第六話 ある日の出来事
魔獣の襲撃から1週間が過ぎた。
グラニの調子が良くなってきたが、ミズガルズ連邦に追われ行く当てのない俺はいまだにアルハンが村長を務める村レーネにいる。
そして現在村長の息子のアランに農作業を教わっていた。
「畑を耕すのがこんなに大変だったとは……」
「力は強いけど農具の扱いは全然だな、シド」
「初めてなんだ、勘弁してくれ」
言葉とは裏腹に今まで他人と軽口を交わしたことのない俺はこの村での生活を楽しんでいる。
朝、料理のできないことを知った村長が朝食に招待してくれ、そのままアランに農作業を教わる。
腹がすいてきたらアランと一緒にパンと干し肉を頬張り、食後はグラニの散歩がてら村を回る。
村人と交流を交わし村の外でグラニを走らせる。
そうこうしてる内に日が暮れてしまった。
俺はグラニから降り、草原に寝ころがる。
空には満天の星空、少し振り返ると村の明かりが微かに揺れているのが見える。
俺はここ数日を振り返ることにした。
よくしてくれる村の人々、初めて見た辺境の魔獣、短い間だったがともに旅をした五人。
ハルのいつもの目、理不尽なほどの剣技を振るったミズガルズ連邦の英雄、そして……
『弱いな シド・オリジン』
夢にしてはいやにはっきりしているあの言葉。
「弱ければ何もなせない……」
夢での言葉を反芻する。
俺は五人の命を犠牲にして生きている。
力があれば彼らは死ななかった。
魔獣にも神殺しの英雄にも貴族連中にも負けない力。
ハルの目にも映る力。
身体を起こし、剣を抜く。
剣を握る
この村は居心地がいい。
だがずっとここにはいられない予感がする。
薙ぐ
俺はいつかフリュムやハルと向き合わなければならない。
突く
フリュムにもハルにも負けない力がいる。
村のほうからアランの声が聞こえてハッとした。
「シド、今の時間は危険だぞ……おいどうした!」
「なんでもないアラン、心配かけたな」
「まったくだぞ。村から出て行ったきり帰ってこないと聞いた時には魔獣の襲われたかと肝を冷やしたぜ」
剣をぬぐい、しまう。
「もうかえるさ、そういえば今日の夕食おじゃましていいか?」
「おう、お袋もお前が来ると思って多めに作ってるぞ」
会話を交わしながらグラニともにアランのもとに行く。
その場所には三つの肉塊が残っていた……。