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三宅町の赤いカブ  作者: Elena
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二ノ山登山・第3部

 簡易コンクリートの道をどうにか降りきったところに、黒部山の湧き水があった。

 登って来るまでの疲労感に襲われたカイ。

 既にボロボロだ。

「-。」

 カイは、目の前の湧き水を見るが、飲もうと思わず、ポリタンクに水を汲むと、郵便ボックスの中に入れる。

(気が重い。ここから、下山。頼むぜ、ハンターカブ。)

 エンジン始動。

「ドルドルドル」と、エンジンの音を響かせて、ハンターカブを簡易コンクリート舗装の道へ進む。

 しかし、外輪山を登り切るとすぐに、獣道へと道は変わって、下り坂が始まった。

 クマザサ生い茂る中、一本の筋のように伸びる獣道。

 下り坂は、登りと違って、ブレーキが利かなくなれば、バイクは重力に引っ張られて暴走してしまう。

(頑張れ!)

 と、カイはブレーキレバーを握る手に力を込める。

 だが、今度はタイヤがグリップしない。

 純正タイヤも一応はオフロードに対応しているのだが、オフロードをメインに走るために作られたタイヤとの性能差は大きい。

「ズルズル!」っと滑っていき、横倒しになる。

 赤いCT125ハンターカブは、泥や砂埃に塗れ、カイの身体と共に傷付いていく。

(クソッ!水積んでいる分、余計に重い!重いから、止まるのが大変だ!ブレーキが焼けそう。エンジンもどうなるか―。)

 横倒しのハンターカブを起き上がらせた時、カイは凍り付いた。

 後、10㎝進んでいたら、ハンターカブはクレバスの底へ落ちていたところだった。

「うんせ。うんせ。」と、ハンターカブを道に戻して、再び走り出す。

 そして、細い木の板が渡された、一本橋を一気に渡ると岩盤の上を走る。

 岩盤の上もバランスが取りにくい。

 一瞬、バランスを崩した。そのまま倒れる。今度は身体が下になる格好だ。

「このっ!」

 倒れる方向にあった木の幹を蹴飛ばす。漫画で見た、ガードレールキックターンをダメ元でやった。だが、体制を立て直すどころか、失敗してハンターカブから放り出される。

 カイの身体は岩に叩きつけられる。全身に痛みが走るが、上手く受け身を取れたらしい。骨折は無さそうだ。

 ハンターカブも、岩の先に落ちたが、落ちた所に砂礫が溜まっていて、それがクッションになった。だが、そこから引っ張り上げた時、ヘッドライトが割れて、ミラーもひん曲がってしまっている事に気付いた。

 カイの身体からも、出血。

(でも、降りなければどうすることも出来ない。)

 と、カイは再び走り出す。

 砂礫を抜け、沢の区間にまで降りて来た。

 なんとかここまで来た。

 そんな安心感に襲われたのがいけなかった。

 目の前に滝である。

 それは、登りでも苦戦した、滝だ。

「まずっ!」

 ブレーキをかけるが、沢の砂礫がハンターカブを暴走させる。

 止まれない。

 滝から前のめりに落ちる。

 フロントタイヤが岩に当たった衝撃で、カイはハンターカブから投げ出されて地面に叩き付けられる。

「あがっ!」と、悲鳴を上げたカイだが、その刹那、「バァン!」と嫌な音。

 一通りのクラッシュ音が収まってから、カイはハンターカブに視線を飛ばす。

 エンジンは無事だ。オイル漏れも無い。ブレーキフルードも漏れていない。ブレーキも無事だ。そして、どうしてそうなったのか。

 フロントタイヤがパンクしている。サスペンションが衝撃を和らげたものの、岩に直撃したフロントタイヤは、その衝撃でパンク。そして、カイを放り出したハンターカブは、郵便ボックスから地面に落ちて倒れたが、郵便ボックスとリアタイヤが衝撃を受け止めたおかげで、リアタイヤもパンクしたが、フレームやエンジン等の車体の基幹部分は無事だった。

 だが、衝撃を受け止めた郵便ボックス―。

「あぁっ―。」

 父、音也の形見のハンターカブのシンボルであった、郵便ボックスは、その半分が破壊されてしまった。中に入っていた、緊急用具も散乱してしまった。

 もう、郵便ボックスは使い物にならない。

 それでも、郵便ボックスは最後の任務だけは全うするという意志をカイに見せるかのような姿だった。

 中に入っている湧き水を入れたポリタンクは、その姿が見えているものの、破損はしていなかった。

 回収可能なパーツを回収して、どうにか、ハンターカブを転がして、登り口まで降りて来たカイ。

 ここで、郵便ボックスから落ちた緊急用具に含まれていた、パンク修理材を使用し、どうにか自走して、赤金の家まで走り始めた。

 おまけで変形したマフラーからも、一応、変な音はしない。

 だが、赤金の家まで帰ったら、しっかり点検しなければ、何がどう壊れたかは分からないだろう。

 そして、郵便ボックスを壊してしまった。それは、カイにとって、大きな痛手だった。

 果たして、郵便ボックスを壊してまで行う価値があったのか。

 それは、アカネの反応で分かるだろう。


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