1. 宇宙の果てのサルベージャー
初投稿の鳥羽と申します。楽しんでいただければ幸いです。感想は返さないことが多いかもしれませんが、書いていただくと私が喜びます。
技術が進み、人口の97%が宇宙で生活するようにはなったが、一概に宇宙が安全と言うわけではなかった。宇宙のどこへでも現れるスクードと呼ばれる謎の存在が人の領域を侵し、辺境部には海賊が跋扈する。オマケにスクード対策に作ったAI兵器群が暴走して人口密集地に襲い掛かった。ダメ押しに、資源が豊富な場所な宙域では、正規軍の装備をつけた海賊まで出没する。その結果として、宇宙には多数の残骸が放置されることとなった。
そうして、そういった残骸を探すサルベージャーと呼ばれる人々が現れた。脱出のため放棄された船、撃墜された船をあさり、部品から船体そのものまでを持ち帰り、日々の糧を得ていた。
「無事なパーツはどこにある~♪ 僕の幸せそこにある~♪」
重戦闘艇から伸びた作業アームに固定された残骸を器用に分解しながら、テッドは高く売れそうな部品を漁っていた。
テッドはサルベージャーとしては5年目の中堅だが、前職が軍人であったため豊富な知識を生かして、それなりに名前も売れている。
二日前に見つけた脱出ポッドの残骸から残留エネルギーを辿り、中破した戦闘艇を見つけたのが先ほどだった。戦闘艇は高く売れる部品が多く、最近は大きな獲物が無く、部品漁りが主だったテッドは普段の倍以上慎重にサーチした結果だった。
「被弾箇所が貨物室に集中してて荷物はダメだったけど、フォトンガトリングが2丁とも無事だったのは幸いだ。あとは汎用小型ミサイルが4発も」
チラリと、格納されていくミサイルコンテナを見て、アレだけでもここ一ヶ月の不調を取り返せる分の収穫に、思わずテッドも笑いそうになった。だが、売り上げを受け取るまでがサルベージという言葉もある。テッドは首を振り、邪念を振り払った。そして、先ほどまで固定金具を外していたサブスラスタを外し、部品をコンテナへとそっと納めた。ぐるりと残骸を見渡すが、もはや、残っているのは骨組みと装甲ぐらいだろう。残念ながら、彼の重戦闘艇ではこれら大きすぎては持ち帰れない。
「さすがにもうこれ以上は無理だな。コマンド、8番ワイヤーを低速で巻き上げ、作業状況を確認、以上」
『巻上げを開始します。状況確認、ミサイルの格納は終了しました』
テッドはワイヤーにつながれているコンテナにつかまり、貨物と一緒にゆっくりと自分の船へと戻る。その移動中も一切の油断はせずに、手元の端末でレーダーを確認していた。今は船を操作できる人間はおらず、自分も船外作業服しか着ていない。なにかに狙われたらひとたまりも無いのだ。
『隔壁閉鎖します。ご注意ください。……密閉完了、除染、与圧開始』
やっと船へとたどり着くと、今度は除染と与圧を行う。そして、宇宙服で与圧を確認すると、テッドはささっと宇宙服を脱ぎ、素早くコックピットへ戻り、真っ青な短髪をガシガシと掻いて、操縦席へと腰掛けた。そして、作業前に入れて温くなった飲み物で喉を潤して一息ついた。何年やっていても、この瞬間は思わずため息が出てしまう。
「ふぅ…、だが、これで借金も大分減るなぁ」
テッドは日ごろから大事に拝んでいる金色の狐の置物をなで、数分ゆっくりと寛ぐ。大漁のときは不思議と甘く感じる飴玉をゆっくりと味わっていた。
そして、飴玉を舐め終わると再度席に座りなおして出発の準備を始める。船が大破しているような危険な宙域に好んで残る者もいないだろう。先ほどとは異なり、手動で船に指示を与えていく。
「パッシブレーダーに不審物は無し。共振炉起動出力15%まで上げ。航路算定、フォルガース前線基地宙域外周小惑星M6M、アームリリース、アーム収納、以上」
『ステルスモード解除、出力上昇中、航路算定を開始します。アーム収納まで3,2,1,収納完了。航路算定が完了しました』
ガコンとアームが収納された音を確認すると、ベルトを締め、固定具合を確認する。自分の体が動かないことを確認すると緩んでいた顔が見る見るうちに鷹のようになった。
「全ステータスチェックよし、レーダー発振再開、目的地までオートパイロットで発進」
『発進』
テッドの欠伸と同時に、テッドのサルベージ船は目的地へと進み始めた。
二日後、テッドの船は母港であるドリームプレイスに戻っていた。距離的にいえば、一日と少しで戻れるのだが、三日以上徹夜していたテッドは、途中の小惑星に接舷し、仮眠を取った後に戻ってきたためだ。
