列車通学
カイのハンターカブは一応、走れるようになった。
だが、まだ公道には出られない。
なぜなら、公道走行に必要な一部の小部品がまだ取り付けられていない。
小一時間で終わりそうだが、もう夜。
これがオートレース場の整備室であれば、充実した設備の下で夜間も整備出来たかもしれないが、ここは違う。
カイ。
苦渋の決断。
「今日の作業は、ここまでだ。」
つまり、明日の登校にハンターカブを使用するとこは出来ない。
ふと見ると、アカネが様子を見ていた。
「あの―。私のせいで―。」
と、アカネ。
「誰のせいでもない。俺のミスだ。」
カイは溜め息交じりに言った。
言いながら、家に入る。その際、振り返ってハンターカブを見る。
見た目では、もう走れそうだが、まだダメだ。
そして、もう一つ。
カイにとっては、公道を走る事よりも重要な問題だ。
父の形見であるハンターカブの象徴が無い。
大穴が空いて、もう使い物にならなくなってしまった、郵便ボックス。
学校で使う教材等を入れていたが、郵便ボックスが無ければ、リュックにでも入れてそれを背負って持って行く。雨が降ったらどうすればいいか。ポンチョでも着用して、それで包むか。それをやるには、リュックを背負うのではダメだ。スペアパーツの中にある、センターキャリアの取り付けが必要だろう。だが、ポンチョで自分の身体と同時に荷物まで包めるのか?
浮かんでは消えて行くプラン。
(とにかく、これは明日。みんなに話してどうするか考えよう。)
と、カイは思った。
翌朝、カイはアカネと共に赤金の家を出て、小熊駅に向かう。
カイが赤金の家にやって来て初めて、アカネと一緒に通学する。
当初、アカネの母、美月と家令のタキが、アカネとカイがこうなればと願ったのだが、二人の意図する形とは違う形で実現してしまった事に、複雑な思いが入り乱れる。
小熊駅で、列車を待つ。
白上方面へ行く貨物列車が三宅町市側からやって来る。
DD51が牽引する貨物列車で、コンテナ車とタンク車、それにホッパ車と車掌車を繋いだ貨物列車には、ダムの資材や人員が乗っている。
反対側から、JR線に乗り入れるキハ110系と、三宅町鉄道所属のキハ40系の混成の列車が来た。
これに乗って、三宅町市へ向かう。
列車の中で、カイとアカネは何も話す事も無い。
今までが今までだけに、何をどう話せばいいのか分からないのだ。
カイは、列車の窓から見える、いつも通学で使っている道を眺める。
ふと、第4種踏切を通過。
(林道かな?)
と思った。踏切で通過した道は、いつもの通学路に通じていた。
(もしや、旧道?)
と、カイは首を傾げる。
「旧道だよ。今は通れない。土砂崩れで埋まっちゃった。」
アカネが、カイが何を考えていたかを見破るように言った。
「バイクなら行けるかな?」
「どうだろう?」
「-。まずは、修理してからな。」
と、カイは言う。
その後は、結局話す事も無く、三宅本町駅に到着。
ここで、JR線に乗り入れて、高崎方面へ行く2両編成のキハ110系と、折り返して白上方面へ行くキハ40系が分かれる。
その様子を横目に、カイとアカネは並んでホームを歩く。
会話は無い。
以前と違うのは、会話の糸口を探ろうとして、見つからないという事。
だが、会話の糸口が見つからぬまま、改札口を抜け、学校までの道を歩いて行き、とうとう学校に着いてしまった。




