第二十七話 宿業と二人
東の村の一際大きな家の中で二人の男が会話していた。
「本当に神器に反応があったのだな?」
「ああ、間違いない。聖女様程の反応ではないが神器は反応を示している」
煌びやかな衣装に身を包んだ二人は水晶玉のような見た目をしている【神器】を見ている。
【神器】は青色を基調としているが中心に紫色の線が走っている。
「行方不明のシド・オリジンが近くにいるのか?」
「いや、この反応はシド・オリジン以上だ。恐らく神の血の生き残りがここら辺にいるのだろう」
「オリジン家以外に神の血を引くものいるとはな……」
そう言って二人はしばし沈黙する。
「しかし、今は調査隊を派遣できる状況ではないな……」
「かと言って【神器】をこの村の者に渡すわけにもいかない」
また二人は口を閉じ思案する。
一人が【神器】をいじりながら口を開く。
「周辺の村に怪しいものを探すようにレイジに命じよう。なんかしら情報は入るだろう」
「そうだな、神の血を引くものは情人離れした怪力やら特殊な能力を保有していたりする。この辺境地域では目立つ存在だろうからな」
「うむ、我らヴァルハラ神国の為に役に立って貰おうではないか」
話が纏まったら二人は酒を酌み交わし始めた。
神国ヴァルハラの貴族である二人によって東の村を中心に南の村とレーネに神の血を引くものが手配された。
手配書が回る二日前。
東の村よりシドとアラン、ロズはさらに東に歩みを進めていた。
「ここらへんから起伏が激しくなってくるな……」
東の村から半日ほど進んだところで丘陵地帯に差し掛かってくる。
「ここを超えるのは一日では厳しいな。今日は夕方までに一晩越せそうなとこを見つけないとな……」
「賛成だ。無理をせずに確実に進もうか」
ロズの意見にアランが賛成する。
木々が生い茂り緩やかな登り坂を鬱蒼としたものにしている。
それぞれ口数も少なく体力を温存しながら進む。
丘陵地帯の半ばまで進んだあたりで雨が降り始める。
「雨か……魔獣も活発になるだろうし、どこか雨宿りできるとこを探さないとな」
それぞれ周囲を注意深く見まわし休めそうな場所を探す。
「グルゥウウウウ」
「クッ、こんな時に魔獣か……。三人で手早く済ますぞ」
アランの合図でロズと俺は剣を抜く。
「五匹か、仲間を呼ばれる前に始末するぞ! アラン、シドは一匹相手にしろ! 私は二匹相手をする!」
それぞれ一気に踏み込み素早く切りかかる。
「はぁああああああ!!!」
ぬかるみで足を取られそうになるが俺とアランは一刀のもと魔獣の頭を切り裂く。
「フッ! せいっ!」
続いてロズが一匹を振り切り、その返し刀でもう一匹を切り裂く。
三人で五匹の魔獣を始末するのに三十秒ほどしかかからなかった。
「シドもアランもかなり上達したな。前に五匹の魔獣を相手にした時とは大違いだった」
「あれから、いろいろあったからな。ウロボロス戦とか生き残ったんだ、あの時と一緒なはずがないよ」
「それもそうだな! それなりの死線を潜り抜けてきたわけだしな!」
(俺も少しは強くなってきたな……)
それからも魔獣の散発的な襲撃を受けつつもちょっとした洞窟を見つけることに成功した。
「ここで一晩越せそうだな……結構襲撃を受けたが……」
「雨が降っていて正確な時間を把握出来ないが火を起こして、交代に見張りを立てて休もう」
「そうだな、少し疲れた……」
それぞれ軽く燻製肉を頬張り見張りを立てて休み始める。
最初の見張りはアランで次にロズ、最後に俺の順番だ。
アランが見張りに立つのを確認して俺は眠りについた。
「起きろ、シド。お前の番だ」
ロズの声で目が覚める。
「ああ、分かった。今行く……」
俺はそう言って洞窟の入り口に移動する。
「雨は止んだのか……。明日には丘陵地帯を越えられそうだな」
ふと空を見上げる。
雲が晴れて星空が見える。
辺境地域に来てから良く空を見上げている。
「星が好きか?」
後ろから声がかかる。
「ん……ああ、好きというか、なんというかな……星空を見ると落ち着くんだ」
後ろを振り返るとロズが立っていた。
「そうか……確かに落ち着くな」
そう言ってロズは隣に座る。
「ロズは休まなくて大丈夫なのか?」
「目が冴えてしまってな、少し話さないか?」
「まあ、こちらとしては願ったりかなったりだからいいが」
ロズと話して時間をつぶしながら周囲を一応警戒する。
「今日の戦闘でもそうだが、シドはわずかな時間でだいぶ成長したな。最初会った時はここまで成長するとは正直思ってなかったよ」
「直球だな……だが、まああの時は弱かったからな……。だけど俺は強くならなきゃいけないんだ……」
俺の言葉に少し沈黙するがロズは再び口を開く。
「お前はまだ今のままじゃ足りないのか?」
「ああ、全然足りない……もっと強くならないといけないんだ」
俺は即答する。
「そうか……。私も今のままじゃ全然足りない。もっと強くならないと仇は取れない」
「ナイトメアか……」
七年前レーネを襲撃しロズの母親を殺したという魔獣。
「ああ、だから私は力を望む。もっと強くならないといけないと思うんだ……」
ロズには確固たる目標があり、そのために強くなろうとしている。
俺はどうなんだ……?
「俺は旅の途中で仲間を自分の無力さ故に失っている……。二度とそんなことが起こらないようにするために強くならないといけないんだ」
俺は細かいところは説明せずに大体のことを説明する。
俺が力を望む理由は逃げなくてもいいように。誰かを失わなくてもいいように。
強くなりたいんだろう。
「私はシドと近いものを感じるよ。お互い、目的のために強くなろう。私はまた少し休む」
そう言ってロズは休息をとる。
うっすらと空が明るくなり始める。
少しロズのことが理解できた気がする。
そう思いながら俺は交代のためにアランを起こしに行く。
「起きろ、アラン。交代の時間だ」
「ふぁぁああ、分かった~」
俺はアランを起こし休息に入る。
ロズと話して目が冴えてしまったのかあまり眠れなかった。