【短編】騙すとはこういうことです
「リリアーネ・ライーシュ!貴様との婚約を破棄する!貴様は千年に一度の美女のウェリネを虐げてるらしいな。だから俺は可哀想なウェリネと婚約をする!」
目の前で豪華な椅子に座っている男、この国の第一王子、ルクス・ライムント殿下は私に婚約破棄を告げた。その後ろには演技で体は震えているが勝ち誇った顔のウェリネが見えている。
私は絶望の表情をつくってルクス殿下を見上げる。
「そ、そんな。私はそんなことをしていません!大体、証拠はないでしょう?」
「証拠は、ある!ウェリネがそう言っているからだ」
おかしなことを言っているな、と思うけどそれに触れない。そして私は頑張って虐げられている令嬢を演じているウェリネに問いかける。
「ウェリネ様。私、そんなことをしてませんわよね?」
「リリアーネ様……。本当に申し訳ありません。私、もう我慢の限界なのです。リリアーネ様の約束通り……ルクス殿下には言わないつもりだったんですけど……」
そう言ってさっきよりも震えだすウェリネを見てルクス殿下の口角が少しあがった。それは、ルクス殿下の後ろにいるウェリネには見えていないだろう。
そしてついにウェリネは泣き出した。傍から見ると確実に私が悪いが、実際私は何もしてないので強気の発言をする。
「だから、私はなにもしていないです。この方の勘違いでは?」
少しウェリネを睨みながら言う。するとウェリネは私をキッと睨み返してルクス殿下に「リリアーネ様が……酷いです!」と自慢の可愛い声を使って言った。
「ふんっ!ウェリネが泣くようなことまでしたとは。おい!こいつを連行しろ」
ルクス殿下はそう近くの騎士に命じた。第一王子の命令を無視するわけにはいかない。私はすぐに騎士に囲まれる。
「やめてくださいませ!なになさるんですか!」
そう叫んでも、誰も聞いてくれない。私は声は出すが暴れたりはしないで大人しく連れ去られていった。
私は貴族用の牢屋に入れられた。これが普通に起きた出来事だったら絶望するが、そういうわけでもないので私はルクス殿下を待つ。そして、少したったとき。ニヤリと笑っているルクス殿下がやってきて、私にこう、言った。
「最高の演技だったな」
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「はぁ……本当になんでこんなことに……いつ選択を間違えたのよ!」
私、ウェリネは南京錠をつけられた檻の中でギリッと奥歯を噛み締める。
「なんで……」
壁を蹴る。その瞬間脱走しないように見張っている騎士に「静かにしろ!」と叫ばれ、私は黙った。
そして、小さく呟く。
「私が幸せになるはずだったのに……」
なんで私が閉じ込められることになったかというと、時間は少し前に遡る。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
私は《リリアーネに虐げられている可哀想なウェリネ》を完璧に演じ、リリアーネを追い出しルクス殿下の婚約者という立場を手に入れると思っていた。そして、リリアーネが騎士に連行されていく。
そこまでは私の計算通りだった。だけど。ルクス殿下はとんでもないことを言い始めた。
「リリアーネを陥れようとした罪で連行する」
「は?」
何を言っているのか。なんで?ここまで順調だった。どこで……リリアーネを陥れようとしているのがバレた……?
嫌な汗が背中に垂れていく。さっきのような《リリアーネに虐げられている可哀想なウェリネ》の表情も出来ていないのが自分でもわかる。そんな私を見てルクス殿下は見たことのないような顔で私を見下ろす。
「その顔を見ると、確定だな。俺はリリアーネを連れ戻してくる。その間に、ウェリネを拘束せよ」
そう言ってルクス殿下はどこかへ行ってしまった。私はルクス殿下の背中を呆然と見つめていると。急に騎士に体を床にドン!と押さえつけられる。
「痛!なにすんのよ!私は千年に一度の美女よ!?どこかに傷がついたらどうすんのよ!」
暴れてみるが、ビクともしない。なんと声をかけようが「ルクス殿下の命令ですので」しか口にしない。
そして私が床に押さえつけられているところにルクス殿下とリリアーネがやってきて、椅子に座る。
「……おい」
「なによ!さっさとこいつ、なんとかしてよ!」
「……こいつ?」
「あっ……えっと、この方をなんとかしてください!」
そうルクス殿下に向けて嘘泣きを少しして言うと、ルクス殿下は騎士に「離せ。あぁ、手錠をかけとけよ」と言ってくれた。手錠をかけられるのは嫌だが床に押さえつけられるはもっと嫌。
あれ……?ルクス殿下は私が床に押さえつけられているのを見ていると助けてくれた……?ていうことは、まだ私のことが好きなんじゃない!
