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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
二章
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第一話 世界の中心

新章開幕です。

久しぶりの更新になりましたが、よろしくお願いします。

ミズガルズ連邦、かつて人間の上位種である神々が跋扈していた時代を終わらせた七人の『神殺しの英雄』が、その仲間たちとともに起こした新国家。 


東部州ナグルファル、西部州アルヴガンド、南部州ヨルムンガンド、そして北部州フォルグベルグの4つの属州の中心、現在最大最高の栄華を誇る直轄州ユミルはそこに位置している。

 

その片鱗は移動の最中でも肌で感じられるほどであった。 整備された街道、そして南部を離れるにつれ、数と規模を拡大させていく宿場町。 辺境、そして神国ヴァルハラにも集落間を結ぶ道は存在したが、その道自体にはこれほどの活気はなかった。


そんな街道での賑わいへの驚愕も、直轄州ユミルに対する衝撃に及ぶべきもなかった。


石畳の大通り、見渡す限りの建築物、夜の闇を照らす無数の街頭、そして日が落ちているというのにそれでも続く無数の人々の往来。 


「ついたぜ、お二人さん。 ようこそ、ミズガルズ連邦の中心にして世界の中心地、首都ユミルはお前さんらの来訪を歓迎するぜ」


辺境でも原始的な生活を長年送ってきたロズは当然、神国ヴァルハラでの暮らしの経験があるシドにとっても未知の領域に踏み出すことになった。



夜に到着したのもあって一晩宿で過ごしたのち、朝一番にユミルでの活動を開始することになった。


「辺境を離れてからというもの生活の質の右肩上がりが止まらない。 何か逆に疲れる気がする」


朝食時、ロズは目に隈をうっすらと浮かべながらこのようなことをつぶやく。


似たような言は南部からの道程でなんどか聞いてきたシドだが、ついにそれが極まったということらしい。


確かにこの宿の水準は宿場町の宿とは一線を画すものであった。 一晩だけの止まり木としてではなく長期間の滞在を想定した広い部屋に上質な寝台、そして田舎者には何に使うかわからない品の数々。 ロズはともかくシドも説明を受けるまで触らない方が賢明と判断した品は片手の数を優に超える。


「それはな、ロズ。 辺境でのおまえさんの生活が極めて異常だっただけだ。 聞いているぞ、小屋で眠るのはまだいい方で、基本野宿。 そんな生活を数年間、動物もびっくりな完全野生児だ。 これからは最低限の社会的生活に慣れていけ、気苦労で倒れる前にな」


オルムが笑いながら述べる。


ここ数日行動を共にしたことで、そしてオルムのさっぱりとした性格が合わさり、彼はロズと完全に打ち解けていた。


シドにしても、彼が神殺しの一人だとしても四六時中気を張っているわけにはいかず、警戒心はほとんどなくなっていた。


(人間というのは隣から太陽に照らされ続けられる状況にも順応できるものなんだな)


そんな自分の状態に閉口しながらも、シドが朝食を終えるのとほとんど同時に、扉が外から開けられる。


「お待たせしました、オルムの旦那。 約束の時間になりましたのでお迎えに上がりましたぜ」


「ちょうどいいところに来たな、ニール。 今日は田舎者二人の案内頼んだよ」


オルムにニールと呼ばれた男、小柄で金の髪を後ろで簡単に束ねたその男はオルムとの握手の後二人に向き直る。 


「お初にお目にかかる。 私はこのミズガルズ連邦直轄州でのお二人の案内兼警護係を仰せつかった、中央憲兵隊部隊長のニールだ。 お二人について辺境地域での活躍は聞き及んでいる。 若き英雄達に知り合えたこと、光栄に思う」


