第十七話 ギャラルとリーレ
「本当にこの家で過ごすのか?」
俺はリーレとともに食事を食べながら質問する。
「ええ、魔獣狩りが終わるまでの間お世話になります」
「お……おう。こちらこそ世話になる」
何故か押しが強いリーレの言葉に頷いてしまう。
暫くお互い無言で食事を続ける。
「……懐かしいですね」
「懐かしいのか?」
「ええ、私は昔ここに住んでいる人に世話になっていたので。もう七年近く前の話ですけどね」
「七年前……」
俺はアルハンが言っていたことを思い出した。
「ナイトメアが襲ってくるまで住んでいた住人と知り合いなのか?」
「ええ、その人に剣を教わっていたんですよ」
「その人とリーレのことを少し教えてくれないか?」
俺は住んでいる家の元の住人のことが気になり質問する。
「いいですよ。彼は……」
彼は16年前辺境地域を訪れた旅人でした。
「すまない、少し休ませてくれないか?」
疲れ切った様子でまだ村を興したばかりのレーネに訪れました。
「旅人の方ですか。どうぞ何もない村ですが休んで行ってください」
「ありがたい、少し世話になる……」
彼はアルハン達に迎えられレーネに世話になることになります。
それから暫く村人達と農作業や魔獣退治を行いました。
「お客人は剣が上手いですな。おかげで魔獣退治にもかなり助かっていますよ」
「俺なんて大したことないさ。後、俺のことはギャラルホルンと呼んでくれ」
「ギャラルホルン……。では、ギャラルと」
アルハンと彼、ギャラルは共に剣に精通している為気が合い友人になります。
その頃、東の村からレーネに訪れた私はギャラルの剣技に惚れ弟子入りしました。
それから一年後にギャラルはロズの母親に当たるレナと結婚してこの家に住むことになりました。
その頃になるとアランもギャラルの下に度々訪れて剣を教わっていました。
「くっ……。はぁ~やっぱりリーレは強いなあ」
「まあ、アランより長く剣を習っていますからね」
私とアランはギャラルの下で剣を競う仲でした。
そしてギャラルとレナの間にロズが生まれてますますギャラルの家はにぎわいました。
「おぎゃぁああああああ!」
「よしよし、泣き止んでくれ……」
「ギャラル、そんなんじゃ赤ちゃんは泣き止まないぜ。べろべろば~!」
「おぎゃぁああああああ!」
「アランも泣かせてるじゃないですか……。ここは私が……よしよし、泣き止みなさい!」
「おぎゃぁああああああああああああああああ!」
「リーレ……お前が一番ひどいぞ……」
「ちょっと! あなた達、何ロズを泣かせているの!」
「「「すいません……」」」
「はぁああ、しっかりしてよね。さあロズはこっちで遊びましょうね~」
「きゃっきゃっきゃ」
「ロズが……、笑った……」
「おっさん……」
「ギャラルもしっかりしないとロズから嫌われちゃいますよ」
「リーレも大概だけどな……」
「アラン……。文句あるなら外に出なさい!」
「お、やってやるよ!」
私たちはギャラルの家に集まってよく遊んでいました。
ロズが成長するともっとにぎやかになりますけどね。
「リーレ、私と剣の勝負をしよう」
「いいわよ、かかってきなさいロズ」
「ロズもリーレも気を付けるんだぞ!」
「ギャラルは過保護だなあ。二人とも頑張れよー!」
私たちは幸せな生活を送っていました。
しかし今から九年前の魔獣狩りの時……。
「ギャラルが行方不明だと! ちゃんと探したのか!」
「アルハン落ちつけ。村長が慌ててはならん」
「...ッツ。……そうだった。儂が慌ててはいけない……。アルダ、ありがとう」
「ギャラルが行方不明なのか? 俺たちも探しに行ってくる!」
「アラン! 子供は森に入ってはならん。捜索は大人たちでやる。家で待ってなさい」
「でも……。ギャラルは俺とリーレの師匠なんだ……」
「わかっている。南の村とも協力して捜索する。お前たちはロズを見ていてあげなさい」
「……分かった。必ず見つけてくれよ!」
南の村とレーネは協力して何日も捜索しましたが結局ギャラルは見つかりませんでした。
それから私はギャラルの家で住み込みでレナを手伝いました。
「リーレちゃん、ありがとね」
「いえ、ギャラルには世話になったので。それに、この辺境で一人で子供を育てるのは大変ですからね。私もできる限り手伝いますよ」
「本当にありがとうね……」
このころからロズは無口になっていきました。
そして、七年前……。
レーネは統率個体ナイトメアに襲われました。
その際、私は応戦しましたが力及ばずレナが命を落としました。
「リーレ! 大丈夫か! 親父たちを連れてきたぞ!」
「村の者は魔獣達の対処を頼む! 儂とアランは魔獣の親玉を叩くぞ!」
私とアラン、アルハンが協力して魔獣の親玉ナイトメアを撃退しましたがレーネの被害は甚大でした。
「ロズ……。すみません、ナイトメアが東の村にも現れたようなので私は行かなければなりません」
「そう……。じゃあね」
「ロズ……。すぐに戻ってきますから!」
東の村の騒動が終わりレーネに戻った時には既にロズは村を出ていました。
そして、私は東の村の村長が魔獣によって亡くなったことで東の村で新村長の補佐をすることになりました。
こうして今に至ります。
「少し話過ぎてしまいましたね」
「いや……。ここはロズの家族の家だったんだな」
俺はあの赤毛の少女を思い浮かべる。
「ロズの面倒を見てやれないのが気がかりでしたが、アルダ爺の話では随分と落ち着いているみたいで安心しました」
リーレがギャラルやロズのことを話す時はすごく懐かしそうだった。
「ロズとはずっと会ってないのか?」
「もう何年も会ってませんね……。最後にあったのは四年前くらいですね」
「そうか……」
俺は食事を終え寝室に向かう。
横になりながら考える。
俺にも親はいない。
ロズも親を失っている。
俺は聖都で腐っていた。
ロズは親の仇を討とうと魔獣と戦い続けた。
「ロズは……強いな」
ナイトメアにウロボロス、今回の魔獣狩りでロズの仇に近づくかもしれない。
決戦が近づいているのを強く実感した。