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三宅町の赤いカブ  作者: Elena
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レース中継

 夕食後、カイとアカネはリビングにいたが、何一つ話すネタも無い。

 だが、カイは「あっ」と思い出し、スマホでYouTubeを開く。

 三宅町市白上地区からは、遥か遠い場所。川口オートレース場のライブ配信。

 父と共に走っていた仲間の一人。元は人気アイドルグループのメンバーだったが、オートレーサーに転身した選手のレースが今まさに行われていた。

 全日本選手権決勝戦。

 まもなく、そのスタートが切られようとしていた。

 ふと、テレビを見ると誰も見ていない。そして、このテレビはYouTubeも見られるらしい。

「あの、テレビ付けていいですか?見たいものがあるので―。」

 と、遠慮がちに言うと、タキは「いいよ」と言う。リモコンを受け取り、テレビを付け、YouTubeに繋ぐと、まさにレースが始まろうとしていた。

「絶対王者と言われた、水沼音也の急逝もあった今シーズン。」

 と、アナウンサーが言うのに、カイは項垂れる。

 父の名前だった。父も、この全日本選手権に出場していたのだ。

 養成所で、父と同期だったらしい元アイドルグループ出身のレーサーは、腕に喪章を巻いていた。

(森本選手。頑張ってください。父も、あの世から応援しています。)

 カイが祈ると同時に、レースが始まった。

 カイが応援する森本選手は8人中4番手。

 全10周の命がけの戦い。ここに、カイも加われたのだが、行けなくなってしまった。その悔しさと虚しさが、カイを支配する。

(何が悲しくて、こんなところにいるんだ。行けたのに―。)

 悔し涙が溢れて来た。

 レース終盤、事件が起きた。

「うわぁっと落車ぁ!トップの小野寺と2位の内田が接触落車!」

 実況が叫ぶ。

 これで、森本選手が2位に繰り上がり、目の前の浅見のバイクを抜けば優勝だ。森本選手は何度も優勝に手が届きそうだったが、一歩及ばず、歯痒い思いをしていた。森本の前に立ちはだかったのは、カイの父、音也だった。

 森本と浅見がデットヒートを繰り広げる。

「行け!森本さん!」と、思わず叫んだカイ。

 最終周回ゴール寸前。森本が浅見を抜いて、そのままゴール。

 川口オートレース場の大歓声が、テレビからも聞こえる。そして、カイも拍手を送った。遥か彼方、画面の向こうの、川口オートレース場に向かって。

 しかし、同じくリビングにいたアカネの姿は無い。

「君があまりにも熱中するのだから、ドン引きして部屋に行ってしまったよ。」

 と、タキは呆れ返る。

「夢、諦めて無いのか?」

「諦めたくて、諦めたのではありません。」

「不完全燃焼。だからか。そんなことでは、アカネと友達になれないだろうな。言っておくが、もし条件が飲めなければ、分かっているな。」

 追い出されても、文句は言えないぞ。

 そういうことらしい。

 自分の部屋に戻るカイ。

 簡易的な仏壇に向かって手を合わせる。

「親父。森本さん、勝った。」

 と、報告し、風呂に向かうが、脱衣所の前でアカネと出くわした。危なく、服を脱いだアカネを覗くところだったが、それは回避できた。

「そんなに、お父さん大事?あんなに応援して。涙まで流して馬鹿じゃないの?」

 と言うアカネに、腹を立てたカイ。

「ああ。母親が死んだ後、ずっとレースで稼いで、俺をここまで育ててくれたんだからな。」

「親離れできない、バカな子供。所詮はガキね。」

「なっ―」

「私には分からない。お父さん大事な気持ちが。」

「-。」

 アカネはそう言うと、そそくさと風呂に入ってしまった。

(さっき話は聞いたから、あんたの気持ちも分かるさ。でもな、あんたの親父が何したのか知らねえが、親を否定したら、お前は誰に育てられたんだよ。)

 と、カイは舌打ちして思った。

 明日から学校。

 だが、アカネとは相性が合うとは思わなかったし、それ以前に、学校でも友達を作るのは難しそうだった。


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