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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
35/77

第三十四話 ギャラルの日記

「さて、まずは何から話そうか」


 客間に通され、俺達は椅子に座り出されたお茶で一息つく。


「ここの村長にはすでに話したが、第二の統率個体ウロボロスについてだ」


 代表してアランがウロボロス戦について話す。


「なるほど。第二の統率個体か。討伐するとはさすが西側の兵だ」


「実はほかにも話したいことがあるんだ」


 ロズが話を切り出す。


「ワイズ、あなたは辺境一の賢者だとアルハンたちから聞いた。どうかこの本を翻訳してくれないか?」


「この本は? 誰かの手記か何かか?」


「その本は私の父、ギャラルの遺産だ。しかしその文字を読むことができるものが近くにいなかった。そんな時アルハンがあなたを紹介してくれたんだ」


 本を受け取ったワイズにロズがその本について説明する。


「ギャラル……その名は聞いたことがある。相当の腕を持つものだったが八年前に失踪したとか。その手記か……」


「できるか?」


「わかった。村を救ってくれた者の願いは無下にはできぬ。しかし此度の調査についてもまとめねばならぬ。恐らく昼までは待ってもらうことになるが、それでもいいか?」


「ああ! 頼む。解読してくれ」


 ワイズの言葉にロズの顔がパッと明るくなる。


「寝るのだったら、この客間を使ってくれて構わない。私はこれから作業にかかるので何かあったら外にいる、見張りの村人に聞きに行ってくれ」


 そういうと、ワイズはギャラルの本を持って客間を出ていき、少し遠くから扉の閉まる音が聞こえた。


「これで、少しは父のことが分かるだろうか…………」


「そりゃ分かるだろ! なあシド。俺も楽しみだな、ギャラルの本かぁ」


「あ、ああ。そうだな」


 アランの言葉への返事が詰まってしまう。


 その日記の書きなぐられていた文字が脳裏によぎる。


(だがそれを知らなければどうしようもない)


 俺は浮足立っている二人より一足先に床に寝ころぶ。


 そして明日に備えて眠ることにした。


 



 目の前に山がそびえ立っていた

 

 その山のようなものは鳴動しながら迫ってくる


 森を、村を、人を飲み込み進行する


 山のようなものが眼を開く


 その前には赤髪の男が剣を構えていた


 その男が一歩踏み出した瞬間


 それが世界を飲み込んだ






 冷や汗の気持ち悪い感触を覚えながら起き上がる。


 今までも夢と割り切ることができないものがあった。


 そして今回もその類のように感じ、昨夜の夢を思い出してみる。


(たしか世界を飲み込んだ巨大な怪物の夢だっけ…………)


 あまり具体的な夢ではなかった気がする。


 そんなことを考えながら表のグラニを見に行く。


「ん? グラニどうしたんだ」


 グラニは座り足を休めながらも、俺に気が付くまでジッと南を見据えていた。


「帰りもあるんだ、休めるときに休まないとだめだぞ」


 リリから教わった通りに毛づくろいをしてやる。


 クーンと気持ち良さそうに鳴くと疲れが出たのか、ぐっすりと眠りに落ちていった。


「まさか、夜の間ずっと起きていたんだろうか…………」


 そのつぶやきに答えるものはいなかった。


 その後、グラニとはうってかわって元気はつらつな馬二頭への世話をしてやり家に帰るとロズが朝食を作っていた。


「ロズ、起きていたのか。アランは……まだ寝ているのか」


「シド、おはよう。私たちの馬の世話もしてくれていたようだな。もうすぐ朝食ができる、待っててくれ」


 客間で少し待っているとおいしそうな匂いと共にロズが三人前の朝食を運んできてくれた。


「ふあ~あ、いい匂い……」


 その匂いにつられてアランも目を覚ます。


「アランもちょうど起きたか。それじゃあ食べるとしよう」


 こうしてロズの作った朝食を食べ、三人で表で稽古をしていると家の中からワイズが出てきた。


「ふう、終わったぞ。手記の内容についての説明をしたいのじゃが」


 そのことを聞いたロズが、そそくさと片付けを始めながら返事をする。


「すぐ行くから少し待っててくれ!」


 片付けを終え客間で改めてワイズと向かい合う。


「まずこの手記につづられている文字だが、ゲッテルデメルング終結以前に存在していた文字だな。おそらくギャラルの故郷で使われていた文字なのだろう」


「それで肝心の中身は?」


 ロズがワイズを急かす。


「あわてるな、今から順に解説してやる」



 

