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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
59/77

第五十八話 ツギハギの欠陥生命体

更新が遅れて大変申し訳ございません。

これからも更新を続けていくので見てくれるとありがたいです。

 少し前までは木々が青々と茂り辺境に恵みと脅威をもたらしていた地、今やすべてが灰塵と帰した地をグラニと共にかける。


 モアには方舟について心当たりがあるように言ったが、あの謎の空間について分かっていることはあんまりない。


 今俺が思いつくのはかつて迷い込んだ場所、あの泉のほとりに再び足を運ぶことだけだった。


(かつて……ね)


 時間的にはまさに数日前、それをかつてと思ってしまったのは、ここ辺境での出来事があまりに濃密だったからだろうか。


(あの城での年月よりも…………)


「シド君? なに一人で笑ったり顔をしかめたりしているのかな、少し不気味だよ」


「わ、悪かったよ」


 並走するリリが怪訝な目で此方を見てくる。


 今回、俺とリリはツーマンセルを組んで方舟の捜索を行っていた。


 エル含め他の連中もそれぞれ他の場所を捜索している。


「しかし……跡形もないね。 此処の周辺だけ別世界だよ、どのへんだったかなあ、湖」


 灰を巻き上げ走りながら周囲をしきりに見回す。

 

 爆心地らしき場所まで馬を走らせたが、未だあの場所の入り口らしきものは見つかっていない。


「シド君、ちょっと時間をもらっていいかな?」


 リリはそういって馬を降りる。


 そこでひざを折り、手を合わせる。


 俺はリリの黙祷を黙って待つ。


 この時リリはここで戦った者たちに、俺は死者を悼む彼女に意識が向いていた。

 

 故に音もなく接近してきた影に反応できなかった。


 ヒヒーーン!!


 リリの馬が嘶く。


 声の方には黒い粒子の集合体とも云うべき存在が、リリの馬に纏わりついていた。


(あれは、微小な魔獣の群れ? しかしそれにしては一粒一粒の動きがあまりに緩慢だ)


 リリの馬がソレを振り切ろうと暴れまわるが依然状況は変わらず纏わりつく。


「悪いリリ、嫌な予感がする」


 少しづつ密集していくソレに形容しがたい悪寒を感じ、リリに断りを入れるのと同時に右手を構える。


i(イス)


 一迅の涼風が駆け抜け、その後にはリリの馬もろともその周囲を氷塊に閉じ込める。


「一応殺さないように調整したつもり「シド君!!!」ぐふぅ!?」


 リリに向き直った瞬間腹部への衝撃と共に俺は後ろに倒れこむ。


 突っ込んできたリリと共に数回転がった後ようやく止まる。


「あれはしょうがな「敵襲! 上からだ!!」 何だと!」


 リリの声に従い空を見上げる。


 雲が南から流れてくる。


 その雲が先ほどの粒子状の存在だと理解するにはさほど時間はかからなかった。


 そして先ほど自分が立っていた位置にはソレがふよふよと浮遊している。


「どんどん降ってきているよ!」


「南から来ている……と言うことは魔獣で間違いはないようだな!」


 リリが矢を放つ。


 矢はもやの様な魔獣の中心を穿つが、魔獣は倒れも霧散する様子も見せずにただ浮いている。  


「矢は効かないか、ならばこの『力』で!」


 再び氷の力を放とうと、もやの魔獣を見据える。


 よく見るといつの間にか、もやの下部が灰の地面に接触している。


 突如、魔獣の輪郭がぶれる。


『イ「今は――――――――――生きろ」!?』


 魔獣から声が発せられた。


 ノイズが酷かったが魔獣のものではなくあれは確かに人の声だった。


 そしてその声に俺達は心当たりがあった。


「アルダさん…………?」


 リリも思わず構えていた弓をおろしてしまう。


 心なしか人をかたどっているようにも見える。


 しかしその姿はすぐに崩れ、熊や鳥、この辺境の地に生息する生物の面影を次々とかたどられる。


 そしてその面影は吸収されるように靄の中心に飲み込まれていく。


 様々な生物のまるで断末魔の様な鳴き声が次第に混ざり合い、一つの不快な唸り声になっていく。


「グォオオオオオオオオ!!!」

 

 魔獣の咆哮、それと共に靄が霧散する。

 

