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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
62/77

第六十一話 拒絶の地 辺境

月末忙しく2月に投稿できず申し訳ありません。

次回投稿は3月末か4月の頭に予定してます。

 


 シド達捜索隊が村を出立して1週間、東の村では着々と迫る戦いの準備が進められていた。 

 

 村の周りを幾重もの防衛壁が囲み そのそれぞれに罠が仕掛けられている。 堀が一見無秩序に張り巡らされ、きちんと罠の位置を把握していなければ進むことすら困難にする。 堀の下には木の杭が立ち並び、大怪我を負わせる仕込みがなされているらしい。 また進行速度を遅らせるためのぬかるみや、返しのついている柵が存在する。 防衛壁の上には丸太が積んであり、壁が突破されると同時に魔獣の頭上に雪崩落ちる。 


 そしてそこ一帯を射程に収める物見やぐらが立ち並ぶ。 


 その傍らで毎日剣を振り続けるロズに声が投げかけられる。


「壮観じゃろう。 辺境を興して数十年、未だかつてこれほどの建物は無かった、ましてや争いの為の建物。 そんな物が段々と建てられ、これからも建てられ続ける光景は」


 そこに居たのは立派な髭をこしらえた初老の男性、後ろには先ほどまで乗っていたのであろう一匹の馬が呼吸を荒くしている。


「おっと、いきなり見ず知らずのオヤジに呼びかけられて驚いたかね。 我が名はカリブ、実はワシらは前に一度会ったことがあるんだがね、狂犬のロズ」


「思い出した、お前はモアと共に中央の村にいた…………」


 両者の視線が交差すること数秒、カリブの顔面がほころぶ。


「グハハ! やはり掴み所の無い娘っころじゃのう。 ワシの気をまるで意に介さないとは、まるで剣が空を切るが如く!」


「私はこの防衛網に何ら関心はない。 強いて言うとすれば始めて見る戦うための施設だと言うだけ、これで満足?」


 剣を取り特訓に戻ろうとするロズに、カリブが歩を進める。


「そう邪険、いや無関心になるな。 お前は知りたくないか? なぜ辺境(われわれ)が今まで戦ってこなかったのか。 ゲッテルデメルング、かの虐殺、そして七年前、我々は自衛、防衛に徹してきた、その訳を」


 ロズの視線がカリブに戻る。


「興味を持ってくれたところで申し訳ないが所詮はジジイのおしゃべり、お前らの様な若人にはつまらんもんかもしれんが」


 そう言うカリブだが、その不敵な笑みには無言の圧がかかっていた。


「もったいぶらないで。 続けるのか、続けないのか」


 ロズの眼差しは既に無関心ではなくなっていた。 それを確認したカリブは語り出す。


「では改めて……今は昔、アルダ、ワイズ、モアと共に辺境を開いた開拓者が一人、このカリブが“辺境”を語ろうか」




 かつて、と言っても数十年前、しかし常に人の上に神々が君臨していた神の時代。 神々が互いを喰らい合う、英雄登場以前の『神々の戦い』。 


 そんな時代、業物喰いと呼ばれた武芸者アルダ、奇跡の文字の術師ワイズ、傭兵団(われわれ)を束ねていたモア、出生も立場も違う我々だが互いが互いを引き寄せ合うようでよく飯などを共にした。


 我々は本質的に似た者同士じゃった。 どこまでも身の程知らずで、どんなことでも命さえ懸ければ最後には全て思い通りの結末にできると思っておった。 そしてその傲慢さは奇しくも同時期に打ち砕かれることになった。


 我々はある時とある戦場跡に赴いていた、ウォーデン神側とフレイ神側の戦線にウォーデン神側の助力として。 戦場と言っても当然激戦地などではなく端の端、人間同士の戦場じゃ。 我々の参戦で戦線は徐々に押し上がっていた。 自慢じゃないが当時の我々は敗北知らずじゃった。 


