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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
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第二十八話 ゲッテルデメルングの名残り

 東の村を出発して数日がたった。


「いったい何時になったら次の村に着くんだ……」


「あれ、言ってなかったか? 次に寄るのは中央の村。ちょうどヴァルハラとミズガルズ連邦の境だから、まだ数日はかかるぜ」


 俺のつぶやきにアランがあっけらかんと返してきた。


「マジかよ……食料は足りそうだが、水はもうないぞ」


「この近くに池があるんだ。今日はそこによって水を補給する。結構きれいなところだからな、楽しみにしておけ」


 アランとロズの後を追い少し歩くと少し開けて水辺に出た。


 周りの大樹の葉の隙間から差し込む日光を、水面が反射してきらきら輝いていた。


「……確かにこれは絶景だな」


「だろ! この辺はなぜか魔物が寄り付かないし、今日はここで野宿をしようと思っている。魚も釣れるしな」


「とりあえず水の補給をしよう。そのために寄ったんだろう」


 俺が眺めている水辺の端でロズは水を汲み始める。


 休憩もそこそこに俺もロズ達を手伝う。


「おお、結構魚がいるな」


 水を汲む際に水中に沢山の魚が見えた。


「汲み終わった人から釣りをするぞ。一番沢山釣った奴が誰か勝負だ」


 そう宣言したアランの方を振り向くと、どこからか持ってきたのか釣竿を水辺に垂らしていた。


「いいだろう。その勝負受けて立とう」


 ロズもいつの間にか釣竿を構えていた。


「ちょっと待ってくれ。どこから釣竿を取り出したんだ! 俺のは?」


「俺達はその辺のもので作った。シドもさっさと作らないと……終わるぜ?」


 アランの最後の一言を聞き終わる前に立ちあがり、丁度いい枝を探し始める。


「まあ、俺は剣の鞘に糸を括り付けたものだけどって、行っちまったか」


 アランが何か言った気がしたが気にせず森に入っていった。


「ちょうどいい枝って全然ねえな」


森を進んでいくと、ふいにひときわ大きな木が目の前にそびえ立っているのに気づいた。


 そのふもとに一人の男がたたずんでいた。


 その男が身に着けている服装を見るに、辺境の人ではないようだ。


「この木はね、お墓なんだよ」


 その男は木を見つめながら話し始めた。


「ゲッテルデメルングで死んだある男のために、仲間が苗を植えたそうだ」


「君はどうしてここに?」


 男はこちらを振り返る。


「いや、ちょっと迷ったというか……」


「ふむ、ここに干渉したということは神の力か。まあいい、ちょうど果実を収穫したところだ。一つどうだ?」


 俺が答えるより早く男は果実を放る。


「おっと、気遣いどうも」


 その果実を一口食べる。


「ぐっ!」




 


 果実を食べたシドが少し唸り地面に倒れ伏す。


「さて、その体に潜んでいるんだろう? 出て来いよ」


 男は倒れ伏したシドの体に向かって声を掛ける。


『ゲホゲホッ。ずいぶんなことをするな、その実は人には毒だぞ』


 倒れていたシドの体が起き上がる。


 しかしその声は先ほどまでのシドの声色とはまるで違った。


 しかし先ほどのシドとの最大の差異は金色に輝くその眼だった。


「少し強引に引きずり出させてもらったが、なるほどお前か。久しぶりだなムニン、戦争ぶりだ。そこで何をしている」


『それはこちらが聞かせてもらいたいぐらいだ。なぜ貴様がこんなところにいる』


「大した理由はない。ここにしかいられないからいるだけだ」


 その言葉を言い終わる前にシドが男に斬りかかる。


 ガキン!


 その剣撃を男は慌てることなく懐に忍ばせていた短剣で受ける。


 しかしシドの一撃は男の想像以上に重かったらしく、短剣が弾き落される。


「急に斬りかかるなよ。俺じゃなきゃ死んじまうぞ」


『腕が鈍ったみたいだな。昔のお前なら今の私(シド)などすでに倒せていた』


「俺の戦いは終わった、そりゃ鈍るさ」


『惜しいものだな。もはやあの強さは見る影もない』


「ほう? 随分と低く見積もっているじゃないか」


 男が笑う。


『なに?』


「……そうだな。悪いがお前の神力削がせてもらうぞ、ムニン。まだお前の神力は彼には重い」


『その剣……なるほど、やはり片割れを持っていたか』


 男の手には白銀の剣が握られていた。




 ……なぜか俺はここにいた男に見下ろされていた。


「大丈夫か? どこか痛むところはあるか?」


「すこし体が痛むが問題はなさそうだ」


「よかった、すこしやりすぎたと思ったが、さすがの再生力だ」


「何の話だ?」


 その言葉の意味を測りかねていると、男が少し慌てた。


「いや、何でもないさ。それよりもせっかく来たんだ、持っていくといい。ここには沢山あるからな」


 男が先ほどとは少し違う果実の沢山入った籠も寄越す。


「こんなにたくさんいいのか?」


「いいさ、お詫びだ。あとそろそろ日が沈むころだ。もう帰った方がいい」


「もうそんな時間か、じゃあ帰るとしよう。えーと」


「ジグムンド。俺の名前はジグムンドだ」


「色々と興味深い経験だった。感謝する、ジグムンド」


「…………一つだけ言わせてくれ。お前はお前の望む望まない関係なく難関が訪れる。これは避けられないだろう。その時の決断は誰にも委ねるな。きっとその自らの選択は間違ってはいないから」


「心にとどめておく」


 ジグムンドが指し示してくれた方角にしばらく進み、振り返るとジグムンドも大木もまるで今まで夢を見ていたがのように無くなっていて、そこには小さい若木が日光を浴びて青々と揺れていた。


「シドー! どこまでいったんだー!」


「聞こえていたら返事をしろ!」


 遠くからアラン達の俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「アランー! ロズー! ここだー!」


 俺の声を聞きつけ二人共がここに気づく。


「まったく、一人で森の奥にいくんじゃねーよ。あぶねーだろ、ってすげー量の果実だな…………」


「すまん。ちょうどいい枝を探していたらここまで来てしまっていたみたいだ」


「ここは…………魔祓いの木か」


「魔祓いの木?」


 ロズに聞き返す。


「ああ。この若木の近くには魔獣が寄らないそうだ。あの水辺も影響の範囲内だから安全なんだぞ」


「あーあれが噂の……って、のんびりしている場合じゃない! もう日暮れだ、急いで水辺に戻らないと本当に戻れなくなるぞ!」


 アランの言葉に俺達は顔を見渡し急いで水辺に戻る。


 その夜はアランとロズが釣った魚と俺がもらった果実を食べた。


 ちなみに釣り対決はロズが優勝だったらしい。


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