第三話 突然の強襲
俺たちは人気の少ない道を進んでいた。
次の村までの道のりが残り半分くらいに差し掛かったころ、グラニが周囲の様子を窺うように首をきょろきょろと動かし始める。
「どうした? グラニ。腹でも減ったのか?」
次の瞬間、俺や護衛もその音に気付く。
重武装の複数人が、整然とこちらに向かってくる音を……。
「何者だ! 我々は聖女様の命を受け巡礼中であるぞ!」
護衛の一人が声を張り上げ、牽制する。
しかし、あちらは止まることなくこちらに近づいてきた。
ようやく相手の姿が見えるようになった時には、俺も護衛も臨戦態勢に入っていた。
「神国ヴァルハラの聖女の兄君とお見受けいたす。その首もらい受ける!」
ミズガルズ連邦の国章をその胸に付けた先頭の男がそう言って武器を抜く。
「ミズガルズ連邦の者か! 何故ここまで入り込めたかは知らんが、見つけたからには生かしてはおけぬぞ!」
護衛達も声を張り上げ喝を入れた後、武器を手に俺の前に出る。
双方がにらみ合うのも一瞬、すぐさまミズガルズ連邦の兵士が槍の穂先を突き出し、戦闘が始まった。
ミズガルズ連邦の兵士が槍を突き出すと、護衛達も剣をそれに合わせて防ぐ。そして、護衛達が剣を振るえば、ミズガルズ連邦の兵士は距離を取り槍を構えなおす。
両者とも攻防を繰り返す度に傷が増えていく。
技量の高い双方の戦いを指をくわえてみているしかなかった。
そんな、両者の拮抗が突然破られる。
一瞬にして、5人いた護衛の二人が光が煌めくとともに両断された。
「ふむ...、エインヘリアルの見習いかと言ったところか」
そう言って返し刀でもう一人護衛を切り伏せ、さらに言葉を続ける。
「普通の戦場ならそれなりに活躍できただろうが、お前らの不運はこの場に俺がいたことだ」
3人もの命をいとも簡単に奪った男は涼しい顔をしながらさらに一歩踏み出す。
「まさか...! その光の剣、神殺しの英雄か!」
「ご名答、我こそは神殺しの英雄が一人。光の剣のフリュムである」
フリュムと名乗ったその男は俺に視線を向け、光の剣を振るう。その瞬間、グラニが俺を乗せたまま飛び退く。
先ほど、俺がいたところは光の斬撃が通り抜け、地面を深く抉っていた。
「いい馬だ。だが次は外さん」
言葉を言い終える前に、フリュムは予備動作に入る。
「化け物め! 俺だって神の血を引いているんだ、やってやる!」
そう言って、俺はグラニから飛び降り、そのまま剣を抜きフリュムに向かう。
「シド様! 落ち着いてください! 奴はゲッテルデメルングで神を殺した男です。ここは我々が抑えるのでお逃げください!」
残った護衛の一人が俺の肩をつかみ無理やりグラニに乗せて、もう一人がフリュムの前に立つ。
「行けグラニ! シド様を敵の手が届かないところまで連れて行け!」
グラニを走らせた護衛は追撃しようとするフリュムに切りかかる。
「待て! 俺だって戦える!」
俺はそう言ってグラニを止めようとしたが、グラニは俺の言うことを聞かずに速度をあげる。
「止まれ、止まれよグラニ! 止まってくれグラニ! 俺はもう逃げたくないんだよ...。もう、見ているだけは嫌なんだ……」
俺の悲痛な叫びを無視してグラニは全速力で疾走する。
疾走するグラニの馬上で振り返ると、光が煌めくのが見えた。
これで、導入部分は終了です。次から話が動きます。