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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
61/77

第六十話 方舟の試練

リアルが忙しく更新遅れてしまい申し訳ありません。

これからは月1ペースで更新していくつもりです。

 一陣の風が俺とジグムンド、周りの木々の間を吹き抜け止まっていたのであろう鳥達が飛び去る。


「鳥……こんなに」


「ああ、こいつらは元々辺境に生息していた奴らだな。 魔獣の動きが活発になってきた頃からかこっちに現れ始めたんだ。 今やかなりの数の動物がこちらに来ている」


 ジグムンドの視線が風上に向く。


「そんなことよりもシド、万事を成そうとするのなら急ぐことだ。 方舟の修復に掛かる時間のことももちろんだが、この神の庭から方舟を持ちだすためにはもうひとつ超えねばならぬ壁がある」


「巨人……魔獣とは違う、お前にとって全く未知の存在。 急げ、争奪戦は既に始まっているぞ」






 絶え間なく吹き続けている風の発生源に向かって全速力で駆ける。


 進めば進むほどこの暴風が、何か超常的な力によって引き起こされていることを肌で感じる。


 自分の全長をゆうに超える超巨大な建造物、方舟を視認する……その大きさに引けを取らない巨体を持つ人型の存在と共に。 


 次にリリが見えた。


 ナイフを手に握り巨人と相対している。


 ジグムンドの言った通り、戦いは既に始まっている。


(神の力…………もはや躊躇する理由なんてないぞ!)


 一気に神力を体中にめぐらす。


『ハアアアアアアアアアアアァァァ!!!』


 力の限り踏み込み、踏み切り、跳びだす。


『 (イス) !!!!』


 軌道上に出現させた氷の剣をつかみ取り、そして落下の加速も剣に乗せて巨人の後頭部に叩きつける。


 ギイイイイイン!!


 巨人の身体が大きく前傾する。


 そして俺は方舟の上に着地した。


 ジーンと痺れる両腕の先には根元から砕け散り、持ち手だけになった剣が握られている。


『固い……これが……巨人というわけか』


 巨人を見やる。


 一般男性の何倍あるのであろうかという方舟に匹敵する全長、ただ立っているだけで地面に届きそうなほどの長い腕、体毛は確認できず顔面にはぽっかりと穴の様なものが開いており感覚器は見当たらない。


 顔の穴からコォォと言う音と、その音と共鳴するかのように巨人を中心に風が舞い狂う。

 

 巨人はゆっくりと体勢を立て直し、見る限りダメージを感じることはできない。


(ここで戦うのはまずいな……方舟を破壊されかねない)


 方舟を飛び降りると、リリが駆け寄ってくる。


「シド君、よかった合流出来て! だけど緊急事態だよ! いきなり出てきたでっかい化け物が方舟に迫ってくるんだ! ちょっとナイフじゃどうしようもなさそうで」


『ああ、状況は聞いている。 あの巨人はこの神の庭の番人、どうやら俺達にこの方舟を持っていかれるのが心底不服らしい』


「巨人!? 巨人って何なの!? 魔獣とは違うの!?」


『違うらしいが詳しくは知らん! 邪魔立てするならやるべきことはただ一つだ! それよりグラニは一緒じゃないのか!?』


 現在リリは馬に乗ってない、グラニのことだから俺のそばにいないのであればリリのほうにいると思っていたが。


「ゴメン! さっきまで一緒だったんだけど、いつの間にかいなくなっていて………………」


『見たのであれば問題ない。 グラニは俺達が必要な時に現れる、そういう奴だ。 しかし方舟を修復するにしてもひとまずこいつをどうにかしなければどうにもならん! リリ、こいつを倒すぞ!』


 シドが作り出した氷の大斧を受け取りながらリリが頷く。


「なるほどね! あの巨体だもん、転ばしちゃえばかなりの時間稼ぎになる! その間に方舟と共に脱出を試みる! そういうことだね!」


『……………………………………ぁあ! リリ、こいつを張っ倒すぞ!!』


 断じて俺の声は震えてなどいなかった。






「巨人……ここよりもミズガルズやヴァルハラよりも遥か北、北の辺境ともいえる山嶺に住まう存在。 あの模倣品は真に巨人と同一ではないが、同様の性質に落ち着いたのだから違いなど些細なものか」


 大樹の枝の上、ジグムンドはシド達と巨人の攻防を見下ろす。


「シドはともかくあの女性……巨人と競れるとは大した馬鹿力だ。 しかし押しきれていないようだ……速度と数的有利で何とか攪乱しているがそれが精いっぱい、これでは方舟を起動することなどできない」


