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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
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第五十六話 決起の刻

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

「話はリーレの母から聞いた。 ナイトメアは、私が討つ」


 扉を開け、モアにそう言い放つロズ。


「来たか…………ギャラルの娘ロズ。 そのことで君に言っておかなければならない事がある」


 ロズは現状、辺境の主戦力と言っても過言ではない。


 その事実を踏まえ、さらに過去の因縁を考えればロズがナイトメア討伐隊に参加するなんてことは当然だろうと、俺とアランは確信していた。


「お前のナイトメア討伐隊への参加は認めない」


 しかしモアの返答は否定だった。


 当然ロズはモアに詰め寄る。


「理由はあるんだろうな?」


 座っているモアを立っているロズが見下す。


 その場の雰囲気の割にロズの口調は冷静だった。


「…………当然、ある。 一つ、単純にお前の戦闘スタイルに合わせられるものがいない。 シド、アラン双方に別の仕事がある今回、辺境本来の連携ができるチームが最適と判断した」


「二つ目は……」と続けながらモアは席を立つ。


「我と戦ってみればわかるだろうよ」




 オーグ邸の表、ロズとモアが向かい合う。


 ロズの手には片手剣が二本に腰にもう二本下げている多刀流、一人で七年間魔獣を狩り続けたその実力は言うまでもない。


 対するモアの武器は杖、その長さは巨漢であるモアの身長もを超えている。


「ロズ、お前がナイトメアに抱いている感情がどれ程のものかは我にはわからん。 かつての抱いた復讐心からか、はたまたけじめ故か」


 モアが目を伏せた瞬間、ロズが動いた。


 左手の剣の投擢、剣は一直線に顔面に向かう。


「ッ! フン!!」


 モアが杖で剣をはじく。


「成程、投剣は自らの間合いに入るための布石か!」


 アランが叫ぶ。


 確かにモアの杖の間合いはロズの剣の間合いより遥かに広い。


 ロズは不意打ちによりモアの動きを一瞬制限して一気に距離を詰めと言うことか。


 その思惑通りにモアの懐深くに入りこみ、再び装備した二本の剣で斬撃を放つ。


「そこだ!」


 ロズが宙に投げ飛ばされる。 


{!?」


 ロズが背中から地面に落ちる。


 すぐに立ち上がり再びモアに突っ込むがその刃は悉く空を切る。


「わかるか、ロズ」


 息の上がるロズに涼しい顔をしたモアが問う。


「今の君の剣は獣の刃、魔獣を殺すことに関してはそれで良いのだろう。 しかし獣の剣ではナイトメアを倒すことはできん」


 モアが杖を振るう。


 ロズの防御は間に合った様だがその威力を殺しきれず、地面を転がる。


「ナイトメアはただの魔獣ではない。 姿かたち攻撃方法からすればむしろ人と言える。 ならばその攻略方法は対人ということになる。 魔獣狩りの出る幕ではないのだ」


 モアの視線がこちらに向く。


「シド、ロズの手当てを頼む。 アランは我と共に来い、作戦の細部を詰める」



 アランとモアはオーグを探しに村を歩いている。


「モアさん、ナイトメア戦についてなのですがやはりロズは…………」


「駄目だ」


 アランの言葉を間髪入れずに否定する。


「…………他にも理由があるんですか? ロズの戦闘のセンスは非常に高いです。 さらにあの剣術、ギャラルの剣技が根幹にあります、少ない時間でも対人の剣技を習得できると思います。 それは貴方もわかっているでしょう?」


 モアの足が止まる。


「流石だ、アラン。 アルハンの息子なだけはある」


 モアが空を見上げる。


「………………辺境を守る、それを我は辺境の『未来を紡ぐものを守る』とそう捉えている。 だが今の辺境はお前たちやさらに幼い子供たちの力すら必要だ。 それはいい、過保護すぎるのも良くないし辺境で生きるってのはそう言うことだ。 だが我は如何なる理由があろうと身内をその手に掛ける、その行為を容認できない」


 最後の一節は静かにしかし重くアランに届く。


「辺境に居を移したものはその多くが神々の、人々の、そして神と人の争いから逃れた者達だ。 そのような者たちに、その子孫にそのような業を負わせられん。 …………身内を殺したものに幸せは訪れないのだ、アラン」


 そこまで聞いてアランはモアが言外に伝えたいことを理解した。


 ロズに圧し掛かった過酷な運命を。


 そしてアランに話しているモアの表情は窺うことができなかったが、自分の何倍もの人生を歩んだモアの言葉に口を挟む事はできなかった。


「ロズが何度来ようがその要求を呑む事はない。 例え作戦実行までにどれ程強くなっても我はロズを打ち倒す。 これは試練ではない、完全なる却下なのだから」


 モアは歩き出す。


 アランに対し改めて口にすることで己の考えを明確にしたモア。


(ロズの顔を見て、ナイトメアの正体についてアルダの予想が正しいことを悟った。 そしてアランの言っていることも的を得ている。 しかしロズをニーズヘッグの前哨戦であるナイトメアに切るわけにはいかないのだ)




 

 倒れ伏したロズの顔を覗き込む。


「ロズ、これからどうする?」


 モアの戦いにおいてロズの剣は届かなかった。


 しかしロズのナイトメアへの気持ちは多少は分かっているつもりだった。


 ナイトメアを殺すために七年の月日を捧げたのだ。


 先ほどのモアの対応はロズを暴走させる危険性がある。


「どうするも何も、お前にはお前の役割があるだろう」


 そんな想像とは裏腹にロズは冷静だった。


「まだ時間はある。 対人剣の当てもある。 それでもしナイトメア討伐作戦までにモアの首を縦に振らせられなかったら、その時は私にできることをするさ」


 未だその目には強い覚悟が満ち満ちていた。 

 

 



 その後モアにより広場にこの村にいる全辺境の民が集められた。


 しかしその中にロズの姿はない。


 しばらくするとモアを先頭に東の村の村長オーグ、アルダに代わり南の村の村長代理、エルそしてアルハンに代わりレーネの村の村長代理アランが皆の前に現れる。


「諸君、知っての通り辺境は未だかつてない危機に瀕している。 今や東は壊滅、村長たちの多くは死んだ。 しかしこれは前座に過ぎない」


「魔獣の王ニーズヘッグ、かつてかの大神ウォーデンが封じた化け物が目覚めようとしている。 当然その力は統率個体を上回るだろう」


 人々がどよめく。


 それをエルが手で制する。


「当然現状のままでは辺境はただ滅びるのみだろう、故に策を講じる。 かつてのエインヘリアルが用いた神器『方舟』を持って千年前の再現を行う。 ニーズヘッグ復活前に『方舟』を見つけナイトメアを撃破、そのまま南東に存在するニーズヘッグを強襲する。 それが我々辺境の生き残る唯一の道だ」


「従って諸君らを五部隊に振り分ける。 『方舟』を探す捜索隊、村で食料や装備を整える整備隊、村を守る守備隊、魔獣共の動向を探る調査隊、そしていざという時の為の決死隊。 それぞれ南の村自衛団リーダーエル、東の村レイジの妻カレン、東の村村長オーグ、レーネの村アラン、そして我モアが隊長を務める」


「諸君…………神を、殺すぞ!!!」

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