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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
32/77

第三十一話 名馬の村とリリ

 中央の村を超えた辺りから草原が広がる。


「ここからは草原が広がっているのか?」


「そうだな、ここからワイズのところまで草原が広がっているな」


 膝くらいまでの高さの草が地平線まで続いている。


「ブルルルル」


 グラニの餌に適しているみたいでグラニに草を食べさせながら進む。


「ここらの村では放牧も行っているんだ。ほら! あそこに馬が見えるだろ」


 アランの声につられ視線を移すと馬が数頭走っているのが見える。


「次の村で馬を借りられたら借りよう。そうすればこれから楽になるはずだ」


「よし、着いたら頼んでみようか!」


 ロズの提案にアランは同意する。


「グラニには積み荷を積んでいるから、出来れば三頭借りたいな……」


「それもそうだな、シドの分も借りるとしよう」


 話をしている内に次の村が見えてきた。


「草原だと歩きやすいな。森やら丘やらと比べるとだいぶ楽だったな!」


「あと、距離も近いからな」


 丘や森と比べると確かに楽だ。


 ふと、森で会ったジグムンドに言われた言葉を思い出す。


「きっとその自らの選択は間違ってはいないから」


 ムニンにしろジグムンドにしろ最近は引っかかることが多い。


(ただ、ジグムンドはムニンとは違う気がする……なにかはわからないけど……)


「おーい! シド! 何ボーッとしているんだよ! もう着くぞ!」


「あ、ああ。今行く!」


 少し考えこんでしまったようでアランとロズからだいぶ遅れていた。


 俺がアラン達と合流すると村の若者が馬に乗って近づいてきていた。


「そこの三人! この村になんの用だ?」


「私たちはレーネからワイズを訪れるためにこの村に寄っただけだ。怪しいものではない」


「おっと、これがレーネの村長アルハンから預かった紋章だ!」


 若者にロズとアランが怪しいものではないと伝える。


「ん……確かにアルハンの紋章だな……よし、入っていいぞ!」


「ありがとうな。よし、ロズとシド、入るぞ」


 そう言って若者に連れられ村長のもとに行くことになる。


「……なんか、いつも村長の下に言ってないか?」


「まあ、俺たちは西の使者ってことになるからな。村長に挨拶しなければならないんだ」


 俺の疑問にアランは答えてくれる。


 若者に村長の下に案内された。


「よく来た。西の使者達よ。すぐに出発するのか?」


「いや、ここで少し休憩したら出発しようと思うが、移動の為の馬を三頭貸してくれないか?」


 アランの頼みに村長は少し悩むようなそぶりをする。


「貸してやりたいのは山々なんだが、今は馬は所用により出払っているのだ。もし借りたいなら明日の朝になるが……」


 村長の言葉に今度はアランも押し黙る。


「……馬を使って日が沈むまでに次の村に行きたかったが仕方ない……か」


「私は別に構わないぞ。そこまで急ぐ必要もないしな」


「そうだな、俺も今日はここで休めばいいと思うよ」


 俺とロズの意見が一致したのでアランもそうすることに決めた。


「では、明日の朝までこの村で休ませてもらいたい」


「分かった、ゆっくり休んでいくと良い」


アランはウロボロスのことも説明する。


 話はまとまり俺たちは村長の家を出る。


「そういえば、アランはどうして予定を変更してまで次の村に急いだんだ?」


「んー、ここらは名馬の産地で中央の方にも馬を卸したりしているんだ。ここの馬を使えば次の村に間に合うと思ったんだ。後、名馬で有名なここの馬に早く乗りたかったっていうのもあるな!」


 アランは少し残念そうだが気を取り直して村の散策を始める。


「まあ、とりあえず村の中を見て回ろうか!」


「そうだな、グラニも預けられるかもしれない。俺は世話をしている人に頼んでくるよ」


「私はアランと一緒に村の散策をしている。用事が終わったらシドも合流しよう。そこまで広い村でもないしな、探せばすぐ見つかるはずだ」


 そうして、アラン、ロズと俺で別れて行動することになった。


「よし、グラニ。この村の馬小屋に行くぞ」


 馬小屋を探して村の中を歩いていると大きな建物が目に入った。


(少し、気になるな。行ってみるか)


 入り口を探しているとそこの建物人から声を掛けられる。


「そこで何をしているんだい?」


「あ、この建物は何なのか気になってな……」


「ここは畜舎だよ。村の者の馬や中央に卸す為の馬をここで管理しているんだ」


「お、そうなのか。少し見て行っていいか?」


「いいよ、ついてきな。あ、僕の名前はリリ。こう見えても女だよ」


「よろしくな、俺はシドっていうんだ」


 リリと名乗った女性はさっぱりとした感じだ、髪は一つにまとめてすっきりした印象を受ける。


「畜舎にはこっちから入るんだ」


 そう言ってリリは柵で囲まれた草原に入っていく。


「広いな。あの建物とこの草原が畜舎の敷地なのか?」


「そうなるね。あ、馬糞とか落ちてるから気を付けてね」


 そう言われて足元を見ると確かに落ちているのが目に入る。


「忠告ありがとう。言われなかったら気づかず踏んでいたところだった」


「それにしても、その馬は立派だね。どこの馬だい?」


 興味津々と言った様子でグラニを見てくる。


「…………それは、言えない」


 俺が言葉を詰まらせるとリリは何かを察っしたみたいだ。


「……なんか事情があるんだね。無理には聞かないよ。ただ、その馬のことが気になってしまうのは許してね」

 

