第四十五話 一期一会
久しぶりの更新です。
シドに続き、ロズまで走り去ってしまう。
「はぁ……ほんと、あいつらは……」
アランは仲間の行動にため息をつく。
「けど、いじけてばかりいてもしょうがないな!」
そう言って、自分に喝を入れて避難民と村の代表者を呼びに行く。
アランは代表者を集めて、話を始める。
「みんな、よく集まってくれた。これから話すことは受け入れ難いかもしれないが、俺はこれが一番確実な方法だと思っている。それを念頭に置いて話を聞いてくれ」
アランの真剣な様子に代表者達は黙って続きを待つ。
「この東側では、一つ目の獣が擁する白き魔獣達が村々を襲って回っている。村長が不在の状態で対処できるものではない……」
ここで、一息ついてアランは代表者達を見回す。
それぞれ、認めざるを得ない状況の為に代表者達も頷いている。それを確認してアランは話を続ける。
「それで、俺は西側に避難することを提案する」
アランの提案に黙っていた代表者達も流石に声をあげる。
「西側に避難する……ですと? 我々が命を懸けて開拓した東側を捨てろと仰るのですか?」
「いくら、魔獣が強いと言えどもそれなりの人数が協力すれば倒せぬこともないでしょう? なのに、いくらなんでも村を捨てろというのは……」
良馬の村の代表者達を中心とした反論意見を、アランは静かになるまで聞き続ける。
静かになったことを確認し、アランは口を開く。
「確かに、白き魔獣達だけなら対処できる可能性はあった……しかし、貴方たちは見たはずだ。中央の村に黒い霧が立ち込めているのを……中央の村に頼れない現状では被害を受けてないであろう西側に避難する以外に方法はない!」
語気を強めて、アランは説得する。
「もし、このまま東側に残り戦っても勝ち目はない。なら、東側に比べて魔獣との戦闘経験が豊富な西側に避難して迎え撃つのが堅実的だ。それに、西側の協力があれば一度、東側が奪われたとしても取り返せるかもしれない。恐らく、打てる手でこれが最善なんだ……分かってほしい……」
アランは言葉を尽くして語りかける。
「あなた方は我々を守ってくれました。助けてくれたあなたが言うことです。西側に避難することを受け入れましょう」
最初にアラン達に助けられた避難民たちが賛同する。
「我々を思ってのことだと、理解しました……。我々の命を預けましょう……」
続いて、良馬の村の代表者も賛同する。
「ありがとう。このアランが責任をもってあなた方を西側に避難させてみせる! だから、みんなも協力してくれ!」
アランが話しを終わらせると、それぞれ何をもっていくか、何をもっていかないか等を話し合う。
代表者の一人が、アランに問いかける。
「あの……ほかの村はどうするんですか?」
「全ては……助けられないだろう。避難路に近い村は出来るだけ助けるつもりだが、どれだけ助けられるかはわからない」
「そんな……!」
アランの厳しい想定に膝をつく、代表の一人。
そんな彼に他の代表者達は厳しい言葉を投げかける。
「そんな村を助けて回って、逃げ遅れたらどうするんだ! 道すがらの村を避難させるのだって時間がかかるというのに……」
先ほどまで避難に反対していた彼らの厳しい言葉にアランも苦笑いを浮かべる。
そんな中、ドタバタと少女が駆けて来るのが見える。
「ふぅ……東側の村全てを避難させるのは無理でも……道すがらの村くらいなら避難させる方法はあるよ!」
勢いよく走ってきて、堂々と少女は宣言する。
「どうやって……あっ、馬を使う気か? リリ」
先ほど、厳しい言葉を発していた者がリリの言葉に納得した様に返事をする。
「そうだよ、馬に荷台をひかせればお年寄りや幼子、妊婦の方の移動に時間を取られないからね! 道すがらの村を避難させる時間は稼げると思うよ。なんたって、名馬の村の馬だからね!」
それを聞き、アランも反応する。
「なるほど、頼めるか? リリ」
「うん! 僕に任せて!」
リリはアランの頼みを快く承諾する。
そうして、それぞれ準備に動き出し、人がいなくなってからリリはアランに話しかけてくる。
「それでさ、アラン君。シド君はどうしているのか教えてくれない?」
シドの名前が出て来て、少しアランは驚くが、シドがリリに世話になっていたのを思い出し納得して、返事をする。
「ああ、シドは……俺たちがここに向かう間の足止めをしている……はずだ」
歯切れの悪いアランの言葉に疑問を覚えつつ、リリはさらにシドの事を聞く。
「じゃあ、シド君はまだ魔獣と戦っているってことかい?」
「ああ、シドは……戦っているはずだ。こっちに来ないってことはそのはずだ……」
「……そう、なら良いんだけどね」
まるで、自分に言い聞かせる様なアランの言い方に、リリは不安を感じるが、やるべきことをするために歩き去る。
「シドもロズも戦っているんだ……俺は俺の戦いをしなきゃな」
リリが見えなくなってからアランは覚悟を決めたようにつぶやく。
そして、アランも避難の準備を手伝いに行く。
日が登る頃に準備が終わり、アラン達は西側に向けて出発する。
西側に向けて歩いている最中……ドオオオオオオン!!!!
