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三宅町の赤いカブ  作者: Elena
25/55

パドック

 食堂を出て根利と二人、バイクが止めてある方向とは反対方向へ歩くカイ。

 右側には池を挟んで最終コーナー。左側には1ヘアのスタンド席。

 筑波サーキットの周囲には、農業用水路の余水調整池があって、ここに集まる虫も多い。

「ちっ!」と、カイは舌打ち。

 少し大きな虫が、身体に命中したからだ。

 それを祓う。

「何か話があるんじゃないの?」

 と、カイ。だが、根利は黙りを決める。

「根利-。」

 また声をかける。

 根利はふと振り返る。

「はぁっ」と溜息を吐いたように見えた。

 そして、顎で何かを示した。

 それが通じなかった。なので根利はスタスタと、カイのところに歩み寄り、耳元で「あそこへ行くぞ」と言った。

「えっ?」

「いいから来い。」

 と、根利は強引にカイの身体を引っ張って行く。

「えっちょっと―」

 戸惑うカイを尻目に、根利はズンズンと引っ張って行く。

 だが、いつものアクセル全開と言う様子ではない。

 かなり不機嫌に見える。

(何か不適切な事をしたのだろうか?でも、レースの事に関してはまるっきり素人だ。確かにオートレースには関わったのだが、オートレースとは世界が似て似つかぬ物。でも、根利にとっては、言い訳に過ぎないか。)

 と思いながら、引っ張られるカイ。 

 そこは、コース2000の80Rコーナーが見られるスタンド席。その一番上まで引っ張られる。振り返ると、コース1000とその左側に、オートレース養成所のオーバルコース。そしてその向こうには、筑波山が見える。

「ここから見る筑波山は綺麗。でもここは、筑波サーキット名物をまともに喰らう。あの綺麗な筑波山から吹き降ろしてくる強い風をまともに受ける。」

「-。」

「浜松ではどうだった?」

「よく、覚えていない。いつも、親父の背中を見ていたから。だから、親父死んで、目指すものが無くなって、学校でも煙たがられて―。」

「それで、華族という奴等に引き取られって、三宅町に来たか。」

「えっ?」

「ん」と、根利は顎で、芝生広場を指す。

 そこを見て「あっ」と言ってしまった。

「バレないって思った?」

「まぁ、三宅町に行くときにちょっとね。」

「そう。なんか、その程度では無いように見えるけど。だから正直に話して欲しいの。三宅町に行くきっかけになっただけなら、どうして、あの華族がここに?それも、カイが連れて来たのではなく、まるで監視するかのように着いてきている。トヨタのカムリでね。」

「-。」

「話して欲しい。どんな関係でも、私は縁切らない。だって、私達は―」

 と言いかけた時だった。

「何がやっちゃっただ馬鹿野郎!ぶち殺すぞゴルァ!遊んでんじゃねぇんだよテメェこの野郎!ワレェ!!叩き出してやるぞオンドリャー!!」

 と、オーバルコースの方から怒鳴り声が聞こえて来て、根利も言葉を飲んでしまった。

「うっわぁ。エンジン掛けで、ペダル折っちまったのか。」

 と、カイは青い顔で言った。

 まだ怒鳴られている訓練生の様子がスタンドからも見える。コース2000を挟んだ反対側のスタンドに居た数人のギャラリーも、突然の怒鳴り声に驚いている様子で、状況が飲み込めず凍り付いていた。

 根利は言いかけたセリフを飲んで、また言うタイミングを逃してしまった。

 そうしているうちに、別のクラスのレースが始まってしまった。

 話をしたくても、聞き取れない状態だ。

 カイは一瞬考える。

 そして、結局は嘘で塗り固めようとした。

「奨学金。そう。奨学金、あいつの家の貸付で―。だから、その―。変な事しないように監視してんだよ。」

 根利は再度、下に居るアカネとその母に視線を飛ばし、そしてカイを見た。

「分かった。あっそう。」

 と、根利は言った。そして、スタスタとスタンド席を降りていく。

 カイもまた、それに続いて降りていった。


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