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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
55/77

第五十四話 カリギュラの最期と更なる決意

更新が遅れて大変申し訳ございません!

これからも更新続けていくので宜しくお願い致します!

 これは本当に最後の手段だった。 


 自らの体内で残りのエネルギーを爆発させ広範囲を蒸発させる技。 発生ぎりぎりまで敵に察知されにくく殺傷力も極めて高く、そして何よりあの業腹なルーンを刻まなくても発動できるこの技だが自らの体内で爆発を起こす以上我が体へのダメージも大きく発動直後は行動不能に陥る諸刃の剣。


 つまりこの技の発動後近くに敵が残してはならない。


 まず目にエネルギーを回し再生を促す。


 開かれた高度ゼロメートルの視界には果て無き灰の世界と崩れかけの塊が映し出される。


 もはや周囲に行動が可能な敵はなく、後はこれから駆けつけるものが辿り着くまでにここを去ればいい。


 四本の足を再生させる。


 この時ばかりは我の回復力を恨む。


 しかし我がこの技を使い撤退を余儀なくされたのは何時振りか。


 あの戦いは回復しない腹部の傷と共に魂に刻まれている。


 数千年前、母上の力を恐れたウォーデンは自ら当時のエインヘリアルを率いて母上を殺そうとした。


 我々はこの辺境の地で奴らに迎撃戦を仕掛けた。


 結果から言えばウォーデンは戦場に出なかった。


 母上と我々はエインヘリアルに対処された。


 そして我ら統率個体は当時のエインヘリアルの隊長に負けた。


 ウロボロスとナイトメアは殺された、コアの完全破壊を以て。

 

 我にも奴の、エインヘリアルの隊長の『羽』が迫ったとき我は自爆した、せめてこいつだけはと――――――――


 そして気が付いたときにはすべてが終わっていた。


 母上はすでに沈みエインヘリアルは撤収していた。


 我が捨て身の一撃は相討ちはおろか戦況を変えることもできず、あまつさえ数千年の生き恥を晒すことになった。


 故に此度失敗しない。


 臆病だとと(ウロボロス)は嗤ったが奴は倒れ我もこの有り様だ。


 やはり我は正しかった、此度こそ母上に刃が届くなんてことはあってはならない。


 足に感覚が戻る。


(さあ、足を動かせ! 我が千年の終着点はこのような場所ではない!)


 一歩踏み込むたびにその衝撃で体中から血が噴き出す。


 一歩一歩体の崩壊と再生を繰り返しながら前へ転がるように進む。


 視界が赤く染まる。


 古傷が開いたのだ。


 その傷に再生力は回せない、足の再生でギリギリなのだ。


 五感を失ったまま、少し動くだけで肉体が崩れる激痛に耐えながらひたすら前進する。


 どれほど立っただろうか。気力、体力、回復力が尽きようかという頃、足に何かが引っ掛かる。


 もはやバランスの崩れた体を立て直す力はない。


 我は確信した。


(しのいだ!)


 灰と化した領域に歩みを阻む障害物は存在しない。


 そして今触れている大地の触感は明らかに灰ではなかった。


 我は離脱に成功したのだ!


(しかし眩暈がひどい、十分な休息が必要だ。 来るべき母上の目覚めまで少し――――――――――――――――――――


 否、これは眩暈ではない! 確かに頭が揺れて…………転がっている!?


(首を落とされた!? 感覚器の回復を疎かにしたせいで敵の接近を察知できなかったか!)


『魔獣の統率個体、その目は深紅色と言われているがこう血まみれでは分からんな』

 

 五感を失っていても、確かに頭に直接声が響いてくる。


 感覚器、とりわけ嗅覚を再生させる。


(敵が一人なら、今の我でもあるいは!)


