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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
43/77

第四十二話 第一の獣カリギュラ

 夜、横になり嫌な胸騒ぎについて考えを巡らせていた。


 その時、強烈な気配を感じ飛び起きる。


 あたりを見渡すが、近くにいる村人たちはともかくロズも何事もなかったかのように眠っている。


 見張りのアランも欠伸をしたりと、自分以外の誰も感じなかったらしい。


(…………俺に向けて発せられているのか?)


 その気配の先に赤い光が瞬いた、ように気がした。


 意を決し、アランに見つからないように寝床を出る。


「グラニ、行くぞ」


 グラニは俺が来ることが分かっていたかのように、唯一頭立っていた。


「どこに行くつもりだ、シド」


 グラニにまたがりその気配の方向に向かおうとすると、後ろから声を掛けられた。


「ロズ、さっきの答えだがやっぱり俺は二手に分かれるべきだと思っている。それに奴はこの近くで俺を待っているんだ」


「すぐにアラン達と共に良馬の村に向かえ。今だったら安全に行けるだろう」


「--------!」


 ロズの言葉を待たずに俺はグラニを走らせる。


 一気に後ろの火の光が届かなくなる、と同時に前方に怪しく灯る赤色が見え始める。


 雲を抜け、月の明かりが辺りを照らしだす。


『まさかとは思ったが、一人で来たのか? 敵ながら愚かの極みだな、人間』


「一つ目の魔獣、貴様が俺を呼んだんだろう」


 一つ目の魔獣は一歩づつ近づいてくる。


『せっかく一人で来たんだ、一つ遊ぼうか』


「何?」


『我々は貴様を殺すまでここを離れない、つまりあがけばあがくだけ貴様の連れが遠くへ逃げられる。こういう勝負(あそび)は好きだろう? 人間』


 突然の一つ目の言葉だが、時間を稼ぐ必要がある今は望外の話だった。


「…………いいぜ、その勝負に乗ってやる」


 大斧を構える。


 月光が雲に遮られ、生まれた暗闇の中の赤い灯りが揺らぐ。


 ガキン!

 

 一瞬にして接近した爪をはじく。


『ハアアアア!』


 敵の攻撃をはじきながらその姿を追うが、灯りが尾を引くほどのスピードをとらえられない。


『どうした、そんな動きではどうぞ殺してくれと言っているようなものだぞ!」


 さらに加速した攻撃に斧を折られ、肩を抉られる。


 たまらず距離を取る。


『まだ芽吹いてすらいないのかまたは何者かに削がれたのか、どちらにせよこの段階で狩れるのは僥倖だな』


『ハァ……ハァ……』


 甘く見ていたつもりはなかった、だが自分の神力(ちから)の上昇に少し自惚れていたようだ。


(だがせめていまだ後方に見える松明が見えなくなるまでは…………)


『よそ見か、余裕じゃないか』


 振り返る間もなく地面に叩きつけられその足に踏みつけられる。


『しかし貴様も貴様だが奴らも奴らだな。時間を稼ぐために命を捨てたのに、ああも鈍いとまさに無駄死にではないか』


 頭を地面に強打し意識が朦朧としている中、記憶がフラッシュバックする。


(こんなにピンチなのはウロボロス戦以来かな……)


 その中のある言葉を無意識に、だが何かに導かれるように発声する。


『 (イス) 』

 

『なに?』


 急速に気温が下がり次の瞬間、氷の剣が周辺に乱立する。


『腐っても奴の血か…………』


 奴は先の氷の剣により腹部を血に濡らしていた。


『ハァ…………まだ……第二ラウンドだ……ハァ…………』


『粋がるな人間! 所詮奴の猿真似、本当の魔術を見せてやッ』


 話が終わる前に氷の剣を投擲する。


  『 (カノ)    (ソーン)!!!!! 』


 奴の白毛が赤く燃え上がり、剣は蒸発した。


 辺りの草に燃え移り熱気を増してゆく。


『先ほど第二ラウンドといったか。違うな、最終ラウンドだ!』


 氷で大剣と鎧を作りだし奴の突進に叩きこむ。


『貴様の氷ごとき、我が業火の前では存在しないに等しい!!』


 氷と炎が幾度も衝突し、徐々に大剣が溶けてゆく。


『グルゥアアアアアアアアアアアア!!』


 溶けた分刃渡りが足りず、足を砕かれる。


『なかなか楽しめたが勝負(あそび)はここまでだ。死ぬがいい!!!』


 奴の眼前に燃え広がった炎が集まる。


『あれは…………ヤバい!!』


 氷で壁を作りその裏に滑り込む。


 しかし放たれた熱線はその壁をたやすく貫通し、その光量に視界が真っ白に染まる。


 シドに直撃し、それでもその熱戦の勢いは収まらず彼方に消える。


 


 ドオオオオオオオン!!!!


 一瞬の静寂の後に熱線が通った地面が火を噴く。


 辺りにわずかに残っていた氷の残骸をも溶かし轟々と炎が燃え盛る。


『我が炎は七日間周囲を焼き続ける。いかにその血筋でも耐えられん』


『…………奴の気配も完全に消滅した、これで不安分子はもういない。後は…………我らが王道の掃除だけだな』


『あ奴が粒をまとめているうちに、この地の唯一の力である数を…………殺しつくす!!!!』


『グギャァッハッハハハハハ!!!』







 シドが別れた後、ロズはアランや村人達と共に良馬の村に急いでいた。


「シドは大丈夫だろうか…………」


「振り向くな、アラン。今私たちはこの人たちを村まで連れていき、村長たちにこのことを伝えなくてはならないんだ」


 一団は後ろからした爆発音を頭から追い出し、良馬の村に急ぐ。


「村だ! 村が見えたぞ!」


 誰かの叫び声が響く。


 村を見つけ、疲労と心労によって足が重くなっていた一団が一人また一人と走り出す。


 村の方からも数人こちらに向かってきた。


「これは一体…………何があったんですか?」


 村から来た人達が馬に運ばれていた怪我人を見てうめく。


「村が魔獣に襲われたんだ。白い魔獣の群れだ、」


「分かりました。すぐに村の診察所を手配します」





 村に入り、村人たちに水をもらい一息つく。


「何とかここまで来れたな…………」


「あとは中央に集まっている村長たちにこのことを知らせられれば、ウロヴォロスの時のように村々で協力して対処できる」


 アランとロズの話を聞いていた一人の村人が近づいてくる。


「あの…………昨日くらいから中央の村は黒い霧に包まれていて中はどうなっているのかまったくわからないんです。中から魔獣の唸り声が聞こえたとかいろいろ不確かなうわさが飛び交っていて…………」


「……………………ッ」


「ロズ?…………まさか、お前……」


 ロズは馬に飛び乗り、中央に向かって走り出す。


 遠く、微かに黒い霧が見えていた。


 

 

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