 突如、戦場に動揺が広がった。 戦場のど真ん中を人影が歩いて横切り始めたんじゃ。 


『エルフ』フレイ神の従属種族、要はフレイ神のエインヘリアルの一人が目の前にいたんじゃ。 


 敵の軍勢は引いていき、目の前の障害は一人のエルフのみ。 我々は攻撃することを選んだ。


 射手が矢を放った。 だがその矢はエルフの肌を傷つけることなく弾かれた。 それで奴の意識がこちらに向いた。 


 次の瞬間には傭兵団の半数がやられておった。 一瞬で我々の内側に移動し結晶体を生み出して四方八方にばら撒いたんじゃ。 


 そこから先は思い出したくもない。 奴は我々全員が動かなくなるまでただ結晶体を打ち続けた。


 逃げようとした奴は背中を撃ち抜かれた。 立ち向かった奴は数歩も前進できずに果てた。 何とか耐え忍ぼうとした奴も徐々に崩れ落ちていった。


 まるで嵐の中にいる様じゃった。 命を幾ら散らした所で戦いになるどころか攻撃も防御も回避すら許されん。


 あそこで生き残れたのだって、ただ奴が一人一人の生死を確認せずに歩き去ったってだけじゃ。

 

 モアの背中で意識を取り戻した時、100人前後いた仲間達はたった10人になっており、その内ワシを含めた重傷者4人が比較的傷の浅い仲間に背負われて町へと向かっていた。


 ワシには他の奴らの顔をうかがう気力すらなかったが、あの時にはもう皆の心は折れてしまっていたじゃろう。

 

 我々が命からがら逃げこんだ町で、我々は再びあの二人に巡り合った。 そして奇しくも奴らの目も我々と同じ位濁っておった。 


 奴らに何があったかは聞いておらん。 だが奴らの身にも我々に勝るとも劣らないことが起きたことは容易に想像がついた。


 そして我々はアルダ、ワイズと共に流れ着いたのがこの世界最南の僻地、辺境じゃ。




「要するに辺境っていうのはワシら開拓者が世界から逃げだすために築いた集落群ってわけじゃ。 此処に逃げ込んで来た奴らを受け入れたりはしているが、此処の中核にあるものは「逃避」じゃ」


「そんなお前らがなぜ神の如きと記されるニーズヘッグに立ち向かおうとしている?」


「逃げるさ」


 カリブが腰を上げる。


「だがそんな化け物から逃げるにも戦力は必要なんじゃ。 ましてや辺境の民丸ごと逃がすなら、ナイトメアとの戦いという危険を冒しても何とか、逃げるための足で撤あり退戦になった時の為の力でもある方舟は手に入れておきたい」


「今すぐ撤退するという選択肢は?」


「いくらなんでもナイトメア相手に背中を向けて戦える気はしねーだろう」


「では何故あの時神殺しを宣言したんだ」


「念のための保険じゃよ。 シド、奴は我々とゴールを違えている。 なぜかはわからないが奴はニーズヘッグの討伐に重きを置いておる。 だからと言って今奴という戦力を失うわけにはいかん。 ギリギリまで合わせるのさ」


 思わぬところでシドの名前が飛び出してきてロズの一瞬たじろぐ。 その間にカリブが馬に跨る。


「最後にモアからおぬしに。 ‛お前の配置は防衛隊だ。 もしナイトメアが決死隊を突破した時、その時はお前がナイトメアを打ち倒せ' そこが落としどころ、だそうじゃ」

 

「………」


「この事はアランにもモアが話しているはず―――――――」


 突如大地が鳴動する。


 今まで感じたことのない強烈な揺れが東の村を襲う。

 

「……村に戻れ、ロズ。 先手は取られてしまったようじゃ。 始まってしまったようじゃぞ」


 村に駆け込んでいくアラン達調査隊を確認し、ロズを村の方向に促す。


 振り向いたロズが見たのは、反対反対方向に小さくなっていくカリブの背中だった。

 

 

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