そこまで言い終わると、厳格だったニールの雰囲気が霧散する。


「まあ、長い付き合いになるかもだし、肩ひじ張らずに行きましょうや、旦那方」



かつてこの地には強大な神々の中にあって特に強大な神、そして人間種を隷属させていた大神ウォーデンの居城『ヴァルハラ』がそびえ立っていた。 人間の歴史よりも古いその神殿はしかし15年前、その長い歴史に幕を下ろした。 大神ウォーデンとそれに組する者達と、神々の世界に反旗を翻した革命軍、双方の主力がこの地で衝突したのだ。 その戦いの余波はここにそびえ立っていた神の歴史の悉くを砂塵に変えた。 あまりの死闘にその時の戦いは後に血の晩餐会と呼ばれることとなった。 


「そんな決戦の地に、見事勝利した革命勢力は新たな国を興した。 それがミズガルズでありここはその首都、今や人類圏最大となった都市ユミルってわけだ」


大通りの石畳を踏みしめながら、シドたちはニールが話す都市の成り立ちに耳を傾ける。


シドにとってはかつてヴァルハラでの話と多少の祖語はあれど、読んだことがある物語である。 しかし幼い頃から野生の中で暮らしていたロズはあからさまな空返事しか返さない。


「ごめんごめん。 つまりここは神殺しの英雄たちが作った滅茶苦茶でかい国の中心ってことでさぁ」


すでに興味をニールの話から先ほど買ってもらったお菓子に移しているロズに気が付き、話題を繰り替えにかかる。


「そんなユミルの目玉の一つがココ、商会区。 大小様々な商会の本部が軒を連ねている一際にぎやかな区画なんです。 この大通りに面している商会はいわゆる古参でゲッテルデメルング時から革命勢力を支援していた商会が多いですね。 今でも日夜数多の商会が生まれますが生き残れるのは一握りの上澄みだけだと言われています」


宿屋から続くこの大通りには、方々から新たな時代の成功者を夢見る人々が集まり、その大半が表に看板を掲げている商会のさらなる発展のための糧となる。 一部の生き残りはその斬新な発想で老舗に牙を剥く。 神に統治されていた頃には無かった新たなる人間の闘争の形。 


「ちなみに旦那方が今食べている砂糖菓子はそこの角のにあるマヤッカ商会の試作品です。 憲兵隊への差し入れでしてね」


ニールが手を挙げれば、表で客引きをしていたマヤッカ商会の従業員達は深々と頭を下げる。


表通りの盛況と、その裏通りの殺気にも近しい激情を感じながら、シドは一口大にまで減った菓子を口に放り込んだ。




「この辺からは、がらりと変わって国お抱えの研究機関、通称『象牙の塔』 この国の意思決定を司る機関である議会によって国の利益となると認められた研究が国家事業として行われる、識者、賢者、技術者達の城です。 基本的に関係者以外立ち入り禁止で、まぁ、我々のようなものにゃ縁遠い場所でさぁ」 


象牙の塔は塔と称されるだけあって純白の石造りの三基の塔が蒼然とそびえ立つ。


半年前のニーズヘッグの件が無ければ、シドもロズもその塔の高さに圧倒され、立ち尽くしたことだろう。 それほどまでにその塔の雰囲気はほかのどの建物よりも神秘的であった。 


しかし彼らはすでに知っていた、真の神が纏う至上の存在感とその神秘を。


「象牙の塔を始めて見た奴はみんな同じ反応をしてくれるんだがな。 人間技じゃないだの、神の御業だのってな。 旦那方は肝が据わっていて大変よろしいね、まぁ年齢を考えると可愛げがないともいえるがね」


シドとロズの反応とも言えない反応に大変満足気なニールが、どこからか菓子のおかわりを二人に放る。


「じゃあ、行きましょうか。 この辺は今の我らじゃ二進も三進もいきませんから」




「やって参りましたるはユミルの中心、それすなわち世界の中心。 我等がミズガルズ連邦の行く末を話し合う連邦議会、その議事堂とその前に広がる中央広場でさぁ!」


謎の雰囲気で畏まりながら次にニールが案内したのは、本日の目的地である議事堂であった。 議事堂もまた基本的に石で造られているが良くも悪くも人間の職人によるものだと感じられる。 広場は非常に広く、辺境で耕していた畑よりも優に広い。 色とりどりの花で彩られており、中央は祭事にでも使うのか一段高くなっている。 


