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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
56/77

第五十五話 各々の戦い

更新が遅れて申し訳ありません!


いよいよ、一章もクライマックスです! これからもお付き合いいただけると嬉しいです!

 オーグの家には二人の巨躯の男性が胡坐をかいていた。


 一人は戦闘は不可能と言われていたオーグ、そしてもう一人は死んだはずの中央の村のモア。


「どうした? シド。死人を見た様な顔をしおって!」 


 そう言ってモアは豪快に笑う。


「当たり前だろう……中央の村は全滅したと聞いてたからな。というかオーグ、もう大丈夫なのか?」


 俺はモア達と同じように胡坐をかきながら答える。


「座っているぐらいはなんてことないわ!」

 

 オーグはそう言って立ち上がる。


「どこに行くんだ? 小便か?」


「いや、モアの爺さんがお前らに話したいことがあるらしいからな。俺はその間、リーレを見に行っておこうかと思ってな」


「なるほどな。リーレはリリと一緒に向こうの家にいるはずだ。それにしてもオーグ、お前は聞かなくていいのか?」


 アランはそう言って、オーグに向き直る。


「ああ、もう聞いたからよ。二度も聞く必要はねえ」


 そう言ってオーグは乱暴に戸を開けて出ていく。


「オーグはそう言っておるが……突拍子のない話だから信じ切れておらんのかもな」


 モアはそう言うと、先ほどの好々爺の表情から一変する。


「儂はお主等に魔獣王……世界を喰らう大蛇、ニーズヘッグの倒し方を伝えに来たのだ」





「リーレ、おめえは俺が休んでる内にも命を懸けていたんだな……」


 そう言うとオーグはリーレのいる家の戸を開ける。


「リーレ、いるか?」


 その言葉に反応はない。


「チッ、リリもいるって聞いたのにどっか行ったのか。あいつ」


 きつい言葉とは裏腹にオーグの表情は穏やかだった。


「ここ最近の辺境は人が多く死ぬからよ。お前らを送り出した時はよ、じつは心配だったんだよ」


 オーグは横になっているリーレの隣に胡坐をかく。


「聞いたぜ、老師のとこのベルンも死んだんだってな。それ以外にもアルダの爺さん、アルハンにレイジのおっちゃん。信じらんねえよな、俺たちよりよっぽど強くて頼もしいやつらが次々と死んでいくんだぜ」


 オーグの強面はくしゃくしゃに歪んでいた。


「だからよ。お前が……おまえがぁ、生きててよかったぜ。本当に、本当に……」


 拳を強く、つよく握りしめる。


「だからよぉ、先達方が死んだ今! 俺が守らなきゃなんねえ。そうだろ? リーレ」


 オーグは立ち上がって、壁に立てかけてある剣を手に取る。


「俺は行くぜ。辺境を、仲間を! 守る為によ……」


 家を出る寸前、オーグはそっとリーレの髪を撫でる。


 家を出たオーグは村の外に出る。


「って、なんでお前がいるんだ?」


 後ろからついてくる人影に声をかける。


「えへへ、バレちゃったかぁ……ところでさ、何しようとしてるの?」


 オーグに声をかけられたリリは質問をする。


「質問に質問で返すんじゃねえ。それに、お前には関係ないだろ?」


 リリの質問に対してオーグは不機嫌そうに答える。


 そしてオーグはリリを無視して覚束ない足取りで剣を振り始める。


「ねえ、僕の目には辛そうに見えるけど?」


「うるせぇな。お前には関係ねえだろ!」


 リリの言葉にオーグは苛立つ。


「こんな……の! 屁でもねえ!」


 荒い息を吐きながらオーグは必死の形相で剣を振る。


「こんな事して、悪化でもしたらリーレさん悲しむと思うよ?」


 ガンッ!