轟音が響き渡る。
音の方を振り返ると、熱線が通過したと思われる炎の線が見える。
「なんなんだ! 今のは!」
誰かが声を荒げる。
「熱線が向かう先は……中央の村だと!?」
避難民たちに不安が広がる。
「落ち着いて! 中央の村にいるのは村長たちだよ? 簡単にやられるはずないよ!」
余りのことに、皆冷静な判断が出来ない中、リリが落ち着かせようとする。
「リリの言うとおりだ! 彼等がやられるはずがない。それに、今は先を急ごう!」
リリに続いて、アランが避難民をまとめるが、顔には動揺が張り付いている。
動揺を見せないように、アランは避難民の先頭に立って先導を再開する。
だが、その動揺を目敏く捉えたリリがアランに話しかける。
「その冷や汗……尋常じゃないよ?」
「ッツ! ……リリか。いや……なんでも……ないさ」
「なんでもない訳ないよね? 熱線が発せられた方向って、アラン君達が来た方向だよね? それって…………」
「ああ……シドが向かった方向だ……。それに中央の村には俺の親父とロズがいる……はずだ」
もう、隠しきれないと悟ったアランは動揺の理由をリリに話す。
「やっぱりね……」
そう言って、リリは馬に跨る。
「お、おい! どこに行くつもりだ!?」
リリの突然の行動にアランは驚いたような声を出す。
「何って……シド君を助けに行くんだよ? 中央の村は遠いから僕じゃ間に合わないかもしれないけど、シド君の方なら間に合うかもしれないからね」
さも、当然のことの様ににリリは言う。
「無理だ! あんな、攻撃ができるのは統率個体くらいしかいない! そんな奴に一人で挑むなんて……」
リリの無茶な行動をアランは必死に止めようと言葉を繋ぐが……
「けど、シド君は一人で足止めに行ったんだよね? それに、僕は統率個体に挑みに行く訳じゃない。シド君を助けに行くんだよ」
アランはシドを一人で行かせてしまった後悔から口を開けない。
(そうだ、俺があの時シドを止めていれば……)
口を開けず、立ち尽くすアランに向かってリリは言葉を続ける。
「あとさ、アラン君。シド君が死んじゃった様な感じで話すの止めなよ。仲間なら、信じてあげようよ。シド君のことをさ!」
「……ああ、そうだな。あいつは幾度となく死線をくぐってきたんだ。それは俺が一番知ってる。シドが簡単に死ぬはずがないよな!」
アランが立ち直ったことにリリは笑顔を浮かべる。
「これだけは聞いておきたいんだが……どうして、リリはシドの為に命を懸けられるんだ? シドとは一回しか会ったことないだろ?」
アランの問いにリリは少し悩むがすぐに口を開く。
「んー、僕もよく分かんないんだけどね。昔、ワイズ老師から教えて貰った言葉で『一期一会』っていうのがあるんだよ。出会いを大切にするって意味があるんだけど、そのせいかもね? それに、助けられるかもしれない命を見捨てるなんて、嫌だからね!」
そう言うと、リリは馬に合図を出す。
「『一期一会』か……」
アランがその言葉を反芻する。
「じゃあ、行ってくるね!」
リリが馬を熱線が放たれた方向に向ける。
「本当は俺が行かなきゃいけないんだけどな……」
それにリリは苦笑して返事をする。
「アラン君は避難民のこと守ってくれるんだから気にしなくていいよ!」
リリは馬の腹を蹴り、走らせる。
徐々に遠ざかる、リリに向けてアランは叫ぶ。
「俺との『一期一会』も忘れるなよー!!」
それに、リリは手を挙げて応えた。
「俺たちも先を急がなきゃな!」
そう言って、アラン一行は西へと歩みを進めていく。