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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
47/77

第四十六話 戦乱の影は今も尚

 目を覚ますと、見覚えのある廃墟に立っていた。


 何度か見た、あの夢の中。


 どうやら今回の魔獣との戦いにも生き残った(まけた)らしい。


 そして前と同じく背後に気配を感じた。


 ………………………………


 しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはムニンだった。


『まあ、何も話したくない気持ちはわかる。あれは完全に無謀だった、あの時の君には……』


 無謀?


『ああ、奴は遥か昔当時のエインヘリアルとの戦いを生き延び、千年もの間実質的に辺境を支配していた第一王子サマだ。他とは格が違う』


 ……………………でも倒さなきゃ


『そうだな、あの時は無理だったが…………『羽』があれば或いはな』


 『羽』?


 その問いが答えられる前に猛烈に体中が熱くなり立っていられなくなる。


『どうやら迎えが来たようだな。最期に導き手らしくいいことを教えてやろう、奴は確か……カリギュラといったかな』


 


 …………シドを送り出して、その背後にいた人影はハァ、と一息ついた。


『直接干渉は出来なくなったがシドは順調すぎるほどに仕上がってきている』


『ハハハ、ジグムンド。 貴様の行動は全くの無駄骨だったな』


『この辺境での戦いも最終局面に入りつつある…………ここが正念場だシド・オリジン、神の御子よ』





(われわれ)の存在証明のために』







「……………………ん ……ド……ん! シド君! シド君!」


「……………………………………リ  リ ?」


「シド君!? 良かった 気が付いた!」


「ッ! そうだ、アイツは!?」


 起き上がると目に入ってきたのは、熱線が通って出来たであろう抉れた大地と轟々と燃える残り火の線。


 しかしその線の最中にある自分の体の周りにはその傷跡も残り火も見当たらない。


「あの時氷の壁は貫通していたのに………………」


「シド君、ボーっとしている所悪いんだけど、これはどういう状況なのか説明してくれないかな?」


「そうだ、俺はアイツに……カリギュラに負けて………………今戦況はどうなっている!?」


「中央の村は黒い霧に包まれていて、村長たちの様子はわからない。 ロズちゃんはそれを見て中央の村に向かった」


「アラン君は皆を西側に避難させ、魔獣達を迎え撃つって言っていたよ」


 リリが話し終わったった時西風が吹いた。


 風から僅かに灰と血の匂いを感じ西を見る。


 すでに日が昇り始めていたが西方は未だに薄暗い。


「リリ、君が来てくれなければ全てが終るまでに目覚められなかったかもしれない。 助かった」


「ホントだよ! みんな心配していたんだよ! それでこれからどうするの?」


「西に向かう、あいつは俺が倒す。 今からじゃアランには追い付けないだろうな…………リリ一緒に来てくれ、絶対に守るから」


「フフッありがとうシド君。 でも大丈夫、辺境の女は強いのよ?」


「そうだったな」


 リリが馬に乗ったのを確認して西に向かおうと歩き始めると、何かに後頭部を小突かれる。


「なんだ?」


 振り返るとしれっとグラニが立っていた。


「お前…………無事だったか。 どこに隠れていたんだ、まったく」


「彼は君を守るように立っていたんだ。 本当にすごい馬だよ」


 そうだったのかと頭を撫でてやり、跨る。


「これなら十分巻き返せる。 行くぞ!」











 時を同じくして、中央の村


 ワイズ達が熱線跡から少し離れた空き家に避難をして一休みしていた。


「,8,9,10………………ここにいるのはこれだけか…………」


 リーレが何とかここまで避難出来た人数を数え、ため息をつく。


「ナイトメアとの激闘の直後での熱線だ。 二次被害も大きいものだった、逃げられなかった者はとても…………」

 