 そう言ってリリはグラニのたてがみを優しくなでる。


「フルルル……」


 グラニは気持ちよさそうには鳴く。


「よし、ここが畜舎の入り口だよ。ここで馬を管理しているんだけど、今は大抵は出払っているね」


「それは、村長に聞いた。馬が出払う用事ってなんなんだ?」


「ああ、馬を卸しに行くんだよ。商品の馬もそれを護衛する人の馬も村を離れるから、出払っちゃうんだ」


 リリは扉を開けて俺を中に案内しながら答える。


「畜舎の中は好きに見ていいよ。今は馬も殆どいないしね」


「ありがたく見学させてもらうよ。あ、後この馬、グラニの面倒を俺が出発する明日の朝まで見てくれないか?」


「ふむ、本当はあんまこういうの受けないんだけど、今回は特別だよ? その馬、グラニにも興味あるからね」


 一瞬考えたみたいだが承諾してくれた。


「ありがたい。それと馬の面倒をみるコツとかあるなら教えてほしい!」


「シド君……君、ガツガツ来るね……。まあ、いいよ、色々教えてあげるよ。見たところブラッシングとかやってないみたいだしね」


 そう言ってリリは少し離れると言ってどこかに行ってしまう。


 その間、俺は畜舎の中を見て回る。


(詳しいことは分からないが、聖都の畜舎と比べても遜色ないくらいだな……)


 天井も高く、畜舎のイメージより大分綺麗な畜舎を見て回る。


「おーい、ブラシ取ってきたからちょっと世話について教えてあげるよ!」


 畜舎を見て回っているとリリが戻ってきた。


「分かった、今行く」


 それからしばらくブラッシング等の基本の世話の仕方やコツをリリに教えてもらう。


「そうそう! だいぶ上手くなってきたね!」


「ん……、こんな感じか……」


 一通り教えてもらった時にはだいぶコツを掴んできた気がする。


「とりあえず、これくらい出来れば大丈夫だと思うよ! ふぅー、なんか好きなことを教えるって楽しいよ!」


 教えていて熱が入ってしまったのか、リリはだいぶテンションが高い。


 リリが水を差しだしてくる。


「おつかれさま。見た感じ、グラニは普通の馬より大分頑丈みたいだけど、しっかり面倒見るともっと良い働きすると思うよ」


「ありがとう、リリのおかげで色々学べたよ」


 そう言うと少しリリは照れる。


「そう言われると、畜舎の管理人として冥利に尽きるよ!」


 それから俺とリリは少し雑談をする。


「そういえば、東の方は魔獣被害とかどうなんだ? 道中、魔獣を見なかったが……」


「んー、多少は出るけどね。最近は大きな被害はないね。そりゃあ、開拓したての頃は結構被害を出したみたいだけど……」


「そうなのか……。西では第二の統率個体が出たし結構差があるんだな」


「七年前の悪夢もこっちでは被害は出なかったからね……。恐らく魔獣は西の方で発生して、西の方にも流れて来るんだと思う。西の村々が魔獣を減らしてくれるから東は被害が少ないんじゃないかな」


 なんかそう聞くと少し不公平な感じがするが……。


「その代わりに東は色々、食料なり馬なりを西に中央の村を通して送ったりしているんだよ」


「なるほどな、レーネにも何頭か馬がいたんだが、それはここから卸された馬なのか?」


「この村から卸した馬が多いと思うよ。なんたって馬の名産地だからね!」


 リリは話し上手で話してて退屈しないためかかなり話し込んでしまったみたいで辺りは暗くなっていた。


「あ、ごめんね。話過ぎてしまったみたい。グラニのことは僕に任せといて!」


「もう、こんな時間か……。俺は戻るよ。色々ありがとうな!」


「こっちも楽しかったからいいよー。じゃあ、また明日!」


「じゃあな。また明日!」


 そう言って俺は畜舎を出てアランとロズを探す。


 しばらく村の中を探すとアランが立っているのが見える。


「はぁー。シド、もう日が暮れてるぞ? 一体何してたんだ?」


「すまない、グラニを預けに行ったら。そこの管理人と話し込んでしまってな……」


「まあ、いい。宿でロズが待ってるから早くいくぞ」


「分かった」


 そう言って急いで宿に戻るとロズが待ちくたびれたのか不機嫌そうにしていた。


「シド、後で合流しようと言ったはずだ。夢中になるのは悪いことではないが周りのことも考えろ」


「すまない、ロズ。これからは気を付けるよ」


 素直にロズに謝る。


「まあ、過ぎたことはしょうがないな! さっさと飯食って今日は休んでしまおう!」


 アランがそう言うと宿の女将さんから貰ったらしい料理をテーブルに広げる。


 気づいたら、かなり腹が減ってたみたいでお腹が鳴る。


「シドも空腹みたいだな。今日のことは置いといて、今は夕食を済ますとしようか」


「「「いただきます!!!」」」


 空腹の為かすぐに食べ終わってしまう。


「ごちそうさま……。おいしかったな」


「そうだな、女将さんには明日お礼を言っておこう」


「おいしかった。じゃあ、私は寝る」


 そう言うとロズはベッドに寝転がる。


「んじゃあ、俺たちも寝るか! 今日はおつかれさま!」


「ああ、おつかれさま」


 そう言って俺とアランも灯りを消してベッドに横になる。


(最近、いろいろあったがやっぱりアランとロズとの旅は楽しいな……。今日は面白い人にも会えたし……)


 こんな日がずっと続けばいい……。


 そう思いながら目を瞑った。



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