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ゲッテルデメルング  作者: R&Y
一章
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第十八話 雨と共に

 朝、俺はロズに教わったことをもとに鍛錬をしていた。


 ロズの剣技をイメージする。


 そしてそのイメージに自らの動きを合わせてゆく。


「ぐあ!」


 体がイメージについていかずにバランスを崩す。


「朝の鍛錬ですか。私もご一緒させていただいて構いませんか?」


 どうやら俺が鍛錬しているのを見ていたようだ。


 リーレが立てかけていた剣を取り型を行う。


 型は一分にも満たない短いものだった。


 型が終わるまでの間、俺は眼を離すことができないでいた。


「ふう。これはギャラルに弟子入りした時に教えてもらった唯一の型です」


「唯一?」


「ええ、ギャラルが私、アラン、ロズに教えたことはこの型だけです。あとは自らの努力や経験が技を進化させるだろう、と」


「ロズやアランも……」


「ええ、といっても最早別物でしょう。あれから七年も経っていますから」


「いやさっきの型、俺にはロズ、アランと重なって見えたぜ。原点は三人とも変わってないんだろう」


「そうですか……それは少々うれしいですね」


 そういってレーネははにかんだ。


「そろそろ朝食にしましょう。シドさんの分も作ってありますよ」


「じゃあありがたくいただくことにする」


 食事が終わり一段落着いた頃に玄関の戸が叩かれる。


「よう、久しぶりだなシド」


「アラン! 戻ってきたのか」


「おう、体の具合もばっちり治ったし、今回の魔獣狩りにも参加するぜ」


「アラン、ウロボロスに怪我を負わされたと聞いていましたが、元気そうで何よりです」


「リーレ!? なぜここに!」


 アランと話していたが、リーレの登場が予想外だったようで驚きが隠せないようだ。


「東の村が今回の魔獣狩りに参加するのは知っていっるでしょう。私がレーネにいることに不思議はないはずですが」


「いや……俺が聞きたいのはなぜこんな朝っぱらからシドの家にいることなんだが」


「ああ、そのことですか。アルハンさんから頼まれたのです。シドという男は料理ができないのだが我々も魔獣狩りの準備が忙しくなるため面倒を見てくれないか、と」


 リーレの口から衝撃の真実が明かされる。


「ああ、なるほど。シド、料理の腕上達しないもんな」


 アランもまさかの納得。


「それにシドという人物にも興味がありました。統率個体に二度遭遇してその窮地を切り抜けた男」


「思い出したのか? お前も統率個体と二度戦っていたもんな」


 二人の邪魔をしないように話を聞く。


「まさか。そういえばあなたはロズと会ったのでしたね。どのような様子でしたか?」


「元気そうだったし今はだいぶ落ち着いていた。それにとても強い。だが俺のことは覚えていなかった。おそらくお前のことも……」


「そうですか……やはり目の前でレナが殺されのはとても耐えられるものではなかったのでしょう」


「でも本当に強くなっていたよ、あいつ。俺とシドが挑んでも負けたからな。リーレでも勝つのは難しいんじゃないか」


「あなたの腕が鈍っていなければ、の話ですがね」


「なんだと、試してみるか?」


「いいでしょう」


 二人は楽しそうに表に出てゆく。


「幼馴染か……」


 それからしばらく外から金属がぶつかる音と笑い声が響いていた。


 夕方二人はまだ剣を交えていたので俺はグラニの散歩がてら村の中を回っていた。


 村では魔獣狩りの準備が着々と進んでいた。


「随分と余裕だな」


 南の村から来たエルが声をかけてくる。


「なんだ、嫌味か」


「いや、心に余裕があるのはいいことだ。あと貴様に伝えることがある。貴様と貴様の所にいるリーレはウロボロスと戦う少数精鋭の第三部隊に決まった」


「第三部隊……」


「南の村からなる第一部隊がウロボロスと集中して戦う土台作りの間時間稼ぎをし、その後第一部隊と合流してウロボロスを討伐する、それが第三部隊の主な動きだ」


 俺は今一度ウロボロスと対峙するらしい。


「今晩広場で部隊ごとに顔合わせがある。参加するように」


 そういい放ってエルは準備に戻っていった。


 家に帰る気にならずに時間まで広場で待っていることにした。


 暗くなってきて広場に火が灯り始める。


 その火が湿り気のある涼風を受けて揺らめく。


「第三部隊、集合!」


「ようやくか」


 声のした方へ向かう。


「集まったな。早速だが俺が第三部隊を率いるオーグだ」


 声の主は東の村の村長でもあるオーグだった。


「東の村は第二部隊じゃないのか……」


 俺のつぶやきをオーグは聞き逃さなかった。


「お前はシドだったな。教えてやる、第二部隊を率いるのはアルハンだ。もうジジイだからな、今回の魔獣狩りで一番ハードな第三部隊にはいささか不安だから東の村の村長の俺が務める」


 それからオーグは各自の自己紹介を促した。


 第三部隊は計10人。


 第三部隊に参加するロズはまだレーネに来ていなく後日合流とのことだった。


 自己紹介も終え場も温まってきたところで、ポツリ……ポツリと頭に水滴が当たる。


「ちぃ、雨か。仕方ない、顔合わせも済んだし本日は解散とする。撤収!」


 オーグが解散を告げそれぞれが準備していた物を雨がしのげる場所に運んでゆく。


 移動が終わり、家に着く頃には大雨になっていた。


「これじゃ、魔獣狩りはいつになるか」


 グラニの体をふきながらため息をつく。


「シドさんタオルをどうぞ」


 家の中ではリーレが俺の分のタオルも用意していてくれた。


「すごい雨ですね。この時期こんな雨は滅多に降らないのですが」


「ああ、すごい雨だな。すぐに止んでくれればいいけど」


 この大雨に不安を募らせながら二人とも床に就いた。






 夜が更けてきた頃、レーネの見張り台には二人の男が眠い目をこすりながら警戒を続けていた。


「まったく。魔獣狩りを始めるって時に、ついてないよな」


「それにしてもウロボロスか……巨体だって聞いたがどれくらいなんだろう」


「俺たちは第二部隊だからな、うまくいけば戦わないで済むが見てみたい気持ちはあるな」


 月明りを遮る雨雲、そして雨音。


 男たちは森で蠢いていた無数の陰に気が付くことができなかった。


「おい!なんだあれ」


「おいどうし……な!」


 それは、眼だった。


 はるか遠くしかし確かに赤い三つの眼が男たち、いやレーネを見据えていた。


 男たちが緊急事態の鐘を鳴らす。


 その時には魔獣の大群が村のすぐ近くまで迫っている。


 その時は、雨の夜に突然やってきた。

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