体験走行
今、チェッカーフラッグが振られた。
15番グリッドからスタートし、結局のところ15位でチェッカーを受けた根利。しかし、走り切れた事に満足していた。
この後は、別クラスのレースが行われた後、カイ達全員が先導車に引っ張られる形でサーキットをクルーズ走行する体験走行。しかし、時間が時間なだけに、参加者は少なく、参加するのは事前予約をしていたカイ達6人だけだった。
日産フェアレディZのセーフティーカーに先導され、コース2000を5周する。高速走行ではないが、カイにとっては初めてのサーキット走行なのだが、コースに入る際、「どうせなら」と、先導車の後。つまり一番前で走る事になった。
ピットロードに出た時、メインスタンドを見ると、まだ帰っていないらしき赤金親子が見ていた。
そして、一瞬後を見ると根利がヘルメットの横に着いたGo Proの電源を入れて「フフっ」と微笑んでいた。
信号が青に変わり、先導車に続いてコースインする。
(オートレースのオーバルコースしか知らなかった俺にとって、ロードコースは広い。世界が広い。)
1コーナーを抜けてS字に入った時、カイは思った。
1ヘアに入る。
思い切りバイクを横にして抜ける。
80Rを抜け、2ヘア。そして、裏ストレートを駆け抜けると、最終コーナー。
ロードコースの中ではかなりコンパクトにまとまった筑波サーキット。
だが、低速な体験走行でも、ロードコースが初めてのカイには広大に感じた。
次の周回で、少し速度を上げる。
1周目の平均速度は50キロ程度だったのが、60キロ程度まで加速。1ヘアを立ち上がり、ダンロップブリッジまでの間の加速。前方に見える筑波山を見て、(このまま、筑波山まで駆け抜けていきたい。)と思ったカイ。根利にお願いして、筑波山に寄ってから帰ろうかとも考える程。
裏ストレートから最終コーナーを60キロ程度で駆け抜ける様は、筑波山から吹き降ろして来る風になったようだった。しかし、カイと神梅のカブは最高速度60キロが限界。これ以上は速く走れない。
それでも、郵便ボックスを載せ、郵便バイクの姿そのものであるCT125が筑波サーキットを走っている。体験走行ながらも、カイはその時、死んだ父親の背中を見た気がした。
その姿を、赤金アカネは何とも思わず見ていた。
「もういい。帰ろ。母さん。」
と、アカネ。
「まぁまぁ。もう少し見ておこうや。ファザコンって揶揄するカイが、体験走行を終えてどんな顔をするのかをね。」
「興味ない。」
「私は興味ある。タキのお相手の息子が、何を見たのかをね。」
「それを私に見せてどうするのよ?」
「見せてから考える。」
「意味不明。」
体験走行を終えた6台のバイクが、メインストレートに戻って来た。
カイのCT125が、一番前のグリッドに止まる。
その状態で記念撮影をして貰い、ピットに戻って行く。
戻り際、カイは隣のグリッドに居た根利に何か言うのだが、根利が首を横に振って何か言うと、カイはそれにがっくりしている。
「あーりゃま。」
と、美月は笑う。
(バカじゃないの?ここで告白するなんて。)
と、アカネも鼻で笑う。
「慰めてやるか。」
「さぁ。勝手に自慰でもしていろっつーの。」
美月はニヤリと笑って言うが、アカネは一蹴する。
そして、赤金親子は先に、カムリで出発する。それから数十分後、カイ達が筑波サーキットを後にする。
(意外だなぁ。ここから筑波山って、遠いんだな。筑波山神社の鳥居が見えたから、近いのかなって思ったんで、根利に「筑波山まで寄り道したい」って言ったんだけど、まさかここから25キロあるとはなぁ。)
と、カイは思いながら、筑波サーキットを後にする。
同じ事を根利も思って、初めて筑波サーキットに来た時に筑波山まで足を延ばしたらかなり離れていて、三宅町に帰ったのは深夜0時を回ってしまったと言う。
(でも、来てよかったな。筑波サーキット。)
と、カイはミラー越しに、後方へ離れて行く筑波サーキットを見ながら思った。