 香りが脳に届く、そしてすべてを悟った。


(我は辿り着けなかったのか、ここは『神の庭』だ。 そしてお前はシグルド……勝てない―――――――――――――――



  


 ズグザッッッ!!!               パリン



『シグルド……ね、光栄なことだ』


 ジグムンドはカリギュラの腹部に突き立てた剣を引き抜く。


『まさか統率個体が迷い込んでくるとは、向こうで相当の衝撃があったか?     シド』


 



 ロズは体に伝わる振動によって目を覚ました。


「……アルハンさん!!」


「起きたかロズ、無事で何よりだ」


 隣にあったのはロズを見上げるシドの姿。


「見つけた時、おまえはリーレと共に気絶して倒れていたんだ。 グラニの上に乗せて運んでいた」


 後ろにはリーレを乗せた馬とその手綱を引くリリの姿があった。


「ロズ、目が覚めたんだね! リーレさんは大丈夫よ、まだ目覚めてないけど心臓も動いているし息もしている。 目立った外傷もないしすぐに目覚めると思うわ」


 リリの言葉にロズは胸を撫で下ろす。


「そうだカリギュラは、カリギュラはどうなったんだ? あそこにいたはずだ」


「死んでいた。あれはお前がやったのか?」


「そうか、倒せたんだな。    繫げたんだな、私も……」


 答えになっていない答えだったが、その声色から滲み出す感情に言葉を掛けることができなかった。


 その後一行にはロズの噛み殺した嗚咽だけが響いた。




「シド! ロズ! リリも! 無事だったんだな、よかった…………」


 東の村に到着したシド達を出迎えたのはアランだった。


「ああ、なんとかな。 アランも無事でよかったよ」


「それで、ロズは…………」


 アランがロズの顔を覗き込む。


「…………アラン、お前の父アルハンが死んだ。 勇敢な最後だった」


「………………そうか、でも無駄じゃなかったんだろ? ロズが生きているんだから」


 アランがにかっと笑う、しかしその声の震えを隠すことはできていなかった。


「……アラン、気を使わせたな。 悪いがリーレを頼む、昏睡状態なんだ」


 そう言うとグラニから降り村に入っていく。


「ロズ!」


 此方の声に振り返らずに呟く。


「大丈夫、今日中に…………飲み込む」


  


「いっちまったな、ロズの奴……こっちも大事な話が」


 アランがため息をつく。


「大事な話? 何かあったのか?」


「そうだな……ロズには悪いが俺たちに残された時間は多くない。 シド、リリ、リーレを家に送ったらつきあってくれ、会ってもらいたい人がいる」


「話はロズちゃんから聞いてます、リーレのことはお任せください」


 リーレの家を訪ねると表でリーレの母が待っていた。


「ロズが来たんですか?」


「ええ、夫について少し話しました」


「!レイジさん……」


 その言葉に否が応でも反応してしまう。


 先ほどロズがアランに語った内容が想起する。


「…………シャンとしなさい、アラン、シド、リリ! 貴方達がそんな顔をしては命を懸けた人達が報われません。 今は貴方たちは貴方たちのするべきことをしなさい」


 そう言うとアランに一歩踏み出して表情を崩す。


「アランくん…………皆をよろしく頼むわね」


「! はい、後は任せてください……」


 彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいた。



 目的地、東の村の村長の家に向かう道すがら、広場で沢山の人が肩を肩を寄せ合って震えている。


「…………今回の襲撃は犠牲が多すぎた、失った物がない人がいないほどに」


「東側は特にひどい。 此処まで逃げられたのはごく僅かな非戦闘員のみ」


「そして俺達は更なる敵と戦わなければならない、魔獣の親玉だ」


 そのことが初耳であるリリに冷や汗が伝う。


 オーグの家に到着する。


 外で待っていた男性にグラニとリリの馬を任せに中に入る。


 扉を開くと中から懐かしい声が飛んできた。


「魔獣の王、ニーズヘッグ。 かつての神々にも匹敵する存在。 その辺境最大の試練に対しての希望を持ってきた。 久しぶりだな、シド」


 それは死んだはずの中央の村長、モアだった。



 ロズは東の村に集まっていた村長たちの遺族への報告を終え、村の外円から東を眺めていた。


(この辺の木まで傾いている、あの爆風はここまで届いたのか)


(残る統率個体はナイトメアのみ……)


 脳裏に朧げな父の笑顔と中央の村で見せた歪んだ顔、そしてワルキューレとナイトメアの超常的な斬りあいがフラッシュバックする。


(戦いは終わってない、この戦いを無駄にはしない!)


 ふと懐に父の日記を思い出し、ページをめくる。


 日誌はボロボロになっていたが、それが盾となったのか奥に挟んだギャラルの剣術の翻訳書が無傷で出てきた。


 その剣術書を握りしめる。


 数刻の後、剣術書から顔を上げたロズの目には迷いはなかった。



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