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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
24/77

第二十三話 その力

 村の中をぶらぶらしていたら診療所に着いたのはもう夜遅くだった。


 診療所に来るまで見て回ったレーネにはウロボロスの襲来の傷跡が残っていたが復興の兆しも見える。


 この診療所だって東や南の村の応援によって建てられたものだ。


「……っと、そろそろ寝ないとな」


「シドじゃねえか! ……ッツ! まだ痛むな……」


 診療所に並べられてる簡素なベッドに横になろうとすると声をかけられた。


「大丈夫か……? ん? オーグじゃないか!」


 声をかけてきたのは近くのベッドで身体を起こしているオーグだった。


「おうよ、シド、お前良くやったじゃねえか! リーレが言っていたがウロボロス討伐の一番の功労者はお前らしいじゃねえか」


「いや、俺の力じゃないさ。ロズやアラン達にも手伝ってもらっての討伐だったよ」


「ったく……謙遜しやがって。まあ、それはともかく約束を果たしたな、シド!」


「約束って勝って戻ってくるってやつか? それとも俺の手でオーグの大斧を返すって話か?」


 俺は笑いながらオーグに聞く。


「ああ、勝って戻っては来たが大斧は返して貰ってねえな……」


「今日は遅いから明日返すさ、それより傷は大丈夫なのか?」


 そう聞くとオーグは腹をさする。


「命には別条はねえが一生杖つきって村医者には言われたな……」


「...流石にあの腹の傷は大きかったからな……」


「ついでに腕もねえからな。もう戦えねえ……」


「そうか……」


「そうしけた顔すんじゃねえ! あの傷で命があったんだそれだけで十分だ。だが戦えねえ俺には大斧は必要ない……それはお前が持ってろ」


 俺が顔を曇らしたのを見たオーグは心配ないと笑いとばす。


「いいのか……? お前の大事な武器だろ?」


「いくら大事だと言ってもな大斧も武器だ。武器なら使われてなんぼだ。それにシド、お前は俺と同じで大斧が似合う男だ!」


「そうだな、オーグの代わりに俺が大斧を振るうよ」


「ああ、任せたぞ!」


 俺の言葉にオーグは任せたと笑う。


「そういや、アルダの爺がお前に話したいことがあるそうだ。明日あたり顔を出しとけ」


「ん……? 今日会ったが特に何も言われなかったぞ?」


 俺がそう言うとオーグは少し考える。


「……恐らく二人きりで話したいことがあるんだろうよ」


「ふむ、そういうことか」


 俺たちはそれからも少し雑談をした。


「ふぁぁああああ」


「話過ぎたな、今日はもう寝るか。また明日」


「そうっすかあ。寝る……」


 そう言ってオーグはすぐにいびきをかき始めた。


「俺も寝なきゃな……」


 麻布を被って目を瞑る。





 目が覚めた俺は昨日オーグに言われたことを思い出す。


「アルダに会いに行くんだったよな……」


 軽く身支度をしてアルダ村長のもとに向かう。


 アルダ村長がいるとこまで移動する道すがら、南や東の村の人たちがレーネの怪我した男衆に代わり働いているのが見える。


 恐らくアルハン等が手を回したんだろう。


 東や南の村の人たちに軽く頭を下げて通り過ぎる。


 アルダ村長がいる村の中央の家に着く。


「シドだ。アルダ村長が俺に用があると聞いて来た」


 暫く経つと扉が開き中から声が聞こえる。


「よく来てくれた。中で話そうか」


 アルダについて行くとある部屋に着いた。


「今はアルハンにも席を外してもらっておる。一応離れの部屋まで来たがの」


「そこまでする話なのか?」


 俺はアルダの念の入れように疑問を抱く。


「そうじゃのう……まあ、話を聞きなさい」


 煮え切らないアルダだが俺は黙って続きを促す。


「リーレから聞いたがシド、お主はウロボロスと互角に殴り合った力のことどう思う?」


 確信を突く質問に言葉が詰まる。


「無我夢中でな……よく覚えてないんだが……」


 俺は言葉を濁す。


「儂は昔ああいう力を持つものを見たことがある。もう三十年以上前の話だがの」


「三十年前……ゲッテルデメルング以前か……」


 ゲッテルデメルング以前、神が支配する時代。


「儂は元々辺境生まれではないからな、当時は中央の方に住んでいたのだよ」


「中央……今のミズガルズの首都近辺か……」


「うむ、中央には多くの神々と人々が暮らしておってな。神の加護や神の血を引くものも多かった」


 神の血……今じゃ持つものは少ない、というか俺と妹のハルしかいない。


「彼らは人の数倍の膂力を誇る。神の力を僅かなりとも引き継いでおるからな」


「それで、その話に何の関係があるんだ……?」


 大方アルダは俺の身の上に気づいているんだろうが俺は白を切ることにした。


「シド、お前は辺境の外から来たみたいだな」


「ああ、そうだが」


「お前の身の上を詮索する気はなかったんだがな……神の血を引いているのじゃろ?」


「……だったらどうする?」


 核心を突くアルダの質問に質問で返す。


「なら、それは誰にも話さんほうがいいだろう。辺境は戦いから逃れて来たものが多い、神の血を毛嫌いする者もいるやもしれん。幸いこのことを知っているのは儂だけじゃからの」


「アルダ、お前は神の血を嫌ってはいないのか?」


 気になった俺は口を出す。


「儂はな、神の血を嫌ってはいないが哀れだと思っておる」


「哀れ……。なんでだ?」


「神の血は力を得る代わりに神々の影響を受けやすくなる。儂は力に溺れ最終的に神々に弄ばれた者を何人も見たことあるからかのう」


 神の血を引くと神々の影響を受けやすくなる。


 思い当たる節はある。


『弱ければだれも救えない』


『俺の名はムニン。君を導くものだ』


 ムニンは神なのか……?


「ふむ、思い当たる節があるようじゃの。なら気を付けるがよい。自分を見失うな」


「一つ気になることがある」


「なんじゃ? 儂が答えられることなら答えよう」


「神々はゲッテルデメルングで滅んだんじゃないのか?」


 そもそも俺はムニンなんて神は知らない。俺が無知なだけかもしれないが……。


「確か、唯一生き残ったものがおっただろう」


 ゲッテルデメルングを生き残った神……。


「……主神ウォーデン」


「シドに憑いた神はウォーデンやもしれんのう」


 だが、俺の夢に出た奴はムニンと名乗っていた。


「まあ、儂も神々について詳しいわけではないからな。実際のところはわからん……」


「そうか……」


「力はあまり使わんほうがいいじゃろうな。使えば使うほど神に魂を侵食されるぞ」


「気を付けるよ」


「そのためには今回みたいに無茶はしないことだ」


「そうだな……」


 俺は生返事を返す。


 ムニンは強くなれと言った。


 アルダは力を使うなと言う。


 恐らく力は使わないほうがいいのだろう。


 だがどうしてだろう。


 俺はこの【神力(ちから)】をまた使わなければならない日が来る気がしてならない。


「儂の話は以上だ。少し混乱しているみたいだが少し考えてみなさい」


「ああ、分かった……。教えてくれて感謝している」


「なに、老人のお節介じゃよ」


 俺は軽く別れを言って立ち去る。


 もやもやする心のまま帰路につく。


 住んでいる家に着いた時には既に昼を回っていた。




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