイの通う三宅町高校があった。

 駐輪場にバイクを入れると、周囲を見回す。

 だが、バイクの姿はあまりなく、強いて目に留まったのは、カワサキKLX250。

 ダークグリーンの迷彩色の車体は、どこか自衛隊のバイクを思い浮かべるのだが、それよりもカイは先に、職員室へ行き、転校の手続きをしてしまう。

 カイのクラスは2年4組。

 担任の山内先生と共に、クラスへ歩いていく。

「バイクに乗って来たんだよな。」

 と、男性の山内先生。

「ええ。あっ何か問題が?」

「白上からなら、バイクが便利だろうからな。問題は無いよ。この学校では、バイク免許取得を勧める程だ。」

 三宅町高校は、全国的にも珍しく、バイク通学や免許取得を積極的に勧める高校だが、その理由は、通学時の利便性や時間に縛られる上、列車に何かトラブルが起きれば全体の予定が狂いかねないためだ。最も、バイクの方が事故のリスクは高い事は承知の事だが。

 山内先生に促され、教室に入り、自己紹介。

「水沼カイです。静岡県から来ました。よろしくお願いします。」

 と、当たり障りのない自己紹介で終え、席に着く時気付いた。

 このクラスには、アカネも居た事に。

 朝のホームルームが終わる。

 1時限目までの短い隙間時間。

 カイは、特に何をするでもなく過ごす。

 クラスを見回すと、カイと同じく、一人で文庫本を読んでいる奴がいた。

 アカネだった。

「アカネ。君にはカイを受け入れて貰う。そして、カイ。君はアカネと友達になって貰う。それが、この家の主たる、赤金美月が示した、カイが赤金家に住む条件だよ。」

 と、タキが言った条件を思い出す。

(あの性格。もしやと思ったが、アカネにも友達が居ないのか。でも、強制されて、友達になるのは違う。)

 と、カイが思った時、1時限目の予鈴が鳴った。


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