代償
しかし、待ち受けていたのは、水を汲んできた事に怒るアカネ。そして、タキや美月からの非難の嵐だった。
だからカイは余計に、なぜ怒られたのかも分からず、大切な父の形見である、ハンターカブだけ壊して終わった結果に納得出来ず、おまけに「謝罪しろ!」とまで言われた事に反感を買い、腹を立てたのだ。
本当ならば「だったらこのカブ弁償しろ!元に戻せ馬鹿野郎!」等と怒鳴りたかったが、怒鳴ったら追い出されるのが目に見えていた。それでも、納得いかない。
だが、今日の帰りの列車でアカネと出くわした時、そして、タキや美月の態度
の変化を見て、事の経緯だけは話した。
「では、自分は―。」
と、席を立ち、修理に向かう。
「もう、夜だ。明日にしたらどうだ?」
美月が言う。
「なんとか、来週までに形にしたいのです。」
「あまり根を詰めてもだめだ。気持ちは分かるが。」
美月が言うのに(だったら修理屋に出す金寄越せ!)と思うカイ。
修理屋に出そうにも、幾らになるのか分からないから自分で修理しているのだ。最も、修理屋に出すにしても、三宅町鉄道の列車に積み込んで運ぶ羽目になるので、その料金だってかかるし、出したところで、いつ帰って来るかも分からないので、修理屋に出す金を貰ったとしても、結局は自分で修理する事にするだろうが。
しかし、冷静になって考えると、夜で暗い中の修理は、部品を紛失する恐れもある。なので、美月の言う通りにした。
翌朝、目覚ましの音と同時に起き、アカネとタキと美月と揃っての朝食後、カイは自分のハンターカブの修理に向かう。
(慌ててやるな。ゆっくりやれとは言わないが、慌ててやることは無い。慌ててやると、余計に壊す。)
と、カイは自分に言い聞かせる。
時間がかかるであろう、タイヤの組み込み作業に取り掛かる。
(オートレースの世界では、修理も整備も自分一人でやる。泣いている暇は無い。)
と、カイはタイヤの組み込み作業を進める。
そして、チューブに空気を入れるのだが、コンプレッサーと言う物はなく、自転車用の手押しの空気入れである程度まで入れる。
フロントタイヤとリアタイヤ両方。
フロントタイヤだけはようやっと入れ終わって、空気圧チェック。
指定圧まで空気は入った。
だが、次にリアタイヤ。この後は、マフラーの交換も控えている。
しかし、もう昼だった。
「アカネが、ハッシュドビーフ作ったぞ。」
と、美月が言って初めて、昼だと気が付いた。
だが、美月とタキとアカネと揃って昼食を食べるも、何か話す事もせず、10分で食べ終えて、修理に向かう。
(焦る事は無いけど、ゆっくりやるのもダメだ。慌てず急いで正確にやる。でも、急がないと。)
なぜ、カイが修理を急ぐのか。
それは、土曜日にクラスメイトとの、二ノ山ツーリング登山に間に合うためという事ではない。
(出来るだけ早く、ハンターカブに乗らないと。そうでなければ、変な恐怖心が残って、乗れなくなってしまう。)
転倒や事故の恐怖心に襲われて、乗れなくなってしまう。
これが、カイがハンターカブの修理を急ぐ理由だ。
なんとか、後輪タイヤも組んだ。
しかし、予定時間より遅れている。遅れた原因は、やはり、タイヤの空気を入れる際、コンプレッサーと言う物が無く、手押しポンプでやったため、疲れた割に時間を喰ってしまった。
この後は、マフラーを取り付ける。
遅れた分を取り戻す。
そして、予定より遅れて、マフラーの取り付けを終えた。
三宅町市のバイク屋で買ったヨシムラのフルエキゾーストマフラー。
エキゾースト音がこれで変わるだろう。
意図せず、マフラーを純正マフラーからヨシムラの物にチューニングしたが、車検には引っかからないし、見た目もマフラー単体が変わったなら分からないだろう。