 オーグは剣を地面に突き刺す。


「はぁ……はぁ……うるせえんだよ! 俺は、俺はよお!」


 重症を負っているにも関わらず酷使されたオーグの身体は崩れ落ちる。


「クソが! クソが……」


 言うことを聞かない身体にオーグの焦燥と苛立ちは高まる。


「オーグ村長……」


「うるせえ! 今度はなんだ!」


 地面に突き刺さった剣をリリが抜く。


「戦闘は出来ないって言われてたんだよね? そこまで頑張るのはリーレさんの為?」


「あん? お前にはかん――――――――――」


 先程と同じようにオーグが雑に答えようとするが、リリの先ほどとは違う雰囲気を察して言いよどむ。


「答えて。オーグさん、貴方が無理をする理由」


 リリの真剣な表情を見てオーグは息を整え答える。


「リーレの為っていうのはある。だけど、それだけじゃねえ」


 荒い呼吸を合間で整えながら言葉を続ける。


「お前も知ってると思うが、今の辺境は多くの人が死んだ。戦える奴は西側の村の自警団くらいのもんだ」


 さらにオーグは顔を険しくする。


「それにだ、魔獣共の親玉が攻めて来るっていう。絶望的な状況だ……だからよ、今の辺境には少しでも戦える奴が必要だ」


 オーグはなんとか立ち上がり、リリの前に立つ。


「それに、モアの爺さんが言った作戦に俺は……参加しなきゃなんねえんだ」


「だから、止めないでくれ……」


 オーグの言葉にリリは一息を吐いて。


「分かったよ。そこまで言われたら、止められないね」


 リリはオーグの目の前の地面に剣を突き刺す。


「だけど、君のサポートは僕はするよ。馬を育てていたからね! 筋肉の調子とか結構詳しいんだよ!」


 リリはそう言ってオーグに笑いかける。


「チッ、それじゃあ……俺が馬みたいじゃねえか……」


 オーグは苦笑いで答える。


「あっ……いや、そう言う意味じゃなくて……役に立てるかなって……ね?」


 オーグの言葉にリリは慌てて訂正しようとする。


「わーってるよ。リリ、手伝ってくれ」


 そう言ってオーグは目の前の剣を引き抜く。


 反動でふらつく身体をリリが支える。


「ありがとよ」


 オーグは剣を振るう。来るべき辺境の命運を懸けた戦いの為に――――――――――





 モアの話した作戦は俺たちを驚かした。


「方舟……? そんな物が本当にあるのか……」


 俺たちの驚嘆とは裏腹にモアは真面目な顔を崩さない。


「ああ、ワイズが保管していた古文書にはそう書いてある」


 モアの話は突拍子も無いが……


「かの【大英雄】シグルド達が使った対ニーズヘッグ用の神具だって言われるとな……」


 そんな気もしてくる。


「というかシド、なんで俺も知らないのにシグルドのこと知ってるんだ……?」


 アランが不思議そうに尋ねる。


「ああ、俺は……」


 ふと、考える。


 俺がヴァルハラ出身だと知っているのは“今”知っている人は辺境にはいない……。アランは信頼できる友人だ。けど、俺の秘密はアルダが秘密にしておけと言っていた。


 どうする? これからも隠し続けるのか?


 いや、良い。


「俺はヴァルハラ出身なんだ。そこで毎年シグルドを称える儀式が合ったからな。知っていただけだ」


「なんだ、そういうことか。というか毎年そう言う行事があるっていうのは良いな!」


 俺の言葉にアランは笑顔で納得する。


「……思ったより反応薄いな」


 俺は少し不思議に思う。


「いや、まあ辺境以外の出身だったらヴァルハラかミズガルズの出身だっていうのは予想がつくしな。まあ、辺境の中だと”例の件”があるから、吹聴するのはよした方がいいな」


「例の件ってなんだ?」


 アランの言うことに疑問が沸き起こる。


「はぁ、話が脱線したが、それについては儂が説明しよう」


 俺の問いにモアが答える。


「例の件っていうのは、ヴァルハラの独立戦争の際に起きた殺戮のことだ」


「殺戮って……どういうことだ?」


 聞いたこともない話。


「そのままの意味だ。ヴァルハラの指導者の一人が起こした無差別、広域にわたる殺戮だ。その殺戮の被害の一部に辺境がかかっていたからな。それ以来辺境ではヴァルハラを恐れ接近して衝突を避けようとしたのだ」


 先程の方舟以上の衝撃が走る。


「その、ヴァルハラの対応を担当していたのが、この東の村のレイジが行っていた。お主等も見たろう、この村に訪れていたヴァルハラの貴族共を」


「モアさん。それぐらいで良いよ。それより、作戦の詳細を教えてくれよ」


 饒舌になっていたモアをアランが諫める。


「おお、そうだったな。すぐ熱くなってしまう。老人の悪い癖だな……。作戦を伝えよう!」


 モアが居住まいを正すのを見て、俺とアランも居住まいを正す。


「ニーズヘッグを討つ際に問題が二つある。一つは最後の統率個体ナイトメア、もう一つは方舟を確保することじゃ」


「方舟を確保する? どこにあるか分からないのか?」


「いや、場所は分かる。しかし、肝心な行き方が分からんのだ。【神の庭】と呼ばれる場所だ」


「神の庭か……心当たりはある」


 アランとモアの会話に俺も加わる。


「……お前、いつからそんな博識になったんだ?」


 アランが冗談ぽく言う。


「いや、東側に行く途中で迷い込んだ場所がそんな気がするんだ。まあ、確証はないけどな」


「ならば、方舟までの道案内はシド、お主に頼もう。そして、問題はもう一つナイトメアだ」


 モアはそう言うと顔をしかめる。


「ナイトメア……最後の統率個体であり魔獣の暴力の他に武術の技を持つ強敵。 奴をニーズヘッグと合流させるわけにはいかん。 ニーズヘッグが目覚める前にナイトメアを狩る」


「…………そうだ、統率個体について報告が」

 

 俺の言葉を遮り、扉が開け放たれる。









「ナイトメアの討伐は、私に任せてほしい」


 そこに立っていたのは覚悟を決めた少女だった。



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