第三十三話 知恵者の村
馬に乗り、一時間程進むと大きめの村が見えてくる。
「あれが、ワイズの村か……」
周囲を木の柵で囲まれていて、村の入り口辺りには警備をしている人の姿が見える。
「俺が話をしてくる。ロズとシドは待っていてくれ」
アランの言葉に俺とロズは頷く。
そう言って、アランは入り口の方に向かう。そしてアランは警備の人に声をかけ話し始める。
「こういう時、俺たちはついていってはいけないのか?」
「そうだな、一人でいけば余計な警戒をされずに済むからだ」
「確かに、襲うときは全員で行ったほうがいいから、逆に一人で行けば話しをする意思表示にもなるのか……」
「それに、警備の者もどこか緊張している様子だ。一人で話しに行って正解だったようだな」
ロズがそう言うとアランは警備の人とこちら側に歩いてくる。
「西側の使者だったか、村に入っていいぞ」
そう言って警備の人はついてくるように促す。
「わかった、ロズとシド、行くぞ!」
俺とロズとアランは警備の人について村の中に入る。
村の中は丸太を組んで作ったログハウスみたいな建物が多く目に入る。
建物の大きさも今までの村より大きい印象を受ける。
「立派な建物が多いな……」
「この村は辺境最古の村の一つだからな。辺境で最も発展している村と言っても過言ではないだろう」
俺の呟きに警備の人は誇らしげに胸を張る。
「では、これから村長の下に案内する。失礼のないようにな」
少し歩くと、村の中央の建物に入るように言われる。
俺たちは村の中央の建物に入ると三十代ほどの男性に迎えられる。
「良く来てくれた、西側の使者よ」
「俺たちは西側で起きた、第二の統率個体ウロボロス襲撃の件を知らせに来た」
村長と思われる人の挨拶にアランは要件を話す。
「ふむ、そんなことがあったのか……。七年前のナイトメア以来二体目の統率個体か……」
「ウロボロスの方は退治したが、ナイトメアは今だ行方知らずだからな……」
アランと村長と思われる人の話が一段落するとロズが口を開く。
「そのナイトメアの関連のことで聞きたい人がいるんだが。お前がワイズか?」
「いや、私はワイズではない。今、ワイズ老師は森の調査に出ている」
「そうか、いつ戻ってくる?」
「日暮れには戻ってくるだろう。それまで村でゆっくりするといい」
「わかった、そうさせてもらう」
「あ、聞き忘れていたが。あんたが村長で間違いないか?」
ロズが立ち去ろうとしているところにアランが割って入って質問する。
「そうだ、私がこの村の村長だ。ワイズ老師は先代村長になる」
「なるほどな。じゃあ、俺たちは日暮れにもう一度戻ってくるよ」
そう言ってアランもロズの後を追って部屋を出る。
俺もアランを追って部屋を出ようとすると、村長に呼び止められる。
「なかなか楽しそうな仲間じゃないか。君は何か聞きたいことはないのか?」
「聞きたいことか……。ワイズは何を調査しているんだ?」
「……ワイズ老師は南の魔獣が発生する地域の調査に昨日から出ている。彼は昔から魔獣が何故発生しているのかの調査をしているんだよ」
「魔獣の発生地域か……確かに謎が多い地域だな。なにか分かったのか?」
村長は少し考えるそぶりをしてから口を開く。
「それはワイズ老師が戻ってきたら直接聞くと良い。だいぶ長話をしてしまったな……早く仲間の下に戻りなさい」
「ああ、話が聞けて良かった。では、俺は戻らせてもらうよ」
俺は村長に促されて部屋を後にする。
村長のいた中央の建物を出るとアランとロズが待っていた。
「あの村長に聞きたいことでもあったのか?」
「ああ、ワイズが何の調査を行っているのか聞いてみたんだ。魔獣の発生地域の調査をしているらしい」
「魔獣の発生地域か……こっちは魔獣被害が少ないからな。そういったことも調査できるんだろう」
「おーい、ロズもシドも立ち話ばかりしてないで、せっかくの村なんだ。見て回ろうぜ!」
俺とロズが話をしていると、いつの間にか先に行っていたアランが呼んでいる。
「それもそうだな。今日はゆっくり村の中を見て回れそうだしな」
「日暮れには村長の家にいれば問題ないはずだからな……」
俺たちは村の中を見て回ることにした。
「そっちは何か見つかったか?」
「いや、何も……」
ワイズ一行は森の奥深くを調査していた。
「今回も成果はなしか……」
「いや、まだそう決まったわけではない。もっと奥に進むぞ」
調査隊の一人の言葉にワイズはさらに奥に進むという。
「しかし、そうなると予定の時間に帰れなくなりますよ?」
「構わん。今回は何か掴めそうなのだ……」
「老師がそう言うなら……」
ワイズの指示により調査隊はさらに奥地に進む。
一行はそれぞれ別行動をしつつ魔獣発生の真相を追う。
奥に進んでから一時間程経った時……
「……なんなんだ……これは……。ッツ! お、おい! こっちに来てくれ!」
森の中に調査隊の一人の声が響く。
声の下に調査隊は集まる。
「どうしたのだ……ッツ、これは……なんだ?」
その場に集まった者の言葉をワイズが代弁する。
それを見た者の内心は皆同じだろう。
((山が……動いている……))
小山ほどもある丸太状の物がゆっくりと動いているのだ。