「今も結構な人たちがこの広場に訪れるが、祭りのときはもうものすごい人口密度になりまさぁ。 特に聖火祭の時期なんかにはミズガルズの各地から人々が訪れて、広場から人があふれちまうぐらいだ」


「聖火祭? 初めて聞く名だな。 ミズガルズにはそのような祭りがあるのか。 知っていたか? シド」


「残念だが記憶にない。 ミズガルズ特有の祭事なんじゃないか?」


聖火祭という言葉に、長年人里離れて過ごしていたロズはともかく、シドには神国ヴァルハラでもそんな名称を聞いたことはなかった。


「そうか、そういえば聖火祭って名前はミズガルズが改名したものだったな。 じゃあ英雄祭って名前なら聞き覚えがあるんじゃないか?」 


「英雄祭ならもちろん知っている。 かつての大英雄にして始まりのエインヘリアルである『シグルド』の没後、その功績を大神ウォーデンが称えその死を悼んだことが起源だというあれだろう? もっと粛々と行われるものだと思っていたが」


確かにシドも神国ヴァルハラで英雄祭という式典が大々的に催されていることは知っていた。 しかしヴァルハラでは大英雄や過去の勇士たちに追悼を捧げる事が主目的であり、和気あいあいとした雰囲気ではなかった。 最もシド自身には英雄祭の参加は認められておらず、聞いた話や当時の城の様子からの推測に過ぎないが。


「ㇵッハッハ、ずいぶんとまあ古臭いですなあ、旦那。 今のご時世そんな厳密な追悼式典の様相を呈しているのなんか、未だに神への信仰根深いヴァルハラの連中ぐらいですぜ。 ほかの地域じゃあもういない神になんか祈らんですぜ。 辺境でもそんな感じだと聞き及んでましたが」


「確かに、冬の一番寒い夜に一晩じゅう火の明かりと団欒の声が絶えない日があったな。 あれが聖火祭の日だったのか」


ロズが記憶の中から辺境の聖火祭のことを引っ張り出す。 


「大抵の時は一人だったが、たまにリーレが探しに来て一緒に夜を過ごしたりしたこともあったな」


ロズの目は遠くを映す。 ほかにその風景を知る者はここにはいない。


「まったく、辺境の若者はどうなっているんですかねぇ、生粋の野生児に知見の偏ったやつ。 まあこれを機に、後学のためにも覚えていって下せえ。 ミズガルズの最大の祭典『聖火祭』。 冬季の最も冷たい風の吹く頃、町中に明かりを灯し、夜通し騒ぐことによって我ら末裔の健在を示し、英霊たちを慰める。 後はまあ、冬季に蓄積する民衆の鬱屈とした雰囲気を発散する場を設けるってのもあるか」


広場での話にひと段落した時に、時を報せる鐘が鳴る。


「おっと、ちょうどいい時間になっちまったようですね。 そろそろ時間ですよ、お二方」


ニールが議事堂に二人を促す。 


シドとロズがユミルに来た本来の理由、先の辺境での戦いで特殊な立ち位置にいた二人への直接的な取り調べがこれからこの議事堂内で行われる。 


基本的な取り調べは辺境の生き残りたちから半年前にオルムによって行わたのだが、それを踏まえてミズガルズ連邦議会は二人の招集を決定した。


ミズガルズ連邦議会、50人もの人が民の代弁者として意見を交わし国の方針を定める。 


選出されるには民衆の支持が必要である。 なればこそ『英雄』であるならその座に担ぎ上げられても何もおかしくはない。 元々変革を望み神々と戦いに挑んだ者達である。 


「きっと居る、神殺しの英雄である奴は………」


ニールを先頭にロズもすでに議事堂へと向かい始めている。


シドは握りこぶしを固め、議事堂への階段に足を踏み出した。














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