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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
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第八話 異形なるもの

 レーネを出発して、俺はアランと共に南の村に向かっていた。


「しかし当然といえば当然だが、南に行くほど魔獣の量が増えてくるな……」


「おいおいもうへばったのかシド? まだ半分しか進んでいないぞ」


 魔獣を時には蹴散らし時には避け、なかなか進まない道のりに疲労が蓄積してゆく。


 グラニにさえ乗っていればと独り愚痴ると、あれに追いつける馬はうちにはいねーよ! と少し先を行くアランに返される。


 そうこうしながら歩いてゆくと突然アランが俺を制止する。


「どうした、アラン」


「少し先にレーネと南の村の中継所があるんだが、何か様子がおかしい」


 慎重に歩を進めると中継所が見えてきたが、確かに様子がおかしかった。


 聞いた話によるとレーネと南の村の通行の要所として村の屈強な男が守っているらしいが、中継所には人の気配がない。


 そして何より中継所の前は血の海と化していた。


 俺は息をのんだ。


 魔獣の死骸と思われるものがあたり一面に散乱している異様な光景が目の前に広がる。


「シド! 中に誰かいる!」


 アランの声が聞こえ固まった足に自由が戻る。


 血の海に不思議な感覚を感じながら、俺はアランのいる中継所に急いだ。


「おい! アンタ大丈夫か。一体ここで何があったんだ」


 そこにはここに駐屯していたであろう男がひどい怪我で倒れていた。


「ああ……あんたは確かアルハンのせがれか…………魔獣が攻めてきたんだ……いつもと違った……まるで歯が立たない……」


「わかった、もう喋るな。こっからは南のほうが早いか……シド、この人を見ててくれ。俺は村に助けを呼んでくる!」


 そういうとアランは南に向かって駆け出した。


「あいつはどうなった……まだ外で戦っているはずだ……あいつは無事なのか……」


「まだ誰かいるのか……ちょっと待っていろ、見てきてやる」


 外を覗いてみるがやはり人の気配はない。


 だがよく見ると魔獣の獣道に目が留まった。


 吸い込まれるように俺は獣道に分け入る。


 


 少し進むと少し開けた場所に出た。


 薄暗い森の中、奥で無数の影が蠢いている。


 目の前には魔獣、魔獣、魔獣……


 無数の魔獣の中にひときわ存在感を放つ一体の魔獣が目に留まる。


 顎のない丸く大きな口には怪しく光る無数の歯


 ここからでは全身を把握できないほどの巨躯


 何かを見下す三つの深紅の目


 その視線の先には…………人が倒れていた。


 化物の口が大きく開く。


 中継所に残っていた気配の正体はこいつだ。


 体が動かない


 鼓動がうるさい


 今すぐこの場所から逃げ出したくてたまらない。


『弱ければ何もなせない』


 突如その言葉と共にあの日の光景が脳裏に蘇ってきた。


 俺の真横を通過した斬撃


 グラニの上から見た煌めき


 神殺しの英雄 光の剣のフリュム。


 手に握力が戻ってくるのを感じた。


 なんだ、あいつのほうが強い。


 あいつの光のほうが何倍も怖い。


 俺はこの化物に立ち向かえる。


 鼓動はいつの間にか落ち着いていた。


 腰の剣を抜く


 足も動く


 茂みから飛び出す。


 異形が俺に気づいた。


 だが遅い!


「アアアアアァァァ」


 俺の斬撃に化物が怯む。


 フッ


 その隙に追撃を加える。


 その攻撃は化物の目に当たったようだ。


 化物がのたうち回っている隙に人影のもとへ向かう。


 生死を確認している暇はない。


 そいつを担ぎ上げ走る。


 後ろからは魔獣が殺到する。


 走った 走った 走った 何かにつまずいた。


 地面に体を殴打する。


 俺に魔獣共の爪が迫る。


「グアアアァァ」


 魔獣が俺の上に倒れこむ。


 


「射れ斬れ殺せぇぇぇい!」


 男の声と共に矢の雨が魔獣共に降り注ぐ。


「シド! まったく無茶をする!」


 アランが連れてきた人達が魔獣たちを追い返す。


「すまんがこいつを頼む。もうとても担いで歩けない」


 アランの声でようやく窮地を脱したと実感して、担いでいた人を託した。


 俺はその一人の肩を借りて獣道をでる。


 その時、森の奥で三つの深紅の目が俺をじっと睨みつけているような、そんな気がした。



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