第三十七話 白き魔獣
ワイズが書斎に籠っていた為、俺たちは調査隊のベルンに道筋などを聞いた。
「調査隊は一日掛かりで化け物のとこまで行ったみたいだな。帰りは急いでたこともありかなり早く村に着いたみたいだが……」
「この距離を遠いとみるか近いと見るか……悩むところだ」
一日の距離を要すると言うことは何かあっても、村に退避することもできない。
「それなりの準備はしたいが、重装備で行くわけにもいかないしなあ……」
「三日分の準備をして出発しよう。悩んでいても仕方ないからな」
「まあ、そうだな! それでいこう!」
「了解!」
俺たちは三日分の準備をして、出発することになる。
それぞれ与えられた部屋で支度を開始する。
「大斧……、これは必須だな。剣も持っていくか。三人の三日分の食料は後で村の人に貰うとして……」
あれこれ準備している内にかなりの荷物になってしまった。
「少し、減らさないとな……」
「おーい、シド。まだかー?」
「ああ、すまない。もうすぐ終わる」
そう言って適当に鞄の中身を減らし、アランの下へ行く。
アランの下に行くと、既にロズも支度を終えて待っていた。
「支度に手間取ったのか? とりあえず、村の人に保存食の類を貰いに行こう」
「少しな……」
調査の為と言うと村の人は快く食料を分けてくれた。
「はい、三日分ね。調査、頑張っておくれよ!」
「ああ、しっかり調査してくるよ!」
軽く、村の人と談笑した後に村を発つ。
荷物を背負い森の中に入っていく。
ある程度進んだところで、腰が軽いことに気づく。
(ん……。あっ、剣がない……。荷物を減らした時に間違えて置いてきてしまったか。まあ、大斧はあるし大丈夫だろう……)
少し動揺してしまったのか、ロズが俺の顔を覗き込んでくる。
「……ん。どうかしたか?」
「いや、なんでもない……」
「なら、いいんだが……」
そう言って、ロズは俺の腰あたりに視線を移す。
「……剣を持ってき忘れたのか」
「ああ、急いで用意していたら忘れてしまったようだ……」
少しロズは難しい顔をした後、口を開く。
「…………いつも持っている武器がないということはいざという時に動揺するかもしれないからな。気を付けたほうがいい」
そう言ってロズはナイフを渡してくる。
「役に立つかどうかは分からないが、無いよりはましだろう」
「っと、ありがとう。ロズの分はあるのか?」
そう言うとロズはニヤリと笑い……
「なに、ナイフはある程度の数は常に持ち歩いている。シドが心配することじゃない」
「そうか、ならありがたく使わせてもらうぞ」
俺はナイフを腰に掛ける。
二人で話しているとアランが大声で合図をする。
「二人で話しているとこで悪いが、魔獣だ! 数はそんなに多くない、一気にやるぞ!」
「すまない。わかった!」
俺は返事を返し、大斧を構える。
ロズとアランもそれぞれ剣を構える。
俺たちが武器を構え終わったのと、ほぼ同時に前方からかなり大柄の魔獣が三匹、姿を現す。
三匹の魔獣は白い体毛に覆われ、三つの目を持つ熊のような姿をしている。
「ッチ! かなり大きいな。相手は三匹、一人一匹ずつ相手をするぞ!」
「わかった!」
「任せろ!」
俺たちはそれぞれの相手すべき魔獣に切りかかる。
俺たちはいつもの要領で攻撃を仕掛ける。
が、白き魔獣は想像を超える速度で突進をしかけてきた。
「グゥルウウウウウウウァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
ロズは危機を感じ、とっさの回避に成功するが俺とアランは突進を受け吹き飛ぶ。
「ぐっ! ふぅ、ふぅ……」
「大丈夫か!? シド! アラン!」
ロズが俺とアランが吹き飛んだ位置まで後退し、声をかけて来る。
「あ……ああ、なんとか……な」
俺とアランは衝撃を受けた腹を抑えながら立ち上がる。
俺たちが立ち上がるのは待っていたかの様に、白き魔獣はまた突進を仕掛けてくる。
「ッツ! 来るぞ!」
アランが叫び、俺たちは横に飛ぶ。
今度は回避に成功したが、白き魔獣の突進は近くに合った木をなぎ倒していた。
「さっきの突進より、威力が上がってるな……」
「ああ、あれは喰らったら死ぬだろうな……」
俺たちは間合いを図りながら、白き魔獣を睨みつける。
白き魔獣は俺たちを囲う様に移動する。
「グギャァア! ギャァアアアハハハハハハアァラァアアアア!!」
奇怪な鳴き声を発しながらジリジリと俺たちとの距離を詰める。
「こいつら、明らかに今までの魔獣とは違うな……」
「そう、だな……」
「こいつらには一対一で挑むのは不味いな……」
突如、一匹がこちらに向かって全速力で向かってくる。
「グシャァアアアヒャァアアアアア!!!!」
向かってくる、白き魔獣に俺は大斧を叩きつける。
「うぉおおおおおお!!!」
余りの衝撃に大斧を落としそうになる……が、力を振り絞り、相手の勢いを殺す。
「くっ! はぁあ、はぁあ……。きついな……」
(きつい。だが、抑えられない程ではない!)
「アラン! ロズ! 俺が二匹を足止めする! その間に一匹を始末してくれ!」
「正気か!? いくらシドの怪力でも二匹を抑えるのは不可能だ!」
アランが猛烈に反発する。
が、ロズは冷静だった。
「だが、こいつらを倒すには無茶をしなければならない。シド、やれるんだな?」
「ああ、任せろ!」
アランも不承不承ながらもうなずく。
「ああ、なら……任せるぜ! ヘマしたらしょうちしないからな!」
「わかった!」
そう言って俺は大斧を握りなおして神力を込める。
(余り使いたくはなかったが……使いどころはここだろう!)