 始まりは日記だった。


 そこには兄への憧れがつづられていたらしい。


 兄は剣の天才だったらしい。


 次第に手記の内容が剣術の研究についてになっていた。


 どうやら兄の剣技についての研究のようだ。


 そしてそこの記述には兄の強さへの羨望と一向に縮まらない差への焦りが見え隠れしていた。


 そしてその兄が旅に出たのを機に自らの剣術についての探求に代わっていった。


 様々な剣術を研究しその短所、長所が記されている。


 そして兄もを超える剣術を構築できたという言葉と共にその技が記されていた。




「父さんには兄がいたんだな」

 

 ワイズが一区切りつけると、ロズが呟く。


「しかし、ギャラルが編み出した最強の剣術か、きっとすげえんだろうな」


「落ち着け、それについては別の物に翻訳しておいた。後で目を通すがいい。それよりも続きだ」




 そこからは先ほどより丁寧な文字で書かれていた。


 どうやら先ほどの文字よりだいぶ時間が経ってから書かれているようだ。


 その文字で書かれている部分は、懐かしいものを見つけた。気まぐれにまた書き始めることにする。という文から始まっていた。


 そこからは少し過去について書かれている。


 あの後、ゲッテルデメルングが起こり神々と対立した人々に合流し戦ったこと。


 その中に自分の兄の姿を見つけたが、その力の差は以前とは比べられないほどに開いていること。


 自分の実力はこの中では中の上程度だということ。


 そして自分が苦戦していた敵を一撃にて切り伏せ、こちらを一瞥し何も言わずに去っていったこと。


 それらのことにより自分は戦いの半ば辺境に逃れ、レーネに身を寄せていることが書かれている。


 しかし、それからはレーネで身と心を癒しながら充実した生活を送っていた。


 レナと出会い恋に落ち、その甘い感情が記されたりと徐々に幸せに近づいていった。


 リーレやアランを弟子に取り、レナとの間にロズが生まれて幸せな日々を送っていた頃に悪夢を見始める。


 最初はそんなに気にしていなかったが、徐々に文字が乱暴になっていった。


 その悪夢は決まって自分の大切な存在が次々と殺されていき最後には自分も手も足も出ないで殺されその相手を兄が一撃で屠る。


 その後自分の死体を一瞥し何かを呟き歩き去っていく、そんな夢だと記されていた。


 彼はその悪夢について調べ始めるも、徐々に衰弱していく。


 そして最期のページ、彼は先ほどとまでとは違う丁寧な字でこう記していた。


 悪夢の正体が分かった、というよりは誘われている 俺はこれからそいつを殺しに行く 昨夜の夢で奴が自分の居場所を示した もし俺が帰ってこなかった場合は追ってくるな、備えろ 奴は辺境の主 魔獣を生み出す元凶 今は亡き神々と同じ上位者 世界を喰らうもの 奴の名はニーズヘッグ 魔獣の王ニーズヘッグ 奴は世界を喰らいにやってくる




 全員が息をのむ。


「ニーズヘッグ……統率個体か何かか?」


「現時点では何も判断できないが、おそらくギャラルはそいつにやられたのだろう」


 ロズはうつむき表情が見えない。


 その重い空気を破ったのは外から飛び込んできた村人だった。


「老師! ワイズ老師! 大変です!」


「どうしたのだ! 今は取り込み中だ、手短に話せ」


「ちゅ、中央の村が……壊滅との知らせが!」


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