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三宅町の赤いカブ  作者: Elena
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三宅町鉄道沿線地域

 三宅町市はかなり広い町だ。

 と言うのも、先の令和の大合併で、山を越えた白上市と合併したからだ。

 そして、そんな三宅町市には、一見どこにでもあるローカル線が走っている。

 三宅町鉄道。

 旅客は黒字。そして、貨物列車も走っているがこちらもギリギリ黒字をキープしていた。

 その理由として、三宅町と白上の合間には、伊地山と二ノ山による急峻な山岳地帯があり、美奈川の渓谷に沿って走る三宅町鉄道の他に、三宅町と白上を繋ぐものは、片側1車線道路ながらも、急峻な道故に、2tトラックやマイクロバスでさえも通行に難儀し、大型観光バスや大型トレーラートラックは通行不能の県道だけ。

 何度か、トンネル工事やバイパス工事も試みられたのだが、硬くて厚い岩盤や大破砕帯、地盤沈下による大規模災害誘発により、もう諦められてしまい、令和になってからは、計画すら立ち上がらなかった。

 そのため、同じ三宅町市にありながら白上は陸の孤島と化していた。

 ところが、白上は石灰石やセメントの産出地。更に、堤頂85mの白上ダムと、白上水力発電所等があるため、多くの人が住む町だった。

 そして、産出物輸送やダムの資材と人員輸送にも、鉄道は欠かせない物だった。

 今、三宅町鉄道の線路を、DD51に牽引される6両編成のコンテナ貨物列車が走り、その横の県道を、赤いCT125に跨り、白上へ向かうカイの姿があった。

 そう。

 結局、行きつく先は、汽車見の提案を飲み、周囲の町から隔絶された、陸の孤島のような白上の町にある、赤金家に行くことだった。

 あの後、意地を張って生活をしていた。

 だが、長時間労働の疲労は身体を蝕み、学校にも行ってはいるが周囲が見えなくなり、生きているのか死んでいるのか分からぬ状態にまで追い込まれた。そして、自分でも気付かぬ内に、汽車見の渡した連絡先へ連絡を入れ、言われるままに、高校の転入手続きから、引っ越しの手続きまでしてしまっていた。

 気が付いていた時には、カイは、北関東の某県にある三宅町市白上地区への引っ越しと、三宅町市の中心地にある高校への転入が決まっていた。

 引っ越す日、やって来たJR貨物コンテナを乗せたトラックに驚き、三宅町市白上地区がどんな場所かを知った。

 それまで過ごしてきた自宅は売りに出され、そんな勝手を父母は許してくれるかと思い、後ろ髪を引かれながら、旧自宅を出発し、父の形見のCT125の郵便ボックスに、父と母の遺影代わりの小さな写真と、バイクの予備パーツ類を積んで、遠く離れた町へと走る。

 並走して走るDD51が牽引する貨物列車には、自分の荷物が載せられている。

 チラリと横目で、DD51を見、先頭の赤いDD51と並んで、自分の赤いCT125を走らせる。

 バイクまみれで、友達も作らなかったカイの気晴らしは、小さなローカル線に乗りに行く事。バイクに乗れない時は、バイクの代わりに、ローカル線で旅をしていた。そして、今、目の前にあるのは、そんな時の自分なら飛びつくように乗ったであろう路線。

 しかし、鉄道好きとは名乗らない。

 あくまで、自分はバイク好きで貫き通す。

 理由は、近年の鉄道オタクのマナーの悪さに、もし鉄道好きと分かれば、また腫れ物を見る目で見られるのが目に見えているからだ。

 5キロ程度の渓谷沿いの線路と県道が並走する狭い区間を通り抜け、また少し走ったところで、安全な場所にバイクを止めて、地図を見るが、諦めて、一度、最寄りの駅まで走ると、そこに、先ほどまで並走していたDD51の貨物列車も止まっていて、端の方の小さな貨物ホームでコンテナを下していた。小さいコンテナヤードを備えた小熊駅。

 島式ホームに2面の旅客ホーム。そして、その他にコンテナホーム用の貨物側線を1本備えた駅。

(えーっと。ここが駅だから、ああ。分かった。)

 と、カイが頷いた時、「ピッ!」と汽笛を鳴らし、DD51の貨物列車は終点の白上口駅を目指して出発する。と、同時に、コンテナを1つ積んだコンテナトラックが駅を出て行く。このサイズのコンテナトラックなら、急峻な県道をギリギリ通れるが、場所によってはすれ違い不能という有様。輸送効率は悪いが安全を考えるなら鉄道輸送が妥当だろう。

 おそらくは、自分と同じ場所へ向かうと思われるトラックの後に付いて、CT125を走らせる。もう夕方だ。

(明日は学校に行って、すったもんだの後、授業に合流か。どうなることか。)

 と、思いながら走る、夕方の町。

 カイは未だ、赤金家に住むに当たっての条件を知らされていない。なので、この旅は、奴隷にされる者が、金持ちの家に押し込まれるような物だと思い、楽しみも無くなると思った途端、DD51と並走して楽しんでやろうと、さっきは、貨物列車と並走した。

 やがて、前を走るトラックは、大きな敷地を持つ家に入って行く。

 住所によると、どうやらここが、カイの住むことになる、赤金家のようだった。


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