「今はこれが何なのかは分からん。とりあえず村に戻って対策を練らねば……」
ワイズが言い終わるのと同時に小山程の丸太状の物が調査隊の方にうねりながら向かってくる。
「ッツ……。こっちに来るぞ! 退避! たいひぃいいいいい!!」
それぞれ丸太状の物から逃れようとするが数人は巻き込まれてしまう。
「うっ……うわぁあああああああ!!!」
「たっ……助けてくれ……助けてくれよぉおおお!!」
丸太状の物に巻き込まれた者をワイズは視線を向けながらも、逃れた者の退避の指示を出す。
(すまぬ。しかし、儂にはどうしようもないのだ……)
調査隊はその場から命からがら逃げる。
「一刻も早くこのことを村に、いや辺境全体に伝えねばならん……」
調査隊は急いで村に向かう。
日暮れになり、俺たちは村長の家に戻ってきた。
「ワイズはまだ戻ってきてないのか?」
「うむ、予定ならもう戻ってきてもいいはずなんだがな……」
ワイズたち調査隊はまだ村に戻ってきてないようだ。
「夜は冷える。部屋に入りなさい」
俺たちと村長は暖炉に当たりながらワイズを待つ。
「……ここまで遅いと何かあったんじゃないか?」
「そうは考えたくはないがな……」
俺たちが話している間、ロズは一人黙っていた。
「どうしたんだ、ロズ?」
「……血の匂いだ。村の外だな……行ってくる!」
「お、おい! 俺たちも行こう! シド!」
「あ、ああ。村長、少し行ってくる」
俺たちはロズの後に続き村の外に向かう。
そうすると負傷者を抱えた数名の男たちがいた。
「……調査隊と、お前がワイズか?」
ロズが男たちに声をかける。
「ああ、私がワイズだ。何か話したいことがあるみたいだが、それは後だ。負傷者を頼む」
ワイズは俺たちに負傷者を預けると警備の人達を呼んで話を始めた。
「一体何が起こったんだ? 結構大事みたいだが……」
「恐らく、魔獣関連だろうが……」
俺とアランは何が起こったか予想して話をするがロズが割って入る。
「悠長に話している場合じゃないみたいだ……。恐らく魔獣が来ている」
「魔獣が!? こっちは魔獣は少ないんじゃないのか?」
「とりあえず、魔獣が来るっていうなら対処しないとな……。武器を取りに行こう!」
俺たちが武器をとって戻ってくると、警備の人が村から出て何かに備えている様だ。
「ロズの予想が当たったな……」
「もうすぐ来るだろう。油断せずに行くぞ」
俺たちも警備の人たちから少し離れて魔獣の襲撃に備える。
「グゥウウウウウウグギャァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
あたり一帯に魔獣の雄たけびが響き渡る。
「来たな……。シド、アラン! 正面はあいつらに任せる。私たちは横から魔獣達を食い破るぞ!」
「おう! 任せろ!」
「わかった。ロズとアランは右側から頼む。俺は左側から当たる」
俺がそう言うとアラン達は少し心配そうにするが任せると言ってそれぞれ配置に着く。
魔獣達は勢いを落とすことなく村に向かって突き進む。
「そろそろいいか……。ロズたちも動き始めたな……。よし! 俺も行くか!」
魔獣達と警備の人が当たる少し前に俺とロズ、アランが左右から魔獣達の攻撃を加える。
「うらぁあああああああ!! 喰らえ!」
俺は大斧を縦横無尽に振るい魔獣達を吹き飛ばす。
俺たちの攻撃を受け、魔獣達の勢いが衰えたところで警備の人たちと魔獣達がぶつかる。
だが、警備の人たちは戦いなれていないのか押され始める。
「まずいなっ……! とりあえず周囲の魔獣を始末したら援護に向かわなきゃな……」
しかし、如何せん魔獣の数が多い。
大斧を振るい道を開こうとするが、倒した傍からまた魔獣が穴を埋めるように立ちふさがる。
「ッチ! 邪魔だなっ!」
状況が悪くなり焦る。
(神力を使えば……)
手に力を込めようとするとアルダの忠告が蘇る。
「神の力は人を狂わせる」
手から力を抜く。
「今は目の前のことに集中するか……」
俺は視線を警備の人たちから目の前の魔獣達に移す。
俺は大斧を振るい続ける。
そうしている内にロズやアラン達の方で動きがあった。
「ロズとアランは警備の人の援護に回れたようだな……。俺は目の前の魔獣を倒す!」
アランとロズ、俺が中心になり魔獣を追い散らすことに成功した。
アランとロズと合流して休んでいるとワイズが声をかけて来る。
「お主等が西からの使者か。魔獣の対応を手伝ってくれて感謝している」
「いやいや、困った時はお互い様さ。だが少し気になることがあるんだが……」
「それは、この村の警備の練度の事か?」
「西の方だと、これくらいの魔獣なら対処できるはずなんだが……」
アランの言葉にワイズは苦笑する。
「東側だと魔獣の数も少なくてな……経験が浅い者が多いんだ……」
「なるほどな、それと俺の仲間のロズがワイズ、あなたに聞きたいことがあるんだが……」
「ふむ、それについては中で話そうか」
ワイズに連れられ俺たちは建物に向かう。
気づいたら既に満点の星空が頭上に浮かんでいた。
旅の目的、ワイズにロズの父親、ギャラルの日記のことが聞ける。
ロズの仇、ナイトメアとギャラルのことが知れるというのに何故か嫌な予感がする……