 中から今まで幾度となく戦ってきた魔獣の姿が、その悪意を撒き散らしながら現れる。


 魔獣の姿、その醜悪さの理由を理解する。


 着床した周辺に残滓が残る様々な生物の部位、それを無造作にそして無秩序に組み合わせたツギハギだらけの欠陥生物。


 それが魔獣。


「あのもやから魔獣が出てきた?」


「今はその考察をしている場合じゃないよ! 僕たちは……すでに囲まれている!」


 周りを見回す。


 数えきれないほどのもやが灰の大地に降り立っていた。


 今まで初めの一体の変異に気を取られている間に、幾体もの魔獣が変異を始めていたようだ。


「すでに数多くのもやが地上に到達していたのか……」


 魔獣の咆哮が一つ、また一つと加わっていきその重圧を増していく。


『だが所詮ただの魔獣だ! 俺達が負ける相手じゃない、活路を開くぞリリ!!』


 氷剣を出現させるのを合図に魔獣の大群が突撃を開始する。


 最初の魔獣を一刀にて切り捨て、返し刀を振り抜き表見から氷剣から氷のつぶてを前方に散らす。


 背後のリリも一体一体確実に射貫いていく。


 しかし弓矢では魔獣の波状攻撃を対処しきれず、一体の魔獣がリリに迫る。


「チィ!」


 氷のつぶてを飛ばすが、魔獣はリリの影に入り狙うことができない。


 魔獣がリリに跳びかかる。

 

「シド君、伏せて!!」


 弓矢を手から放し、手を腰に向かわせながらリリは叫ぶ。


 魔獣がなだれ込んで来る今その無茶な言葉に、俺はとっさにグラニの手綱を引きながら身を屈める。


 ただ前方の敵を見据える。


 ズザザザ、後ろから何かが地面と擦れる音がする。


 しかし音だけではリリかどうかも分からない。


 迫る魔獣に切先を向け、待つ。


 荒い息がかかるぐらいの距離。


 剣を突き出すために力を込める為の一瞬、その瞬間目の前の魔獣が消える。


 残った横に流れる血しぶきが、魔獣が薙ぎ払われたことを物語る。


 何かが頭上を通過するごとに、魔獣の排除された空間が広がっていく。


 頭上を旋回していたのは魔獣だった。


 投げ縄が首に締まり、そのままブン回され魔獣を薙ぎ払っていく。


 そして大人三人の重量をゆうに超える魔獣を鈍器にしているのは、俺の背後にいる華奢な少女。


「道を作るよ! 準備して! 3!!」


 返事を待たずカウントダウンが始まる。


「2!!」


 グラニに目配せをする。


「1!!!」


 


「0!!!!!」


 頭上を旋回していた魔獣ハンマーがなくなる。


 身体を捻りながら立ち上がり、その流れでグラニに飛び乗る。


「北上だ! 一旦森から離れるしかないよ!!」


 リリがこちらに手を伸ばす。


 その手を掴み引き上げる。


「駆け抜けろ! グラニ!!」


 リリの放った魔獣ハンマーによって魔獣の層が薄くなっている地点から切り込む。


i(イス)!!』「はあああ!!」


 俺の神力とリリの弓矢、グラニの馬力で魔獣の海を突き進む。


(間違いなくあそこへの道の鍵はあの湖の地点にある。 はたして再び此処に来ることができるのだろうか?)


 注意が逸れた瞬間、何かがグラニの側面に衝突しバランスが崩れる。


 何とか踏ん張り転倒を回避するが、俺達は振り落とされグラニの足が止まってしまう。


 しかし悠々と俺達の前方に回る衝突の主、その姿にリリの顔色が変わる。


 馬型の魔獣、しかしそれは魔獣でありながらも馬だった。


 その巨躯、六本の足、肉食獣のごとき牙、そのいずれも馬の範疇を超えているが、ただそれだけ。


 混ざり物の気配を感じず、その目に宿る炎は魔獣たちほど単純ではないように見えた。


 馬型の魔獣が周囲の魔獣を踏み荒らしながら歩を進める。


「……………………グル…………」


 リリが矢をつがえる。


(しかしこれでは……)


 特異な魔獣の出現と未だ降り続ける黒いもや、そこから生まれ続ける魔獣たち。


 先ほどの地点からどれ程移動できたかもわからない。


 リリを見ると、彼女の体が僅かに震えている。


 その震えが大きくなる、俺の身体も震えている。


「いや、これは…………地震!?」


 揺れがどんどん強くなる。


 突如魔獣たちが一斉に遠吠えを始めた。


 先ほどまでの殺意の唸り声とはまるで違う、気色悪くもどこか厳かなその声色に圧倒される。


(この感じ……どこか讃美歌の様な……)


 そんな中、リリと馬の魔獣だけはお互い視線をそらさず向き合っている。


 馬の魔獣が一歩踏み出す。


 リリが弓を引き絞る。


 馬の魔獣の姿が揺らいだ瞬間、バキリ! という轟音が鳴り響く。


 バキバキバキバキバキバキバキ!!!!!!!!!!!


 地面が割れる。


 魔獣たちも、魔獣のなりかけも、地表を覆う灰も、馬の魔獣も、リリも、グラニも、俺も、何物も例外なく奈落に落ちていく。


 落下する中、近くを落下する魔獣のなりかけが声を発する。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――シド君――――――――――――――――――――――」


 その死者の声に俺の名前を聞くが、互いの落下速度の違いでそれ以上正確なことは聞き取れなかった。


 一寸先も見通せなくなる。


 




 そして明暗が反転した。

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