「ならば発破をかけた者の責任として、方舟の修繕ぐらいは終わらせておいてやろうか」


 方舟に見やり、違和感を感じる。


 先ほどとは外見上は何も変わっていない。 しかしジグムンドには方舟の状態の変化を確かに認識する。


「…………なんだ? 方舟が起動準備状態に移行してる……いつの間に、どうやって修繕工程を終えたんだ?」


 一瞬彼の全意識は方舟の甲板部分に注がれる。


 いつの間にか方舟の上にたたずむ存在と射貫くような視線が交差する。


「なるほど、方舟の修復は貴方が終えたのか……グラニ」


 しばらくの間互いに微動だにせず視線を交わす。


 先に視線を外したのはジグムンドだった。


「なるほど、これは余計なお節介だったようだ。 貴方が彼についているのであれば俺としても心強い。 では俺は新たな神殺しを特等席で堪能させてもらう」

 




 巨人が伸ばしてきた手をギリギリで躱し、氷の剣で切り付ける。


『チィッ! 圧倒的に強度が足りないな!』


 何本目になるのかという砕けた氷の剣を巨人に投げつけながら、吐き捨てる。


「シド君! パス!」


 同じく破損させたリリに、生成したばかりの氷の斧を放る。


 リリの馬鹿力もあって、なんとか巨人の進行を食い止めることができている。


 しかし今の戦力ではそこまで、所謂拮抗状態に陥っていた。


(地面に氷を張って足を滑らせようとも、奴の踏み込みで砕かれてしまう。 二人の渾身の一撃を続けざまに喰らわせようにも、あの異様に長い腕で連携を阻害され畳みかけることができない)


 巨人がグオオオォォと唸り、その声と共に風の流れが変わる。


(そしてこの風だ。 この風の壁が攻撃の選択肢を大きく制限する!)


 急に風の流れが変わったことで一時足を止める。


 うかつにもそこは巨人と方舟の線上だった。


 巨人が俺めがけて腕を振り上げる。


 逃げて! というリリの声が耳に届いた。


(今から駆け出せば躱すことは可能だ…………が果たしてこの攻撃範囲はどれほどなんだ? 奴は自らの攻撃で方舟を攻撃しないという確証はあるか?)


 最悪のイメージが脳裏を過ぎる。


 破壊された方舟、辺境の人々の屍の山と俺を見下ろす魔獣の王。


『ここで躓く訳には行かない!!!!!!』


 氷柱を生成する。


 天めがけてその氷柱を伸ばす。


『出来るだけ高く、奴の一撃の勢いが出来るだけ弱い地点へ!』


 巨人が腕を振り下ろす。


『展開しろ! 氷樹!!』


 バッと氷柱から、さらに氷が枝状に広がる。


 ギュオオオオとムチのようにしなる腕が、吹き荒ぶ風を切り裂きながら氷樹と接触する。


 バキバキバキと氷樹の枝、幹を粉々に引き裂きながらなお勢いが衰える様子もなく迫ってくる。


 自分とその後ろにある方舟、その双方を容易に消し飛ばせるであろう一撃を前に、しかしこの時俺の心にはある一つの予感が到来していた。


 カリギュラの熱戦を受けた時、夢の中でムニンが言っていた『羽』


 神力との親和性が上がったのだろうか、または生命の危機に都合よく覚醒できたのか、その両方か。


 背中の左方に熱が溜まっているのが分かる。


(イメージはそう、三本目の腕!)


 巨人の腕が大きな激突音を発生させる。


 その音は何か壊れた時のような音でも、大地にたたきつけた時のような音でもない。


 例えるなら肉と肉がぶつかり、そして弾かれた音。


 巨人が現状を確認する前に突っ込む。


 顔面の大穴が俺に向く。


 そして捉えたのだろう、無事な俺とその左肩から出現している光の帯状四枚の『羽』を。


「凄い、シド君!!」


『合せられるか、リリ!!』


「もちろん! 行こう!!」


『羽……どれほどの物か俺に見せてみろ!!』


 『羽』で風の壁を切り抜ける。


『ハアアアア!!』


 巨人の膝あたりに四枚とも突き立てる。


 『羽』はこれまで傷一つ付けることができなかった巨人の外皮を易々と貫通し、血が噴き出す。


 そしてその巨体を支えることができずついに巨人が膝をつく。


『行け! リリ!!』


「沈めーーー!!!」


 俺の頭上はるか上をグラニに跨るリリが跳ぶ。


 そして氷の斧を頭のてっぺんに叩きつけた。


 えぐい音の後巨人の身体が地面に崩れ落ちる。


「やったあーーー! やったよシド君!」


『喜ぶのは後にしろ! 体勢を崩したにすぎないんだ! 急いで方舟に乗り込め!』


 両手を空に掲げ万歳をしていたリリは、俺の後方舟に乗り込む。


『見た感じ壊れている感じはないが……』


 どんな状態が正常化かは分からないが、破損個所を探して奥に進む。


 方舟の最奥、中核と思われる部屋に辿り着く。


 十人は優に入るであろう部屋の中央に、球状の置物がぽつんと存在している。


 これがここまでの道程で唯一の装飾品。


 球状の物体に触れる。


「なに?」


 方舟から唸るような振動がし始める。


 玉に文字が浮かびだす。


 リリと顔を見合わせる。


 俺達は確信する、この船を蘇らせる方法を。


 息を大きく吸い、互いに頷く。


  


『「リブート    スキーズブラズニル」』

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