私はそう思って、ルクス殿下の隣に座りにいこうとした。するとさっき私を床に押さえつけ、手錠をかけた騎士が私の前に立ちふさがる。
「ルクス殿下に近付かないでください」
「なに?私はルクス殿下の婚約者になるのよ」
騎士が「これ以上近付くなら貴方を刺します」と言うので仕方がなくルクス殿下の向かい側の椅子に座る。
「それで、ウェリネ。弁解はあるか」
「ありますわ!私はこのリリアーネ様に虐げられていましたの!私の宝石も、ドレスも、リリアーネ様が奪っていって……ルクス殿下に愛されているのは私だからといって、暴力も、うけてきました……」
《リリアーネに虐げられている可哀想なウェリネ》を演じて、私は下を向いて涙を流す。体は少し震わせて。
「俺が……ウェリネを愛している、と?」
「はい!だって、そうでしょう?」
「違うな。俺が愛しているのはリリアーネ、一人だけだ」
その言葉に私は驚愕する。だって……ルクス殿下は私がリリアーネの虐げられていると言ったらいつも慰めてくれたから。一緒にリリアーネに怒ってくれたのに。
嘘でしょう……?どういうこと……?そう思っている私をお構いなくルクス殿下は声を出す。
「まぁ、本当にウェリネがリリアーネに虐げられているかはこれでわかる」
ルクス殿下が二枚、模様が入った紙を取り出した。なんとこの紙は、『自分は嘘をついていない』と言って本当に嘘をついてなかったら金色に光るらしい。だけど『自分は嘘をついていない』と言って嘘をついていると紫色に光るそうだ。こんなもの、みたことがない。
「この紙の上の隙間にリリアーネはリリアーネ・ライーシュ、ウェリネはウェリネ・チェリカーと書け」
これが本当に嘘をついたら光る紙だったら非常にまずい。そう思って名前を書くのを渋っているとルクス殿下が「書かないのならウェリネが嘘を言っているということになるが」と言ったので急いで名前を書く。
(なにかの間違いで、金色に光って)
そう願ったが、私が名前を書いた紙は紫色に光ってリリアーネが名前を書いた紙は金色に光った。
「これで確定したな。ウェリネが嘘をついていることが」
「……」
私は無言を貫く。するとここまで一言も言葉を発してなかったリリアーネが口を開く。
「なんで私からルクス殿下の婚約者の立場を奪おうとしたのです?ルクス殿下がかっこいいから……というわけではないしょう?」
そのリリアーネの言葉に私は考える。確かに、ルクス殿下みたいなかっこいい婚約者がいるのが羨ましいから、というのもあった気がする。だけど……あ、そうだ。思い出した。
「私は千年に一度の美女で一番この世界で幸せになるはずだったのに、あんたのほうが幸せそうな顔をしていたからよ」
私はただ、リリアーネが羨ましいだけだった。だけど、リリアーネに謝ろうとかはぜんっぜん思ってない。だって私が一番幸せになるはずだったのに幸せそうにしているから。
「でも!騙すなんて酷いじゃない!」
そう叫ぶとルクス殿下はなにを考えているかよくわからない顔をした後に声を出す。
「先に騙したのはそっちだ。それに、よくこの国ではいうのはないか。『人を騙すなら自分が騙されても文句は言えない』、と。残念だったな、ウェリネは俺達を騙せてなかった。騙すとはこういうことだ」
そして私は騎士に連行させられる。そしてこの部屋の入り口まで来たときにルクス殿下が馬鹿にするような笑みを浮かべ、私に向かって言った。
「ちなみに勘違いしているようだからいっておくが。千年に一度の美女はウェリネではない。リリアーネだ」
私は酷いことをリリアーネにたくさんしたのにそれについて一言も責める言葉を言わなかったリリアーネのほうが性格も美女に決まっている。だから私は肯定という意味で無言を返しといた。
◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇
「でも……本当に悪いのは私なのよね……」
誰にも聞こえない声で呟く。ちゃんと反省はしている。だけど、おかしいと思う。リリアーネはいい生まれで、かっこいい婚約者もいて。
「私と違って、性格がいいから……?だけど、本当にずるいわ……!私と違って幸せになれて」
本当に私はリリアーネが羨ましいだけだった。だけど素直じゃない今はそれを気付いてない。
それに気付いて、性格を改めたのは十年後だった。
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「お母様!ほら、見てくださいませ!この湖、お父様の目の色とそっくりですわ」
私とルクス殿下はあの後、すぐに結婚し。今は二人の子供がいる。そして、もうあれから十五年ほど経った。
ウェリネはどうなったかと言うと。心を改めて私の側近になった。
ルクス殿下……今は陛下だけど。ルクス陛下は私がウェリネを側近にすることを猛反対したけど私が何度もお願いしたら渋々了承してくれた。そしてウェリネは私の側近の中で一番優秀だ。結婚しないで死ぬまでずっと私の側近でいてくれるらしい。
別に行いすべてを許したわけでもないけど。ウェリネは優秀だったし心を改めてくれたので側近にいれた。ただそれだけだ。
今日はルクス陛下と結婚十五周年目で家族と隣国に遊びに来ていた。
「本当ね。透き通った水色が同じ色だわ」
そういって娘のルクアーナに笑うとルクアーナも笑顔で「お父様呼んでくるー!」といってどこかに行ってしまった。
そして。湖の近くのベンチに私は座る。隣にはウェリネが立っていた。
「もうあの時から十五年ですよね。本当に、あの時は申し訳ござ」
「もういいの!ウェリネはあの時と違うんだから」
そう言って私がさっきルクアーナに笑ったような笑顔を浮かべると、ウェリネはクスクスと笑って「ありがとうございます。邪魔はしたくないので、それでは」と言ってどこかに行ってしまった。
どういうことだろう?と首を傾げていると後ろから声をかけられた。
「リリアーネ」
振り向くと、ルクス陛下がいた。ルクス陛下を呼びにいったルクアーナはいない。多分どこかでウェリネと一緒に見ているだろう。
「どうしました?ルクス陛下」
「二人っきりのときぐらい、ルクスと呼び捨てで呼んでくれ」
「わかりました。ルクス、どうしました?」
ルクスは無言で私が座っていたベンチの隣に座った。そして私の手をとる。
「知っているか?俺達が、この国でなんて呼ばれているか」
「王族で一番仲のいい夫婦……でしたっけ」
「そうだ。王族は、というか国王になる人は恋愛結婚なんてあんまりしないからな。でも、俺は。ずっと愛している」
どうして急にそんなことを、と聞きたかったがルクスと唇が重なり、言葉が発せなかった。そして、唇が離れたとき。私は笑顔で言った。
「私も、ルクスのことを愛しています」
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