告白・そしてレースへ
「いってらっしゃい」と、レースに出て行く根利を見送るカイ。
「うん。行ってくる。」
根利は不愛想に頷いた。
「さっきは、何の話してたん?」
と、神梅が聞く。
「なんでもないよ。」
誤魔化すカイ。
サインティングラップを終え、グリッドに着く根利。
スターティンググリッドはかなり後方15番グリッド。
初のレース故に、これは仕方がないかもしれない。
まして、現役高校生がスポット参戦でもレースに出ると言うだけでも凄い事。
なので、場内放送でも「異端児」と言われている。が、カイにとって、高校生の年齢というのはオートレース養成所の入所要件を満たす年齢であり、卒業したらそのままオートレーサーとしてデビューするのだから、高校生のレーサーがいてもなんら不思議に感じない。
スタートまでの短い時間、ピットクルーもコース内に入ってライダーと話す事が出来る。なので、根利はその中にカイを見付けると、「ちょっと来て」とジェスチャーする。
「どうしても、本当の事を言えないのならそれでいい。でも、仲間として私はカイを見ているだけに、残念にも思う。」
と、ヘルメット越しに、カイの耳元で言った。その声は暗く低い。
「15番グリッドゼッケン660!根利-」
と呼ばれるも、根利はなんのリアクションもしない。
カイは「実は―」と言いかけたがその時、大間々と黒保根に「早く出ろ!」と抱え込まれてコース外へ引っ張り出される。スタート前のウォームアップラップ開始3分前で、ピットクルー1人を残し、他のクルーはコース外に退避だ。
だが、根利は「カイを残して」と言った。
「えっ?」
「いいから。残して。」
「-。分かった。」
と、大間々。大間々はカイを放す時「上手くやれ」と耳打ちしたが、その意味が分からない。
「二人きりよ。」
と、根利。
「怒らないで、っていうか、驚かないで聞いて欲しい根利。実は俺、さっき嘘言った。」
「うん。そうだろうね。」
根利は暗い声。いつものアクセル全開娘ではない。
カイは声を震わせながらも、(やっぱり言わなきゃだめだよな。)と思い、心を決めて行った。
「俺、実は居候している。赤金の家に。」
根利はヘルメットの中でどんな顔をしているのか分からなかった。
だが、驚いていることは間違いないだろう。
「死んだ親父の伝手らしい。どうも、親父と赤金の家の遣いがその―」
「分かった。話してくれてありがとう。」
カイはこれで、根利からは腫物を扱う目で見られるのだろうと思った。
だが、根利はカイの方を見て顔を寄せる。
「そんな深刻な顔しないで。言ったでしょ?変な目で見ないって。大丈夫。私とカイの秘密にするから。それにさ、仲間を信じなきゃ、バイク乗りは務まらないんだから。私が怒ってたのは、カイが私の事信じてくれてないから。信じないで、嘘言うから。私が仲間って思っているのに、何その態度って思ったから。」
「仲間-。」
「そっ。カイはどう思っているのか知らないけど、私はそう思う。だってカイは今日、筑波サーキットまで一緒に来てくれたから。今までだって、私達と一緒に学校で飯食ったり、遊んだりしていた。私にとっては、大切なバイク仲間よ。」
カイは改めて、根利の顔を見ると、根利はヘルメットの中で笑っていた。
スタート1分前を告げられる。
「さっスタンドを下ろして。カイも退避よ。」
と、根利。カイがスタンドを下ろすと、根利はエンジンをかけた。
退避する際、カイは根利に、
「いってらっしゃい。」
と声をかける。
「うん。行ってくるね。」
と、根利は頷いた。
ウォームアップラップに出て行った根利。ここでスタート練習もしている。
そして、またグリッドに戻って来た。
シグナル注目。レッド点灯。今、ブラックアウト。
全車一斉にスタートを切る。根利は、一回ウィリーしてしまったが、そのまま加速して行き、1コーナーへの上り坂を一気に登ると、1コーナーへ消えて行った。




