湧き水
三宅本町駅まで真っ赤になって駆けてしまったアカネ。
なぜ、根利にあんなことを聞いたのか分からないし、根利に聞かれた事を答えられない。
(なんで、あのファザコンの事、聞いてんのよ。私!)
と、アカネは思いながら、列車に乗る前に、瓶入りのオレンジジュースを自動販売機で買って、列車に乗る。
DD51と35系客車で編成された列車だ。
客車のボックスシートに座り、窓を開ける。
35系客車の窓の下には、小さなテーブルがあり、そこには栓抜きもついている。なので、それを使って、栓を抜き、オレンジジュースを飲んでいたら、発車時刻になり、列車はガクンと一揺れして発車する。
窓から入って来る風が心地良い。
伊地山と二ノ山の合間を流れる美奈川渓谷沿いの区間に入る頃になると、オレンジジュースは空になったので、瓶をデッキのゴミ箱に放り込んで戻って来ると、二ノ山の裂け目から水が噴き出して滝になっている場所が見えた。
「バイパストンネル作ろうとしてダイナマイト爆破して、鉄砲水がドカーン」などと、カイは言っていた。
後半の「ドカーン」の部分でやけにチャラけていた。
だが、真相を知っているカイ。
「ダイナマイト爆破ドカーン」の流れは、真相を知っているのを隠そうとしていたようだった。
小熊駅で列車を降り、家に帰ると、プリント2枚の課題を片付ける。
(遊び歩いてばかりのあのバカ、どこで勉強しているのだか。)
と、アカネが思う。
課題を片付けたら、タキが「夕食だ」と声をかけた。
今日の夕食はハンバーグ。デミグラスソースが絶品だ。
「カイは単発バイトだから、遅くなるってな。」
「-。」
「食事の面倒は見てくれないとはいえ、冷や飯ではなぁ。」
タキは、ラップしてあるカイの分の夕食を見る。
「ところで、カイはアカネではなく、別の子とくっ付いたそうで―」
ガタン!と、アカネが勢いよく立ち上がった。
「その話、しないで。」
アカネは暗い声で言った。
(なるほど。アカネにとって初の事だな。)
と、タキは思った。
アカネは頭を冷やしたかった。
なので、食後、風呂に入って、夜風に当たりながら、バルコニーで紅茶を飲む。
今日は異常な量だ。ウォーターサーバーからケトルに移して沸かしたお湯で紅茶を何度も入れては飲む。何かやらかして、自棄酒を飲むかのように。
バイクの排気音が聞こえて来た。
バルコニーから見下ろすと、門を開けて、赤い郵便バイクが入って来た。
郵便バイクにしては少し大きいが、後ろの赤いボックスは郵便バイクの物。
ヘルメットを脱いだカイは、「ふうっ」と一息吐いて、屋敷に入った。
ポットの紅茶が無くなり、また、ケトルで沸かそうと、ウォーターサーバーに向かったが、水が出ない。
「あっ」と気付いた。
ウォーターサーバーの水が、空っぽだった。
なので、スペアのタンクを取りに、一回のリビングに行く。
「ええ。バイク好き同士で、良くしてもらってます。」
と、カイが言い、それにタキが「それは良かった。」と頷いているのを横目に、キッチンに行くが、空の物しかなかった。
「タキ。水は?」
「アカネが今日、がぶ飲みしまくって、全部空っぽよ。」
と、タキが答える。
「マジかよ。明日の放課後、汲みに行こうにも明日は放課後に予定が―。委員会の予定があるから、終わってからだと、登れない。」
アカネ、頭を抱える。
「あぁっ。私も明日は所要で汲みに行く事は―」
タキも首を横に振る。
「何か?」
と、カイ。
「アカネは勉強の合間、風呂上りに、二ノ山の湧き水やそれで淹れた紅茶を飲むのだよ。特に、風呂上りには紅茶を飲んでいるんだ。その二ノ山の湧き水が―」
「このざまよ!」
アカネはまるで、無くなったのは自分のせいだと言うかのように、空のポリタンクを蹴飛ばす。
「二ノ山の湧き水?ああ、ダイナマイトドカーンの?えっあそこって行けるのですか?」
と、タキに聞く。
「あそこではない。二ノ山山頂だ。って言っても、正確には、山頂カルデラの中だ。二ノ山は休火山で、2万年前の大噴火で山頂がぶっ飛んで、7峰の山頂からなる、今の形になった。その時に出来た、山頂カルデラの中に流れ込む湧水がある。その中でも、黒部山の袂の湧水。それが、アカネのお気に入りだ。どうやら、飲みつくしたのは、お前のせいだって言いたいらしい。」
と、タキが説明する。
そして、それを聞きながら、昼間の事を思い出す。
「二ノ山は、バイクでも登れて、偶に攻めてんの。神梅と一緒に。」
「私のカブでも登れるから、物足りないかもしれないけど。」
「って言うか、この前は5人で一緒に上ったし。」
「興味あるね!なら、みんな予定が無い日って言うか、来週の土曜日は空けとけよ!さすがに、今週の土曜日はね―。」
要するに、二ノ山はバイクで登れる。
もう食べ終えた夕食。カイは食器を片付けるのを忘れ、スマホで二ノ山を調べると、確かに、バイクで登れるようだった。
そして、赤金家からそれほど遠くない場所に、二ノ山白上宮下口という登り口があり、そこからバイクで登れる事を知った。
「出来れば、今週末に汲みに行きたいのだけどなぁ。」
と、タキは言いながらカレンダーを見る。
「山を登るのは、大変だろうけど、楽しいのかもなぁ。」
言いながらチラっと、タキがそれを見て頷いたのに、カイもアカネも気付かなかった。
だが、カイは(どうせ登るのなら、下見ってことで)と思った。




