第四話 辺境地域の村レーネ
一章開始です
よろしくお願いします
もう、どれ程走っているかわからない。
日もとっくに暮れている。
さすがのグラニにも疲れが見える。
グラニが足を止めたのは、見慣れぬ川辺だった。
俺はグラニから降り川の水を飲む。
「このような川、ヴァルハラにあっただろうか……」
昼間の出来事の衝撃が頭から離れなかったが、体はだいぶ疲労していたらしく、川のほとりで横になると直ぐ意識が遠のく。
気が付くと俺は見知らぬ廃墟に立っていた。
あたりを見渡すと前方に俺を護衛した五人が立っていた。
近づこうとするが体が動かない。
一番前の護衛の前に光の剣を携えた男が現れる。
その男は俺の前にいる五人を一人ずつ切り殺してくる。
次はいよいよ俺の番かというとき、俺に何者かが語りかけてきた。
『弱いな シド・オリジン』
何者だ!
『お前が弱いせいで五人もの兵士が夢半ばで死んだのだ』
うるさい
『弱ければ何もなせない。聖女もお前を見ない。』
黙れ!
『弱いままならば、死ねシド・オリジン』
瞬間光が俺を焼き尽くした。
「どうなされた、そこのお方」
絶叫と共に夢から覚めると、そこには見たことのない服装をした初老の男性が心配そうにこちらをうかがっていた。
「ん……ああ。俺のことか」
生返事にも嫌な顔をせず、初老の男性は
「ひどい顔色だ、うちの村に来なさい。少しばかりなら食料に余裕もある」
その男性に連れられ、グラニと共にその村にお邪魔することになった。
「実は今朝川に水を汲みに行った村の若い衆が、川のほとりで倒れているあなたと、あなたを守るように立っているその馬を見つけましてな。その知らせを受けた私が様子を見に来たのですよ」
村についた俺たちは、一番大きな家に案内されて事の説明を受けていた。
「おっと申し遅れた。私はこの辺境地域の村の村長をしている、アルハンです」
「助けてもらったばかりか食料や水までもらって、ほんとうにありがたい」
だが辺境地域、話によるとそこは神国ヴァルハラにもミズガルズ連邦にも属しておらず、ゲッテルデメルング以前も神々の支配を受けない世界の果て。
そんな場所に人が住んでいるとは……。
「辺境は初めてですか、なら驚かれるのも無理はない。神々と人々との闘いの際どちらにも与せずに戦火を逃れた者たちが、神々の力が及ばぬこの地に村々を作ったんです」
顔に出ていたのだろうか、俺の内心を察した村長が説明してくれた。
「まあ、体調が良くなるまでうちの村にいなさい。あなたの馬も少し休ませないと死んでしまうぞ」
「わかった、グラニの調子が戻るまでよろしく頼む」
こうして俺は辺境の村レーネで世話になることになった。
「村のはずれに空き家がある。そこを使いなさい」
村長から空き家の鍵を渡され、グラニと共に村のはずれに向かった。
城から見た城下の家よりだいぶ質素な家が多い中、俺が借りた家はそこそこの大きさがあった。
家の外にグラニをつなぎ、村長からもらった水と餌をやる。
村長の言葉を思い出し、グラニを撫でながら感謝を伝える。
「ありがとう」
甘えてくるグラニの相手をして家に入ると、少し粗雑な大部屋が俺を迎える。
荷物を置いて、料理をしたことがない俺はもらった食糧を適当に焼いて食べた。
食材の味を堪能し、腹が膨れた俺は一日ぶりの床で寝ることにした。
「グラニ、お休み」
グラニからの返事を聞き、床にはいる。
不安や昨日のことが脳裏によぎり今日はあまり眠れなそうだ。