第三十二話 旅の目的地へ
窓からの朝日によって目を覚ます。
今までの村とは違い草原にあるこの村では窓から入ってくる日光が強い。
俺の寝たベッドは窓の近くに位置していたため、目が覚めたのは俺だけのようだ。
せっかく早起きしたので宿を出る。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
宿の外では女将が表の掃除をしていた。
「ああ、朝日で目が覚めてしまって……。せっかくだから少し散歩しようと思ったんだが、どこかいいところはないか?」
「そうですね、お客様は馬をお持ちでしたよね。この村から北に少し馬を走らせると丘があります。そこからの景色はなかなかのものですよ」
「そうか、ありがとう」
俺は女将に教えてもらった丘に行くために馬小屋に寄る。
中を覗くとリリが馬小屋の馬の餌やりをしていた。
「リリ、今からグラニを出していいか?」
「シドかい? グラニの準備はばっちりだよ」
俺はグラニにまたがり村を出る。
この辺は道ではなくても馬が思い切り走れる。
あっという間に例の丘が見えてきた。
「っ!!」
丘からの景色に息をのむ。
そこには俺の故郷ヴァルハラと敵対しゲッテルデメルングを終わらせた人々の所属している国、ミズガルズ連邦が目の前に広がっていた。
「あれが……ミズガルズ……」
近くにあることは分かっていたが、いざ目の前にするとその存在感に圧倒される。
ブルルルルル
固まっている俺をグラニが小突く。
「ごめん、ちょっと動けなくなっていた」
そう言い振り返ってみる。
後ろには草原と小さく見える村、遠くに森が見えた。
「戻るか」
そろそろ二人共起きている頃だろう。
グラニと共に村に戻ったら宿の前に二人が仁王立ちしていた。
「シド。昨日言ったことを忘れたのか。女将が教えてくれなければ私たちは村中を探す羽目になったんだぞ」
「ロズの言うとおりだ。今度からはせめて書置きぐらい残しておいてくれ」
「ごめん、これからは気を付けるよ」
「それで、どうだった?」
「ああ、丘からミズガルズ連邦が見えた。初めて見たがすごかったぞ、あれは」
「ミズガルズ連邦か。西からは見えないからな」
丘の上から見たことを話しながら朝食を食べた。
そして、改めて馬を借りるために畜舎に向かう。
「おっ、来たね。馬の準備はできてるよ」
「おお、立派な馬だな。さすが名馬の産地だな」
二人が貸し出された馬に感嘆の声をもらした。
「あんたもその馬、大切にするんだよ」
「もちろんだ、俺の相棒だからな」
俺達はリリと別れ、馬で草原を駆ける。
「これなら予定よりだいぶ早く着きそうだぜ」
「確かに予想より結構速度が出るな。前に乗った馬より早い」
二人が借りた馬の速さに興奮している。
「これならグラニよりも速く走れるかもな」
「は? いくら何でもグラニの方が速いに決まってるだろ」
「いや、やってみなければ分からないぞ」
「やるのか? アラン、ロズ」
「そう来なくっちゃな。なあロズ」
「そうだな、勝負と行こうか!」
そういうが早いか三人共馬を加速させる。
結果としてはグラニはほか二人より前に出るが、抜き去ることはできなかった。
「さ、さすがグラニは速いな……」
「ああ、私たちの完敗だ」
「いや、俺も少し見くびっていた」
グラニ達を休ませるために少し休憩をとることにした。
「しかし、本当に東は魔獣が出ないな」
草原に寝ころびながら二人に話しかける。
「森の奥にはそれなりに出るらしいがな」
「ワイズのいる村か……。父さんの日記の内容が分かる」
「その村まであとどれくらいなんだ、アラン」
「このまま馬で飛ばせばもうすぐだと思うぞ」
それを聞くとロズが起き上がる。
「そうか、じゃあそろそろ行かないか」
「そうだな、後ひとっ走りするか」
俺達は馬に乗り、ワイズのいる村に向かった。