カルチャーショック
「ええ。もちろんです。ハメを外さない程度に。」
と、カイは電話口の向こうのタキに言う。
チェーン店であるカラオケへ連れられて、今日知り合った奴等と遊んでいるのだが、肝心なカラオケで歌える曲がまるでない。そもそも、カイは友達と遊ぶという基本的な事すらやったことが無いので、やることなすことみな初めての事。カラオケに至っては、単独で歌わず、大間々や黒保根と一緒に歌っていた。
そのままの流れで、併設されたゲーセンに入るのだが、そもそもそんなところに行くというのも、前にいた町ではなかったカイは、周りをきょろきょろ見てしまう。
その様子を見て、「今までどんな生活をしてきたんだよ」と言われてしまう。
プリクラと言う物を撮った時には、笑えないでいたため、痺れを切らした根利にくすぐられて無理やり笑わさせられ、カイは根利に恐怖を覚える程になってしまった。
三宅町の駅前のファミレスで夕食を食べる時には、カイはカルチャーショックに襲われていた上、経験したことのない放課後の過ごし方に疲れ切っていた。
「今の今まで、どんな生活してきたの?」
と、相生。
「バイトとバイクと、レースの勉強。それにしか興味なかったから。」
カイは答える。自分が、オートレース養成所の入所試験に合格していたのに、経済的理由で断念してここへ来た事は隠しながら。だが、レースと言う単語が出てしまった。
「あっ親父。親父の背中を追って―」
「そういえば、筑波サーキットのオートレース養成所。入れる年齢よね。私達。」
と、根利。根利は筑波サーキットをCBR250Rで走っていた。そうなれば、筑波サーキットに併設されているオートレース養成所だって、目に留まるだろう。
「受けるために、レースの勉強をしていたの?」
と、神梅。それに、首を横に振る。
「なら、なんのために、レースの勉強をしていたの?」
神梅に問われても、答えられない。
頭に浮かんだのは、中学時代に前にいた町で父の職業を話した時に、周囲から向けられた冷ややかな視線。そして、クラスメイトは、オートレーサーの父を持つカイを煙たがり、ついには先生からも煙たがられた。
「公営」とは言え、所詮はギャンブル。故に、煙たがられるのも分かるが、カイはそれも怖い上、その世界に行けたのに、行けなくなったとあれば、何を言われるのか。同情を誘っていると思われるのが関の山だろう。
ところが、隠すのには限界がある。
夕食後、根利は手をワキワキさせて、カイに近寄ってくる。
「何か隠しているでしょう?」
「なっなにを―?」
「隠し事、言わないならまた、くすぐり攻撃しようかな?」
カイ、どうしようか目を泳がせる。
「分かったよ。」
と、カイは正直に、前にいた町で何をしていたのかを話す。
そして、オートレーサー養成所の試験に合格していた矢先に、父が死に、この町へやって来たことも話した。
きっとこれで、こいつらも自分を煙たがる。そう思った。
「受かってたの!?」
と、根利が言うのを皮切りに、
「すごい!」とか、「頑張ったんだね!」と言った歓声が起こったのだから、カイは驚いた。
「なんで、驚くの?」
と、カイ。
「よし。フェアになろう。」
と、大間々。
「俺もさ、目指してたんだ。トライアル競技の方だけど。」
そう、切り出した大間々。
確かに、大間々のKLX250は自衛隊でも使用される、オフロードバイクでもあり、トライアル競技には特化しているだろう。
「でもなぁ。ライセンスこそ取ったものの、資金不足でなかなか出られないから、根利と同じく、偶にコース走って楽しむだけ。だから、経済的理由で受かったのに、入所を断念したって言うカイの気持ち、痛いほど分かる。これは、同情とか、そういう意味じゃないよ。それに、証拠。」
大間々は言いながら、定期入れに入れた、競技用ライセンスを見せた。
「そうだったのか。」
と、カイ。
「だからさ、オートレーサーの夢が挫折したからって、変な目で見ないよ俺たち。だって、同じバイク乗りだろう?」
「あっああ。」
「改めて、よろしく!」
と、皆が言うのに、カイも「よろしく!」と笑って答えた。
「あっ笑った笑った!」
と、根利。
そう。カイはずっと、笑えなかった。
生きるのに必死だったから。
「何をするにしても、まずは笑わないと。ね。」
と、神梅。
「じゃあ、明日また学校で!」
そういって、皆と分かれる。
カイは、三宅町鉄道の沿線を、貨物列車とすれ違いながら家路を走る。
(町と周囲の人が違う。あの町では、こんな事なかった。まだ、赤金の家の条件って言う課題はあるけど、なんとなく、この町でやっていけそうな気がしてきた!)
美奈川渓谷を抜けて、白上の町に入った時、カイは初めてこの町へ来た時とは打って変わって、自信に満ち溢れていた。




