第四十話 村長会議と悪夢の再来
何とかワイズの村から脱出しベルンの言う通りに北に向かうと村からの避難民の大群が見えた。
「待っていたぞ、二人共。追っては来てないようだな」
先行していたロズの言葉を聞き振り返る。
ここからは白き魔獣の姿は見えず、そして村は家に炎が燃え移ったのか煌々と光を放っている。
「そうか…………彼らはまだ戦っているんだな…………」
村を見てたたずんでいると、男に声を掛けられる。
「ベルンがあなた達に私たちの護衛を頼んだことは、ロズさんから話は聞いています。しかし今はいつ魔獣が追ってくるかわからない状況です」
男は地面に簡単な地図を描く。
「私たちはここから西北西に位置する村に助けを求めに行こうと思います。それからこれからのことを考えたいのですが」
「そこまでの護衛だな。わかった、確かにここは危ないだろう。直ぐに向かうとしよう」
俺達はこの惨劇と、新たな統率個体の存在を一刻も早く共有するため歩きした。
明け方が近づく頃に、ようやく俺達は西に村見える所までたどり着くことができた。
「やっぱり大群での移動は時間がかかるな……」
「仕方がないさ。とても馬の数は足りないからな」
皆を休憩させている間、見晴らしのいい場所でロズとアランと共に見張りをする。
遠くに見える村を見ながら少しまどろみ始めた時、西から突風が通り過ぎる。
「「「!?」」」
眠気が吹き飛び、とっさに立ち上がり武器に手をかける。
「わかったか? シド、アラン」
「ああ、この匂い……血だ!」
アランの言葉と共に三人共、西を向く。
「……まさか……向かうぞ! 二人共!」
俺はすぐさまグラニに飛び乗り、村に走り出した。
一方、中央の村では村長たちが集会場に集まっていた。
それぞれが着席し、中央の席に座るアルダが口を開ける。
「急な呼び出しによくぞ応じてくれた。これから村長会議を始めようと思う」
しかし、村長の一人がそこに待ったをかける。
「待ってください、アルダはん。村長会議は中央の村を含む14人の村長による会議です。ワイズはんが参加するんは分かります。先日大きな深手を負ったオーグの代理にレイジがくんのもわかる」
だが! と机をたたき端に座る二人の男を指さす。
「なんでヴァルハラのもんがここにいるんですかい!」
「そう怒鳴るな、我々とてなにも好き好んでこのような場所にいるわけではない。しかし我々は辺境の情報を神国ヴァルハラに伝えねばならないのでね」
「なんやと!」
一触即発の雰囲気にレイジが間に入る。
「まあまあ、落ち着いてくださいモジャさん。彼らは参加する代わりに情報を提供すると言っています。彼らの情報が必要になるかもしれませんし、ここはどうか…………」
「そうだな。もしかするとこの件には神に詳しい彼らが必要かもしれん」
「チッ、アルダはんに言われちゃしゃーないな」
「アルダ、その件の前に皆に伝えておきたいことがあるのじゃが、いいか?」
ワイズが立ち上がりアルダの様子をうかがう。
アルダが頷く。
「皆に伝えたいのは、儂が住んでいる村付近の異変についてじゃ。皆知っての通り東は西に比べて魔獣の量が少ない。しかし最近は魔獣が村まで降りてくることが増えてきているのじゃ」
その言葉に「確かに……」と西に住まう村長が数人がこぼす。
「そのことの調査をするために儂は森の調査を行った。驚いたよ、そこには動く山があった。そして後には白い魔獣も目撃されている」
ヴァルハラの二人の眉が動く。
「なるほど、その話は恐らく儂が村長会議を開いた理由と無関係ではなさそうだ」
アルダはワイズに目配せし、一つの本を取り出した。
「儂は、モアの死の知らせを受けこの中央の村に来た。そして調べているうちにモアはこの本を探していたということが分かった。おそらくウロボロスの報告を受けて何か覚えがあったのだろう」
村長たちの注目が本に集まる。
そしてアルダはその本の大蛇の記述を音読した。
その内容、そして先ほどのワイズの情報が村長たちの頭の中で一つになる。
「まさか、その大蛇はすでに……?」
「わからん。しかし最悪の事態に備えねばならぬ」
村長たちが話し合いを始めようとした時、ガタリ、と音がした。
その方向では、ヴァルハラの二人が立ち上がり出口に向かおうとしている。
「まてや! まさか、もう帰るつもりかいな!」
「ああそうだ、まさかここでこれほどの情報が得られるとは思わなかったぞ。【神器】の反応の謎も分かったしな」
「…………我々は情報を提供した、今度はあなた達が情報を渡す番じゃないのかの。それともヴァルハラに住まう者は皆約束すら守れないのか?」
アルダの一言に一人が舌打ちをする。
「いいだろう、我々は誇り高きヴァルハラの者だ。教えてやる、そこに記述されているのはかつての神々と同格の上位存在。その名は魔獣の王ニーズヘック」
「ニーズヘッグだと!? まさか…………」
ワイズの声を聴きそちらに顔を向ける。
「そして恐らくお前が言っていたのは奴の眷属だろう、第一の獣のな。カリギュラがついに動き出したというわけだ」
ヴァルハラの一人がハハハと笑う。
「カリギュラが動きだし、ニーズヘッグが目覚めた。貴様らに残っている道は、我らヴァルハラの庇護下に入るかこの辺境と共に死ぬかだ」
「貴様ら、言わせておけば!」
村長の一人がつかみかかる。
「なんだ、まさか貴様らは自分たちが『神殺し』なんてことをできると思っているのか?」
「か、神殺しだと?」
「行っただろう。ニーズヘッグは上位存在、すなわち神の一柱だ。それを殺すというのであればそれは『神殺し』だろう」
つかんでいた手を払いのけると、そいつを蹴り飛ばす。
「ミズガルズの神殺しを見たことがあるか? 癪だがあいつらの強さはでたらめだ。そんなでたらめな奴にしか人間の身で上位存在である神を殺すことなどできない」
今までとは違い真剣な声に全員が押し黙る。
「一つ聞きたい。ニーズヘッグはあとどれくらいで北に向かい始めるかわかるか?」
「……目覚めた直後から二か月ぐらいで意識がはっきりすると思われる。だから二か月ごろから北上を始めるだろう」
ワイズの問いに答える。
「ウロボロスが現れてから…………後一か月あるかどうかか…………」
「十分情報は出した。もう行かせてもらおう」
ヴァルハラの二人は扉に手をかける。
そして扉を開けた瞬間、黒い霧が集会場に蔓延した。
「この霧は……まさか」
アルダ、アルハン、レイジが突然のことに混乱している二人を押しのけて外に飛び出す。
「父さん、皆さん!」
集会場の門番をしていたリーレが三人が出てきた事に気づく。
リーレと中央の兵士達がその件先を向ける先には黒い影が立っていた。
「ナイトメア……まさかここで出会うとはな」
アルダが槍を、アルハンが剣を取り出す。
ナイトメアとの戦いが始まろうとする中、ヴァルハラの一人が懐から水晶玉を取り出しナイトメアと交互に見て呟く。
「あれが第二の獣だと? 一体どうなっているんだ?」