 ワイズの声色も疲れていたが体に鞭を打ち、重症者の手当てをしていた。


 リーレは部屋の端でしゃがみこんでいるロズの方を見る。


「ロズ…………」


「今は何を言っても聞かないだろう。 それよりもリーレよ、お前はナイトメアの正体を知っておったのか?」


 その問いの時、ワイズの声色が強まる。


「…………はい、確信はありませんでしたが」


「話してみなさい」


 はい、と怪我人の治療に一段落着いたワイズに向き合う。






 今でも鮮明に思い出すことができます


 七年前、私はレーネの村に流れ着いた一人の剣士ギャラルの下に弟子入りをして剣術を学んでいました


 とはいってもギャラルはさらにその一年前に謎の失踪をしていましたので、私はその人の家族の下で弟弟子アランと稽古をしていたわけですが


 ナイトメアがレーネの村を襲ったのは夜でした


 私のお世話になっていたその家は村のはずれにあり、外に出た時にはすでに魔獣達に囲まれていました


 私だけだったら何とか村の中心まで逃げ込めたかもしれません


 しかしお世話になっていたギャラルの奥さん、レナさんが様子を確認しようと外に出た時に魔獣によって足に怪我をしてしまいました


 私はたまたまその家に泊まりに来ていたアランに、村へ先行し応援を呼んでくるように頼み家に籠城することにしました


 その時の私は、怪我をしたレナさんとまだ幼いロズでは村までたどり着けないと判断したんです


 私が外で魔獣を家に近づけまいと奮闘していた時、夜においてもさらに黒い人影か魔獣の大群を割って迫ってきました


 ―――ええ ナイトメアです 姿は先ほど見た姿とさして違いはなかったと記憶しています


 ナイトメアと相対した私は勝つイメージを全くできませんでした


 逃げろ! とっさに叫んでいました


 その声を聞きレナさんがロズの手を引き、家から出てきました


 その刹那、ナイトメアの右手が振るわれ私は宙を舞い地面に叩きつけられました


 そして次に私が見たのは家の前で倒れ伏すレナさん、右手の部分が変形した黒の刀身に血が伝うナイトメア、そして直ぐ近くで座り込んでいたロズでした


 少しの静止の後ロズに向かおうとしたナイトメアにやってきたアルハン村長が斬りかかります


 共に来たアランがロズを保護し一旦安心したのを覚えています


 ナイトメアとアルハンが打ち合うのですが、その時の私はアルハン村長が負けることが分かりました


 その打ち合いはかつて見たギャラルとアルハン村長の手合わせと酷似していたのです


 手合わせでギャラルは負けたことがありませんでしたから…………


 おそらくその時にはアルハン村長は分かっていたと思います


 ナイトメアが止めの一撃を放つ瞬間に後頭部に突きを放ちました


 頭を傾けて回避を試みましたが、頭を包んでいた影の一部を裂きました


 裂いた影の中からこちらを見る目、そして赤い髪の毛が見えたんです


 怯んだ隙にアルハン村長が胴体に一撃を入れ、ナイトメアを撤退させました


 私はこの疑念を確かめるためにナイトメアを追い、もう一度黒い霧と共に襲ってくる魔獣の群れと会うことはできましたがアルハンの与えた傷が深かったのか前線には現れませんでした






 話はここで終わりです、とリーレが息をつく。


「……………………ギャラルの名は東の村々にも届いていた、とても強い流れ者が来たとな」


 しばらくお互いに思案するがワイズがそういえば、と洩らす。


「あの時の熱線はなんじゃ? ヴァルハラのの援護かとも思ったが、ワルキューレも巻き込んでいたな」


『獣だ。 第一の獣、その力だ』


 扉が開き、鎧の所々がくすんでいるワルキューレが外に立っている。


『急いで西に向かうんだな。 すでに辺境地域においてここより東に人の気配はない』


 それだけ言ってワルキューレは姿を消した。


 リーレが記憶を探りながら答える。


「確か…………熱線は南東からでした」


 ワイズが立ち上がる。


「…………確認するためにも一旦西に向かおう。 リーレ、馬車を探してきてくれ。 できるだけの怪我人を連れていく」






 







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