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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
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第七十三話 宙と星と大蛇と御子と

 高純度の神力と神力がぶつかり合う。 


 かつてのゲッテルデメルング末期以来、十数年ぶりの衝撃が世界を揺らす。


 シドの腕が降られれば、指が空をなぞれば、目線が揺れれば、その一挙手一投足すべてに世界が呼応し、炎、氷、雷、嵐を始めとしたありとあらゆる事象(ルーン)が山脈のようなニーズヘッグの巨体に降り注ぐ。


 しかしニーズヘッグの発生させる神力の衝撃波は周囲の一切合切ををかき消す。


 数度の打ち合いの末、シドの熱に浮かされているような万能感は冷め始めていた。


 ニーズヘッグの一度完全に霧散させた雲翼はすでに完全に修復されており、ルーンによる世界を砕く天変地異の数々は対象に到達する前にかき消される。


 対するシドは先の一撃の反動で三対の翼の形はほころび始め、ニーズヘッグの神力の余波による消耗もばかにならない。 そしてこの力の代償であろう体を包む炎が確実に体を蝕んできているのを感じる。


 確かにシドはかつてない力を、神の如き万能を得たが、それを以ても、否それによってさらにニーズヘッグという世界終焉の化身の強大さを全身で感じていた。


 シドの一瞬の逡巡、怒涛の攻撃の中に生まれた一瞬の隙、ニーズヘッグが攻勢に出る。


 雲翼がシドの視界を完全に遮る。竜巻で雲翼を払ったシドの視界には、可視化されるほどの神力を溜めるニーズヘッグの姿。


 これが放たれればカリギュラの熱線の比ではないことは一目瞭然だった。 しかしこれほどの神力を放出すれば少なくない反動があることは想像に難くない。 これを耐えきった時千代一隅の好機が訪れることを確信する。


 時間はなかった。 翼を織り込み攻撃に備える。


 これならば光線の直撃を避け後ろにいなすことができる。


『......チィ!』


 世界を割る光線が放たれる直前、しかしシドは防御を解き上昇による回避行動に移った。

 

 ニーズヘッグは対象を追い、光線を上空に放つ。


 光の柱が天空を穿ち、辺境から世界を照らす。




 

 時間にして十秒の光線の放射が終わる。


 神力を完全に放出し終えたニーズヘッグは、しかして上方から顔を背けない。


 目線の先には先ほどよりも僅かな、しかし炎のような光。


 三対の翼を含む半身を消し飛ばされながらも、はるか上空から虚ろな眼でシドはニーズヘッグを見下す。


 ニーズヘッグとシドの間に静寂が流れる。


 ニーズヘッグは反動による体の硬直、シドは翼の再構成、互いの神力の猛りが再稼働までの時間を加速させる。


 先手を取ったのはニーズヘッグだった。


 その巨体による突進を敢行する。


 翼の再構築だけに留めシドも行動を再開する。


 シドはさらに上昇する。


 それを追うニーズヘッグ。

 

『ニーズヘッグの雲翼に飛行能力などない。 今はただ体を起こしているだけだ。 いつか限界が来て落ちる。 その時にオレの余力すべてを叩き込む。 それで無理ならもう......』


 実のところ、シドのその策はすでに破綻していた。


 今までびくともしなかったニーズヘッグを残りの力でどうにかできる望みは薄い。


 それを承知で、しかし導かれるようにシドは上昇する。


 雲を突き抜け、世界を照らす月と太陽を飛び越え、空の底へ落ちてゆく。


 そして、シドは大蛇に追い付かれた。


『警告。 二つの生命反応が禁足宙域《始原の渦》への接近を感知。 即時離脱してください』


 雲翼がシドの小さな体を強打する。


『再度警告。 宙域から即時離脱してください』 


 四肢がばらばらになる錯覚を覚える。


『最終警告。 離脱の意思が見られない場合、第二段階、迎撃行動に移行します』


 翼が一瞬制御を失い、シドはニーズヘッグの口内に落ちていく。


 『終わった......と思ったか? 否、たった今、見事お前は唯一の勝ち筋を掴んだ。 おめでとうシド・オリジン』


 視界が星空からニーズヘッグの体内へ移り変わる瞬間、大きな衝撃がニーズヘッグを襲う。


 翼の制御が戻り、腹に落ちきる前に脱出する。


 そこは星々の只中だった。


 否、それは輝く槍の大群。


 地上の人々が星だと呼んでた空の輝きは、空を覆う無数の槍。


 大きさは違えど、その形は妹にして聖女ハルが携えていた槍の形状と酷似している。


『グングニル・ブラギ、着弾を確認。 しかし対象の損傷軽微』


『神槍間の情報同期完了。 半数以上からの返信なし。 再度通信開始』


『生命体一、解析完了。 邪龍ニーズヘッグと断定』


『生命体二、解析完了。 深度Ⅲの大神ウォーデンの神性を保有。 大神に類する存在と暫定』


『過去の記録と照合。 大きな差異を確認。 邪龍の情報を再構築』


『迎撃対象を邪龍のみに限定。 機体を再配置開始』


 無数の槍が通信を送りあっている。


 そして今、それを受信しているシドだけがこの強大な防衛機構に命令できることを直感的に理解する。


 シドが崩れていない左手の人差し指をニーズヘッグに向ける。


 ニーズヘッグが突進を始める。


 その形相はついに命の危機を感じたのか、かつてないほど鬼気迫るものだった。 


『行け......』


 その一言は王手を意味していた。


『ウォーデン神性保有者からの直接命令受信。 権限確認 迎撃行動の優先順位が繰り上げられます』


 シドの周りに配置されていた15本の槍がその切っ先がニーズヘッグに向かう。


 一槍でニーズヘッグの巨体が揺れる。


 三槍で外皮が剥がれ落ちる。


 十五槍を食った後、その巨体のど真ん中が穿たれた。


 


 ニーズヘッグの肉体が崩れ落ちていく。


 ニーズヘッグの残骸から何かの影が蠢く。


『.........!』


 蛇がシドに向かって飛び出してくる。


 しかしその姿に先ほどまでの畏怖などみじんも残っていない。 


 大きさですら、戦ったウロボロスにすら劣るものになっている。


 神槍にすら補足されない邪龍の残滓の最後の足掻き。


 翼の一つを手で撫でる。


 光の帯が剣をかたどる。


 振り下ろされた剣は小蛇を両断する。


 その一撃を以て、魔獣の王、終末の蛇、邪龍、数多の異名を持つ辺境の脅威ニーズヘッグとの戦いは終結した。





 

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