「うぉおおおおおお!!!」
俺は一気に先ほど、俺に向かってきた一匹に渾身の横なぎを叩きつける。
白き魔獣は俺の一撃を受け、もう一匹の方に吹き飛ばされる。
「おら! お前らの相手は俺だ! かかってこい!」
そう言いながらも、俺はさらに距離を詰める。
俺が白き魔獣達の注意を引いたところで、アランとロズは離れているもう一匹に狙いを定める。
「喰らえ!」
ロズが懐からナイフを取り出し、白き魔獣の目に投げつける。
「グゥウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」
僅かに狙いから逸れ、ナイフは白き魔獣の顔を掠める。
怒りに我を忘れて、白き魔獣はロズに襲い掛かろうとするが……
「俺を忘れんじゃねえぞ! うぉおおおおおお!!」
俺やロズに気をひかれてた白き魔獣はアランの攻撃を回避できずにもろに食らってしまう。
体勢を崩したところにロズが追撃を仕掛ける。
「ふっ! はぁあああああああああ!!」
足を切り裂いた後、剣を振り上げ、額にある第三の目を突き刺す。
「グゥギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
白き魔獣は絶叫を上げ、力尽きる。
俺は一気に距離を詰め、大斧を振るうが避けられてしまう。
「ッチ! ちょこまかと!」
悪態を吐くも事態は好転せず、隙を突かれ相手の突進を許してしまう。
俺は咄嗟に大斧を盾にし衝撃を和らげるが、後方に吹き飛ばされる。
「グゥウウウウウ……」
だが、白き魔獣は警戒をしたのか、体勢を立て直し、俺を両側から挟む形に移動する。
「二方向からか……」
俺は立ち上がり、大斧を片手に構える。
一匹に身体を向ける。
「グルゥウウウ……」
背後を向けた俺に白き魔獣がジリジリにじり寄る。
(使い時は今か!)
「ふっ!!」
腰に掛けているナイフを抜き、振り向きざまに白き魔獣に投げつける。
「グギャァアアア!!!」
咄嗟の攻撃に驚き、ナイフを食らった白き魔獣体勢を崩す。
体勢を崩したところに俺は大斧を両手で構えなおし切り付ける。
「ッチ! 浅いか!」
神力を込めた一撃だったが、白き魔獣の首の骨に引っかかり、切り落とせない。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
後ろから雄叫びが聞こえる。
(まずい!!!)
俺は大斧から手を放し、身体をねじり回避を試みるが、肩口に爪が食い込む。
「ッツ!! はぁ はぁ はぁ……」
痛みが全身を駆ける。
俺に攻撃を加えた一匹はさらに追撃をしかけようとする。
(喰らったら、終わりだな!)
俺は渾身の神力を振り絞り、肩口抉った相手の前脚を掴む。
「うおおらあああああああ!!!」
そして、引っ張る。
神力を込めた、俺の力に白き魔獣はそのまま地面に叩きつけられる。
追撃代わりに殴りかかろうとするが、神力が入らない。
(限界か……)
俺の攻撃を受けた二匹だが一匹は瀕死で、もう一匹はまだ余力を残している。
どちらも立ち上がり、俺に向かってくる。
「遅れてすまない!」
そう言って、アランは首に大斧が刺さった白き魔獣の額の目にに剣を刺す。
「グギャァアアアアアアア!!!」
絶叫を上げ、倒れ伏す。
「最後は……こいつか!」
ロズがそう言って顔面を切り付ける。
「グルゥアアアアアアアアアア!!!」
怒りの雄叫びを上げ、ロズに飛びかかるが、ロズは後方に飛び退く。
「せい!!」
さらに、お返しと言わんばかりにナイフを投げつける。
怯んだ白き魔獣に、もう一匹を仕留めたアランが横から剣を突き刺す。
「グギャァアアアアアアア!!!!」
大きい一撃を貰った白き魔獣はよろめく。
その隙を突いて、今度はロズが額の目に剣を突きたてる。
叫ぶ力も残っていないのか、倒れ伏し力尽きる。
「シド、大丈夫か?」
ロズが最後の一匹を仕留めてからこっちに向かってきて、俺の肩口の傷を心配そうに見る。
「ッツ……! なんとか……な……」
傷口が痛む。
「今回の調査はここで切り上げるか。シドの応急手当をしたら、また村に戻ろう」
「それがいいだろうな。シド、応急手当をするから動くなよ」
アランにロズも同意して手当てを始める。
「この傷じゃ、流石にきついな……。すまない」
「気にするな! お前のおかげ俺たちはあの、白き魔獣に勝てたんだ。感謝しているぜ!」
「ああ、今回の勝利はお前のおかげだ。ありがとう」
俺が俯くと、二人とも励ましてくれる。
「そう言ってくれると、気が楽になるよ。とりあえず村に戻るか……」
応急手当を終えた俺たちは前回に続き、今回も途中で断念して村に向かう。
成果がなかった訳ではない。白き魔獣、今まで見たことがない新種の魔獣の情報を得た。
「白き魔獣……」
「今までの魔獣より強靭だったな……。統率個体には劣るが厄介なことに変わりない」
「中央の村の襲撃、南の化け物に続き……新種の魔獣か」
(何かが、起ころうとしている……そうとしか思えないな……)
勝利こそしたが新たな厄介な敵を得て、憂鬱な気持ちの中、村に向かって歩いていく。