第四十四話 極光と悪夢の衝突
暗黒の怪物に突如現れた極光の騎士が向かい合う。
「あの閃光…………まさかワイズが言っていた援軍というのは!」
「ああ、ヴァルハラの最高戦力エインヘリアルの団長『ワルキューレ』まさかこれほどの大物が来るとは!」
ワルキューレはリーレ達を一瞥すると、その後ろにいるヴァルハラの二人に視線を移す。
「ワルキューレ様直々に応じていただき感謝を述べさせてください」
『前置きはいい、報告を ッ』
いつの間にか接近し薙いだ右手を瞬時に受け止める。
『気配を消しての奇襲とは、魔獣のくせに小賢しい真似を!』
弾き飛ばし、ナイトメアを見据え剣を構える。
『いずれにしても蛇の使徒、相まみえたのならここで滅する』
そう言い終わった直後、暗黒と極光は衝突した。
そこから先リーレが捉えられたのは、闇と光が放つ戦闘音とそれらが残した帯状の軌跡だった。
徐々に光が闇を追い込んでゆく。
二人が通過した後にナイトメアの砕けた装甲が落ちたりと姿は見えずとも、じきに勝負がつくのを理解する。
数分間の激闘の末にナイトメアが倒れた。
ダメージの蓄積により体制を崩し猛スピードで地面に激突、そのまま転がった。
立ち上がろうと呻くナイトメアのいたる所には決して浅くはない斬痕があり、そこからの出血が血だまりを作り出している。
一方ワルキューレはその輝く剣を一振りするとナイトメアに向き直る。
鎧には血や傷はおろか返り血すらなく、姿が目視できないほどの高速戦闘の後だというのに息一つ切れている様子はない。
あんなに自分たちが苦戦した相手の圧倒的な敗北に、リーレには危機が去った安堵感より自分たちと同じ姿かたちの『なにか』への恐れで立ち尽くしてしまった。
『 ᛈ 』
迫るワルキューレを拒むように右手から黒き斬撃をまき散らす。
『無駄だ 剣よ、煌めけ!』
斬撃を一つ、また一つと輝く剣で打ち消して進む。
何とか右手を構えているナイトメアまで歩み剣先を向ける。
『蛇の大望の成就はない。永遠にな』
そういいナイトメアを一閃した。
『ガアアアァァァ、ァ、ぁ……」
ナイトメアの叫び声が途絶えると共に辺りの霧が晴れ始めた。
リーレはあたりの状況を認識する。
ナイトメアとの戦いによって辺りは瓦礫と化していて、その中に村長たちや魔獣が倒れている。
その中からアルダ、アルハンを見つけ駆け寄った。
「アルダ村長! アルハン村長! ご無事ですか?」
「リーレ……か…………ナイト……メアは……どうなった…………?」
「終わったよ。 ワルキューレ……さすがと言うしかない力だった」
何とか意識を取り戻したアルダにワイズが先の戦いを簡単に説明する。
ワイズに二人を託し剣を手に、リーレはナイトメアに近づく。
今のナイトメアは体のあちこちの黒い装甲は剥がれ落ち、仰向けに倒れている。
装甲の剥がれた頭部を覗き、一瞬顔をしかめる。
(ッ!…………やはりか、ここに彼らがいなくてよかった。 彼はここで私が…………)
リーレが頭部に剣を突き刺そうとした時だった。
「……………………ぇ」
今までの魔獣の咆哮とは違う、人の声がナイトメアから発せられた。
思わずリーレの手が止まる。
「………………ぇ …………れ」
ナイトメアの眼が開く。
「 リーレ 」
『どきなさい』
ガキンッ
ワルキューレの斬撃を、振り向き庇おうとしなければ自分を通り過ぎナイトメアだけを切り裂く斬撃を、とっさにその剣で防いだ。
『どういうつもりだ、辺境の少女』
「……………………」
その問いの答えは自分自身ですらわからなかった。
『これだから人間は…………!』
ワルキューレは剣に力を込め、リーレをねじ伏せる。
そしてナイトメアの頭部を改めてみる。
『なるほど。 蛇め、妙なことを思いつく』
リーレを蹴とばし再び剣を構える。
ワルキューレが飛び抜き、直後短刀が三本ナイトメアの前を通過する。
『ハァ…………』
ため息をつき、襲撃者の方に顔を向ける。
「……………………」
そこには剣を構え、臨戦態勢のロズの姿があった。
『…………一応聞いておこう。なぜお前は私に刃を向けている?』
「私の仲間を蹴り飛ばし、倒れている人に剣を振るおうとしただろ!」
『人? ははは、あれが? これだから人間は…………』
もう交わす言葉はないと、ワルキューレはその剣を振るう。
その斬撃を躱し、ロズはワルキューレに接近する。
ロズの連撃を、微動だにせずに防ぎきる。
そしてロズの一瞬の隙をつき、蹴りを入れ吹き飛ばす。
『愚かな少女よ、とくと聞け。 あれはーーーーー
瞬間、光がワルキューレを連れ去った。
ドオオオオオオオン!!!!
通過したのが熱線だというのを理解したのは、一瞬遅れてやってきた轟音と熱そして爆発によってだった。
無事な人たちは動けない人の避難のために動きだす。
その最中、ナイトメアが立ち上がるのを近くに倒れていたロズとリーレが目撃する。
「ギャラル!!!!」
その顔を見て思わずロズが叫ぶ。
「……………………」
ロズの声に反応したのか、ロズとリーレの方を見る。
「アルダ アラン リーレ レナ ロズ」
「ギャラル……やっぱり正気に…………」
リーレが呟く。
「アルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズアルダアランリーレレナロズ 『ミ ナ ゴ ロ シ ダ』
壊れた機械のように呟いたと思ったら魔獣の唸り声のような、でも確かに意味のある言葉を言い放つ。
二人が絶句していると、それが愉快なのか口角をつり上げ邪悪な笑みを作る。
そして濃霧を発生させ体を包むと、町の外へと駆け出す。
その速度は決して速いとは言えないが、二人はその後を追うことはできなかった。