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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
23/77

第二十二話 戦いの余韻

 ウロボロスを倒した俺達は今三人仲良くリーレに作られた野外診療所のベッドに横たわっていた。


 ロズは軽傷で今ウロボロスの死骸をどうするか、村長たちと話しているらしい。


 アランとリーレはダメージを多く受けてしまって、しばらくは安静だそうだ。


 そして俺は……。


「ウロボロスとの戦いにおいて両腕骨折、あばら骨全滅、内臓損傷、その他擦り傷切り傷打撲多数。そして今ベッドで起き上がれない理由が筋肉痛…………お前本当に人間か?」


 そう、アランの言う通りあの戦いから半日経った今、俺は大斧を振りまわしたことによる筋肉痛に苦しめられていた。


「しかしすごい回復力ですね、シドさん」


「まあな、こんなことは初めてだが……」


 理由に一つ心当たりがあった。


 あの時自らの体に起こったことだ。


 以前から違和感はあった。


 何か声が聞こえて気が付いた時には記憶があいまい、しかしその時は自分の実力以上の力を出せていた気がする。


 あの時俺はその神力を任意で使った。


 …………体が痛く怠い。


 筋肉痛というのはこれほどの痛みと怠さだっただろうか。


 二人がなにか話しかけてきていたがウロボロスとの戦闘での疲労と筋肉痛の怠さによってまぶたが下がっていく。


 そうして俺は眠りに落ちていった。





『ようやく目覚めたな』


 廃墟にどこかで聞いた声が響く。


 ここは…………前の夢の……


『そう警戒するな。今回は前のような真似はしない』


 そういうのであれば姿を見せろ


 その直後俺の背後に気配が現れる。


 しかしなぜか俺は声の主のいる背後を向くことができなかった。


『無理だ。まだ目覚めたばかりの君ではな』


 目覚めた?


『君もわかっているはずだ。君の中に眠っている神の血だよ』


 ではあれはやはり…………


『そう。君があの魔獣に振るいその体を癒したのは正真正銘神の力だ。まだ未熟だがね』


『あの魔獣の魔術の影響もあるのかな』


『まあいいか。体の痛みや怠さは我慢したまえ。体がまだ馴染んでいないのだ』


 お前は一体何なんだ!


『ハハハ、そうか自己紹介がまだだったな。俺の名はムニン。君を導くものだ』


 導く? 何を…………


『残念だが挨拶は終わりだ。強くなれ。(われわれ)の存在証明のために』


 世界が暗転した。


 




 俺が目覚めたときは日はとうに沈み、辺りも暗くなっていた。


 体の痛みなどもだいぶ良くなっていたので起き上がり、あてもなく歩く。


 村は夜になってもにぎやかだった。


 それもそうだろう、魔獣狩りが成功し目下の脅威であるウロボロスも討伐した。


 ぶらぶらと歩いていると村のはずれで一人座っているロズを見つけた。


「シド。もうけがは大丈夫なのか?」


「ああ、どうやら俺は傷の治りが早いみたいだ」


「そうか、お見舞いに行ったんだが二人共ぐっすり眠っていたんだ」


「すまない……お前はここで何ををしているんだ?」


「私たちはウロボロスを討伐した。一人では無理だが皆で戦えば統率個体を殺せるほど強くなったことを実感してな」


「…………ナイトメアか」


「知っているのか、焦るつもりはないが奴はここ七年間動きを見せていない。アランの情報が唯一の手掛かりなのが現状だ」


 ロズの顔が曇っていく。


 その時、ぐ~と俺の腹の虫が鳴る。


「実は昨日の夜からろくに食事をとっていなくて……」


「ふふ、そうか。実は私も腹が減ってきていてな、何か食事をとろう」


「ああ、ならさっき広場で何かを焼いているのを見たぞ」


「じゃあ早速行くとするか」


 二人で広場についた時には先ほどの騒がしさはなかった。


 どうやら酔いつぶれてそこらじゅうで眠っているようだ。


「おおシドか、まだ残っとるぞ」


「アルハンとアルダか、二人で飲んでいるのか」


 ロズが屋台に食べ物を取りに行っている間にテーブルで酒を飲んでいる二人を発見した。


「なに先ほどまでエルとオーグもいたのだが、オーグが酔いつぶれたものでエルが奴をベッドに連れて行っってしまった」


「オーグ!? 生きていたのか!」


「無事とはいえんがの。刺さった棘による凍傷で右足を切断したのだ」


 その言葉に言葉が詰まる。


「まあ奴とて村長じゃ。覚悟はあったじゃろう、だから奴の前でそんな顔をしていたらぶん殴られてしまうぞ」


「おいシド。お前の分もとってきてやったぞ……こいつらと何を話していたんだ?」


 そこにロズが二人分の皿を持って戻ってきた。


「お主は、ロズか?」


 アルハンの雰囲気が変わる。


「そうだが……」


「そうか、わしはアルハン。レーネの村長をしている」


「そうか、で何の用だ」


「お主に渡さなければならないものがある。お主の父ギャラルの遺品じゃ」


「父さんの遺品だと!」


「もっと早くに渡さねばと思っていたのじゃが数年間お主の足取りがつかめなくてな、それに村長であるわしはこの村を離れることはできなかった」


 アルハンは一つの本を取り出す。


「この本は無人になったギャラルの家を掃除した時に見つけたものじゃ」


 本を渡されたロズは茫然としている。


 夜も遅くなっていき広場で寝ていた人たちが帰り始めてもロズはまだ動けないでいた。


 アルハンたちに後のことを任されていたので飯を食いながら待っていた。


 不意にロズの力が抜けてテーブルに突っ伏す。


「……大丈夫か」


「ああ……少し頭の中が混乱していた」


「もうここの撤収が始まっているから場所を移すぞ。どこか泊まれる場所はあるか」


「いや、ウロボロスのことを聞いて飛び出したから、武器以外何も持ってきていない」


「じゃあ、俺が今住んでいる家に泊まっていけ。今夜俺は診察所のベッドで寝るから誰もいない」


「気持ちはうれしいが本当にいいのか?」


「構わん。それにきっとお前には特別な意味があると思うからな」


 家が見えてきた。


 グラニは今夜アルハンの家で面倒を見てもらっているのでいない。


「この部屋を使ってくれ、家にあるものはこの(リーレの)スペースのもの以外は使ってもらって構わない」


 軽く家の説明をして俺は診療所に向かうべく玄関に向かう。


「シド」


 ロズの声に振り向く。


「今夜は迷惑をかけてすまなかった」


「昨夜はお前が間に合わなければ死んでいたかもしれん。その借りが少しでも返せたのならよかった」


「そうか……また明日」


「ああ、また明日」


 挨拶をすまし俺は診療所までの道のりを夜風に当たりながらのんびりと進んでいった。

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