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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
58/77

第五十七話 未来に乾杯

更新大幅に遅れて申し訳ありません。

これからも更新していくので何卒長い目で見てやってくれれば嬉しいです!

 モアの決起式が終わり、それぞれ一日の休息が与えられた。 これまでの村人たちの積み重なった肉体的、精神的疲労の緩和、そしてこれから何が起きても悔いの無いように。


 ある者はようやく自らの家族を弔う時間を得る。 またある者は残りの時間を愛する人と共有する。


 久方ぶりに村に静寂が訪れる。


 俺は自然とグラニのいる馬小屋に足を向けてた。


 軽く馬小屋を掃除し、水と餌を補給する。

 

 一息ついてグラニの縄を外し、座らせる。 そしてその側面に背中を預ける。


 頭の中は神の一種とも言われる魔獣の王ニーズヘッグのことだ。


 否、正確にはニーズヘッグ自身の事ではない。 もし自分がニーズヘッグを倒したときシド・オリジンという存在はどう変化するか。


(その時はハルの姿を両目で見据えることができるだろうか……きっと、いや絶対できるはずだ。 神殺しであればそれくらい)


 この戦いの目的を自分の中で明確化する。 アランが父の遺志を継ぎ、ロズがこれまでの人生を懸け、戦いに挑むように。


「あれ? シド君もここに来たの? 本当にグラニが好きなんだねー」


 声をかけられ顔を上げる、リリだ。


「リリか、この日まで馬小屋に足を運ぶなんて本当に馬が好きなんだな」


 何の気なしに口にした言葉だった。


「まあねー、馬たちにも今日の休息は必要だからね。 明日から彼らも働きづめになるんだからちゃんと休ませてあげないとって思ってきたんだ」


「それに弔ってあげなきゃいけない人も、一緒に過ごす人も僕じゃなきゃいけない人はいないから……」


 しかしそれは余りに軽率な言葉だった。


「僕は捨て子なんだ、赤ちゃんの頃にモアさんに拾われたから両親の顔も知らない。 ゲッテルデメルングの最中だったからもう生きてないかもね。 もちろん親しい人もいたけど今日は家族と過ごしたいでしょう? 馬の世話は僕じゃなきゃって思ってきたんだ」


 リリの表情は変わらず笑顔のままだ。 しかしその笑顔の端に寂しさを感じとる。


 グラニがブルルと嘶く。


「あ、ゴメン! 僕のことは気にしないでのんびりしてね」


 そうは言われてもこんな空気では休まるものも休まらない。


 リリは馬たちの毛づくろいを始め、再び声をかけるのもはばかられる。


「おーい、探したぞシド」


 素晴らしいタイミングでアランの声が聞こえる。


 今日、アランはアルハンの葬儀を行っていたはずだ。


 右手を上げて返事をする。


「アランくん、こんちは。 シド君を探しに来たの?」


「ああ、リリ。 ちょっといいものが手に入ったんで声をかけに来たんだ、お前もどうだ?」


 アランは籠をクイッと持ち上げる。


「僕は遠慮するよ、きっと呼びたいのは僕じゃないだろうからね」


「そうか、そう言うならいいけどな……」


 アランは思わず苦笑し、座っている俺に手を伸ばす。


 その手を取り起き上がる。 グラニを見ると「行ってこい」と言うように鼻を鳴らす。


「リリ、グラニの事を頼む」


「オッケー、任された! 楽しんでおいで!」


 リリは両手を大きく振り、俺らを見送った。


 


 アランが向かったのは村のはずれ、誰に会いに来たのかは明白だった。


 ロズの背中が見える。 腰に剣を置き、構えを取っている。 いつもの彼女の構えではなくリーレの方に近い。 つい足を止めてこれから起こることを見守る。


 ガキン   音がした。


 それが抜刀の音だと理解したのはほぼ同時に聞こえたカチンという納刀の音の後だった。


「スゲーな、ロズ! 今のリーレみたいだったぜ。 ちょっと休憩しないか?」


「…………アランとシド、準備はいいのか?」


「今日は休みだ。 あそこにいなかったお前は知らないだろうが」


「そうそう、だから今日は休むことが仕事だぜ。 まあ自主練は立派だが」


 俺たちの言い分にロズはため息を吐く。


「分かった。 休憩する」


 そうして俺たちは籠を囲んで座った。


「いいものを持って来たんだ。 アルハンの遺品にあったのを持ってきた」


 アランが籠から取り出したのはパンと果実、そして見慣れないボトル。


「酒だ、昔アルハンが村長に就任した時にアルダから贈られたものらしい」


 酒をカップに注いで俺たちに回す。


「飲んだことは?」


 アランが俺たちを見まわす。


「俺はない。 これが初めてだ」


「ある。 昔はなんでも食ったし何でも飲んだ」


「なんだよ、ロズは初体験じゃないのか。 まあいい、今俺たちは大人にならなければならない、状況が状況だからな。 そして俺にとってこれはけじめの意味もある、あの二人の後に続く村長として。 それでは、俺たちの未来に……乾杯!!」


 俺たちはアランの音頭に合わせてカップを掲げる。 そして一気に飲み干す。


「うお、なんだこれ! なんか変な味だな」


「……旨い、これは私が成長した証なのか、単にあの時の酒がまずかったのか……」


 それぞれが感想を言い合う中、俺はボトルに目を向ける。


 何かが薄く刻印されている。 しかしそこから邪気は感じられず、むしろ不思議な安堵感を覚えた。


 この氷のように冷たく、火のように激しい神秘的な酒を飲みパンと果実をつまみながら久しぶりの他愛のない会話を弾ませる。


 日が沈み始めるころには籠の中の物はすべて食べ切り、地面に寝そべり空を眺めていた。


 空が薄暗くなり星々が顔をのぞかせ始める。 夜風と共に寝息が聞こえてくる、何時の間にか二人共眠ってしまったようだ。


 二人共それぞれ疲労が溜まっていたのだろう。 


 二人をどうしようか考える。 二人共今の辺境の主力、ここで体調を崩すなんてことはとても笑えない。 しかし彼等の安眠を妨げるのは気が引ける。


(俺が背負って往復するしかないか)


 ふと気配を感じ後ろを振り返る。


 そこには何時からいたのかグラニが佇んでいた。


「グラニ、お前は本当に良く出来た奴だな。 じゃあ二人を頼む」


 かがんだグラニにそっと二人を乗せ、寝床に運ぶ。


 無事彼らを起こす事はなかった。




 

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