第五話 辺境の魔獣
家畜の鶏の鳴き声で俺は目を覚ました。
「もう朝か……。そうか、俺は昨日からこの村で世話になってるんだったな」
そういって、俺は窓を開けて食事の準備を始める。
昨日、村長に渡された食料を軽く調理し食事を済ませて、グラニのもとに行く。
「グラニ、昨日はありがとうな。俺もあの時混乱していた、お前がいなきゃ俺は死んでいたよ……」
餌をやりながらグラニに話しかけていた。
グラニに餌をやった俺は少し村の中を歩いていた。
散策しながら、村を見渡すと、村人たちがせわしなく働いているのが見える。
村の通路を我が物顔で歩き回る鶏、その鶏に餌を与える女性。
鍛冶屋と思しき建物からは金属音が鳴り響き、村の中央の広場では朝いちばんに狩ってきたであろう肉を見せびらかす男。
僅かな時間の散策でも十分に活気が伝わってきていた。
「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」
「色々あったからな。あまり眠れなかったよ」
様子に見に来た村長と軽く話していると、鐘の音が響き渡る。
「村長、これはなんなんだ? 緊急を知らせる鐘の音みたいだが」
「これは、魔獣の襲撃を知らせる鐘ですな。私は村のものと対処しなければなりません。詳しいことは後で話しましょう」
そう言って村長は足早に村の中央の家に向かおうとする。
「待ってくれ。俺も少しは戦闘の心得もある、世話になったお礼というわけじゃないが手伝わせてくれないか?」
俺は村長を呼び止めると魔獣の対処に協力すると伝える。
「ありがたい。今、手が足りない状況なのです」
俺たちは村の中央で状況把握を始めた。
村人たちの話によると、村の南の森から魔獣が10匹村に向かっているらしい。
「村の男衆は武器を持ち、村の南の柵で魔獣を迎え撃つぞ!」
村長は村人たちにそう指示を出し、俺に対して
「お客人も同じく南に向かってください」
「わかった、すぐに向かう」
俺たちは南の柵に集結して魔獣を待つ。
「グォオオオオ」
魔獣の唸り声が聞こえるのとその醜悪な姿が見えたのは同時だった。
魔獣達はその速度を落とすことなく、柵に向かってくる。
「魔獣達が柵にぶつかったら得物を突き出せ!」
村長の指示通り俺や村人は魔獣が柵に接触するのを息をのんで待つ。
ズシン! 柵に魔獣がぶつかった時、鈍い音が走る。
「いまだ! 突き出せ!」
俺は合図とともに醜悪な魔獣に剣を突き刺す。
「グギャァアアアアア」
魔獣達の絶叫が響き渡る。
しかし、何匹か仕留めきれなかった魔獣が柵を突破して、村人に襲い掛かる。
「くそ、俺が前に出る!」
俺は村人達の前にでて剣を振るう。
「長い得物を持ってるものは俺の援護をしろ! 持ってないものは魔獣達の後ろに回れ!」
俺は村人に指示を出しながら、剣を振るうが暴れまわる魔獣に上手く剣を突き立てられない。
「グルァアアアアア」
魔獣が雄たけびを上げながら、衝突してきて俺は吹き飛ばされる。
追撃をしかけようとした魔獣に斧や鍬が叩きつけられ、魔獣は絶命した。
「お客人、ご無事ですか?」
魔獣を仕留めた村人が声をかけてきた。
「ああ、おかげさまでなんとかな」
「それは良かった。こちらこそあなたが前に出てくれたおかげ被害が出なくてすみました」
そういって村人は微笑む。
「聞きたいんだが、辺境地域には魔獣が当たり前のようにいるのか?」
俺は凶暴で醜悪な獣を思い出して顔をゆがめた。
「そうですな、この辺境地域にはミズガルズにもヴァルハラにもいない魔獣が多く生息しています。奴らは人も家畜も見境なく襲ってきます、そのため辺境地域は他の地域から人の住めぬ地と呼ばれたりするのですよ」
俺の質問に近くにいた村長が答えてくれた。
「あんな、凶暴な魔獣が村の近くに生息してるのは大変だな」
「確かに大変ですが、我々は自らこの地に来ましたからね。魔獣がいくら凶暴でも人と争うよりはましですからな……」
俺と村長は少しの間魔獣について話していた。
「さて、お客人。昨日も今朝も慌ていてゆっくり話すことができませんでしたな、村のものを集めてお客人のことを紹介しましょう」
俺は村長に連れられるがまま、村の広場に行き挨拶と紹介をすることになった。
「俺はシド。倒れているところを村長のアルハンに助けてもらい、しばらくの間をこの村で世話になることになった。よろしく頼む」
俺は出自と名字を隠してこの村の人たちに自己紹介をした。
「シド、あなたのおかげで今朝の襲撃もなんとかなりました。私たちもあなたが困っていれば手伝いますよ」
一人の村人がそう言うと、他の村人もそれに賛同するように手を叩く。
先ほどの魔獣の襲撃を共に破ったシドは村人に受け入れられつつあった。