「こんにちわ。やっぱり、港は落ち着くね」
「あら、テディ。ずっとここにいる私からすれば、いつもどおり騒がしいわよ」
テッドは不味い宇宙食以外を口に入れようと、寄港してすぐに売店に向かっていた。馴染みの店のカウンターには、気だるげなオークの店員がいつもどおりに座っている。彼女はシルヴィアといい、港の横で荒くれ者達を相手に食品や雑貨などを販売している。ダイナマイトボディで船乗り立ちを魅了し、2mを超えるジャイアントボディで手を出す馬鹿を一蹴していた。安全のためにおかれている防犯の金網がどちら側を守るものなのかは本人のいないところでよく議論されていた。
「で、今回はどうだったのかしら」
「ぼちぼちさ。バーガーLLを3つとコーヒーL」
ふーんと微笑みながら、シルヴィアは乾燥状態のバーガーを復元機に放り込み、コーヒーをカップに注いだ。復元機というのは乾燥食品に加圧蒸気によって元に戻す機械だ。食品の輸送コストを圧縮できるため、宇宙時代には無くてはならないものだ。
「バーガーLLが3つなんて、豪勢じゃない。ついに海賊業にでも手を出したのかしら」
「生きてる船に用事はないな」
テッドの注文が稼ぎに比例することを知っているシルヴィアはそういってテッドをからかった。
テッドが怠け者であることはステーションでは有名だが、頑固者ということも有名だった。このステーションには海賊もたくさん所属しており、軍属だったテッドは何度か誘われていた。だが、意地でも首を縦に振らず、それが逆に海賊から高評価をえていた。そして、その話が広まり、今では『解体屋』というあだ名がついている。
「でも、先々週はSEGの軽戦闘艇を6機落としたそうじゃない。帝国軍じゃ分からないけど、オークなら引く手数多よ」
「またあの堅苦しいところに戻るなんていやだね。年金ぐらいしか希望が持てない」
オークは徴兵制度があるため、シルヴィアも軍にいたことがあった。そして、職業柄、噂話が入ってくる彼女はテッドの腕前が異常に高いことに気がついていた。
「弾代だってタダじゃないのに」
「たまには戦わないと鈍るからね。あと、CPBCしか使ってないよ」
シルヴィアは唖然として一瞬固まったものの、あり得ないことではないかと納得し、注文品を袋に入れて金網の真ん中に設置されている回転扉へとおいた。
「ミサイル無しとは恐れ入ったわ。仕事を間違えてるにも程があるわね。支払いは?」
「ステーション通貨で。1760でいいかな」
回転扉の手前側に代金を置くと、シルヴィアがくるりと回転扉を回し品物をテッドに渡した。テッドは中身を確認すると、バーガーを取り出して、一口かじった。
「うん、うん」
そして、テッドが船が着陸してあるスペースへ戻ろうとすると、シルヴィアは何かを思い出し、テッドを引き止めた。
「まいどありぃ。ああ、テディ。そういえば、アルドア様が探していたそうよ」
「…どうせ、跡継ぎがどうのって奴だよ。まったく、僕のほかにも隠し子がいれば祝い金付で差し上げるのに」
憂さ晴らしのように、テッドはバーガーを大きくかじった。それを見て、シルヴィアは笑いながら言った。
「気ままもいいけど、…テディ、あんまり心配掛けちゃだめよ」
分かっているとばかりにテッドは手を上げて歩き出した。
さてと、とコックピットに腰掛けると、テッドは腕のWPD(装着型個人端末)を起動して、買取屋を呼び出した。
「ジンガ、僕だよ」
「おお、港に入ったか。何番埠頭だ?」
「8番埠頭のFポートに……」
「わかった」
話を終える前に切断され待機画面に戻った端末をそっと閉じた。ジンガはテッドがずっと使っている部品の買取屋で、機体の整備や換装もやっている。だが、せっかちで有名なドワーフのため、いろいろと不親切に感じてしまう。しかし、マイペースさではその更に上を行くテッドは笑顔でハンバーガーの紙袋を開けた。
「宇宙に居続けたいけど、宇宙じゃ、これを食べられないし。健康的でジャンキーな保存食が発明されないかな」
周りからバーガー中毒と言われ、本人も生活習慣病で死ぬことをモットーとしていたが、宇宙空間で体調を崩すわけにも行かず、本人としては真剣な悩みだった。
「あー、好きなように船を改造して、好きなように乗り回して、楽にお金がもらえる仕事はないかな」
今のところ、この宇宙時代に彼の要求を満たせる仕事はなかった。ただ、楽ではないが好きに船を乗り回して、バーガーが食べられる今をテッドは悪くないなと思いつつ、次の包みに手を伸ばすのだった。