第十六話 三村会議
俺はロズと療養中とアランに別れを告げレーネに向かっていた。
道中の魔獣を倒しながら進んでいると中継所が見えてくる。
「おーい、坊主。久しぶりだな。アランは一緒じゃないのか」
中継所にいる男性が声をかけてきた。
「お前はレーネの……アランはちょっとな。それよりもどうしてここにいるんだ?」
「ここに駐屯していた南の村の奴が壊滅したらしくてな、一次的にレーネがここを守ることになったんだ。南の村にいた時に何か聞かなかったのか?」
ロズに出会った時のことか。
あの時中継所の中にいた人以外は見つかっていない。
あの時の血の海の中じゃ魔獣の遺体と混ざって判別できないだろう。
「ああ……知っている」
「来たときはそりゃひどかったぜ。これほどひどい光景は7年ぶりだった。まあ数日かけて片付けたが、こりゃ魔獣狩りは急いだほうがいいかもしれないな」
「そうだな、南の村は協力を承諾した。東の村次第ですぐ魔獣狩りが始まるかもしれん」
「それは吉報だ! 早く村長に知らせてやんな」
中継所での休憩を終えてレーネへと急ぐ。
レーネまで無事たどり着き村長の家へと報告に行く。
「おおシド、帰ったか。ん? アランはどうした」
俺は村長に南の村の返事と南の村で何が起こったのかを詳細に話した。
「そうか、アランが無事なようで良かった。東の村も同意してくれているし、魔獣狩りは行えそうじゃの。しかし統率個体ウロボロスか……」
「7年前も現れたらしいな」
「聞いていたのか。7年前に辺境のいくつもの村を滅ぼし、レーネにも多くの被害が出た」
村長の表情に苦悶が浮かぶ。
「シド、お前に貸した空家は村の外側に位置する家で唯一破壊されなかった家だ。住んでいた村人は亡くなってしまったがの」
「そうか」
その後話が続かなくなり、あいさつをして家に帰ることにした。
「グラニ、今帰ったぞ」
数日ぶりの相棒との再会に少々気持ちが昂る。
「おかえりなさい、シドさん」
しかし出向かえてくれたのはグラニだけではなかった。
「……誰だ、おまえ」
グラニと共に現れたのはアランより少し年上に見える青髪を簡単に後ろ結びにした女性だった。
「そういえば、あいさつがまだでしたね。私はリーレ、アルハンさんから村はずれにいる馬に餌と水を運んでほしいと頼まれ、餌やりをさせていただきました」
そういうと彼女はぺこりと頭を下げる。
「ああ……ありがとう」
「それでは私はこれで」
そういうとリーレは村のほうに歩いて行ってしまった。
「餌か…………すまんグラニ」
餌のことを考えずに出発してしまったことを思い出し俺はグラニに謝った。
そして数日後レーネに東の村と南の村の長たちが集まり、魔獣狩りの計画を練る会議が始まった。
ウロヴォロスとの戦闘経験がある俺は会議に参加することになっている。
その会議場には俺以外に4人の人物がいる。
一人は南の村の村長を務める、アルダ
南の村にいたときは世話になった。
アルダと共に来た南の村の自警団のリーダー、エル
中継所での戦いのとき助けてくれた人たちの一人だ。
そして東の村から来たであろう二人組がいる。
「おまえが例の統率個体と戦ったシドか」
アルハンやアルダよりだいぶ若い男が俺の前に歩いてきた。
「ああ、そうだ。おまえは……」
「俺は東の村の村長をやっているオーグだ」
オーグが俺を見る。
「あまり強そうじゃないが、本当に統率個体と戦って生き延びたのかよ」
オーグはそうつぶやき歩いて行った。
「申し訳ありません。村長は少々言葉遣いが悪いのです」
「あんたは以前の……確かリーレだったか」
「お久しぶりですね、シドさん」
「あんた、東の村から来ていたのか」
「ええ、今回は村長オーグの補佐として会議に参加いたします」
「よく来てくれた、4人とも。それでは魔獣狩りの計画を練ろうと思う」
レーネ村の村長、アルハンが会議場に到着し会議の開始を宣言する。
「今回の魔獣狩りはいつもの勝手では行えない。皆知っていると思うが七年ぶり二匹目の統率個体が出現した。我々南の村の自警団が守っていた中継所が襲われ、多くの死傷者が出た」
南の村のエルがウロボロスについての話を切り出す。
「今回の戦いの最終目的は統率個体ウロボロスの討伐。倒せなければいつ7年前のような事態が起こるかわからん」
「ウロボロスねえ。あの南の連中を殺すような化物にこいつは二度も戦い生き残ったのかよ」
全員の目が俺の方に向く。
「俺一人じゃない。アランとロズと共に生きのびた」
俺の発言に南の人達以外が反応した。
「ロズ……あの狂犬か、あいつがいたなら生き残ることぐらいならできるかもな」
「狂犬?」
思わずオーグの口から出た言葉を聞き返す。
「なんだお前知らないのか。あいつは魔獣を殺すだけの女だ。今はだいぶおとなしくなったが一時期はナイトメアを追って辺境の村々を巡り、その道中で千もの魔獣を八つ裂きにしてきたって話だ」
「オーグ、やめなさい」
俺が立ち上がろうとする直前アルハンがオーグを戒める。
「そういえばロズはレーネ出身だったな……わかったよアルハン、少し言葉が過ぎた」
この場を収めたアルハンが俺に問う。
「シド、あなたを呼んだのはほかでもない、ウロボロスについて話してもらうためです」
「わかった、俺が確認できたことを話そう」
こうして俺は、赤い三つの眼、地を揺らすほどの巨体、外皮の下の無数の触手、高い再生力と魔獣を呼ぶ唸り声、そしてどうやら光に弱いこと、俺の知っているウロボロスについてのことを話した。
しばらく会議場を静寂が包む。
「つまり光で目をくらませて隙を作り大人数でその巨体に致命傷を与える、こんな感じでしょうか」
リーレが発言する。
「だが魔獣も相手をしなければならないだろう。何せ統率個体だ」
「つまりウロボロスに大人数はかけられない。火力のある数人で討伐すると」
「しかし数人では触手の攻撃が集中してしまう」
議論が激しさを増す。
「やはり魔獣を逃がさないために後方にある程度人数が欲しいか」
「そして魔獣をさばきながらウロボロスと戦う部隊、ウロボロスに専念する部隊」
「やはりそれが最善か……」
どうやら会議がまとまったらしい。
「では南の村の自警団と東の村、レーネ合同部隊そして各村から選出する少数部隊の三部隊で魔獣狩りおよびウロボロス討伐を行う。以上、解散」
俺は会議が終わった後、アルダと話すアルハンを見かけた。
「ああシドか、どうしたんだ」
「ロズとアランの様子が気になってな」
俺の質問にアルダは笑う。
「いやすまない、今しがたアルハンから同じ質問をされたのでな」
アルハンも苦笑する。
「ロズについては今回の魔獣狩りに参加するからすぐまた会えるだろう。アランについてはもうすぐレーネに帰れるだろうが魔獣狩りの参加は難しいところだ」
「そうか、ありがとう」
二人との会話もそこそこに俺は帰路につく。
最後にアルハンが言った、よろしくたのむ、の言葉が引っ掛かりながら夕食をどうするか頭を悩ませる。
グラニに餌をやるために餌箱を見ると、もう誰かが餌をやった後らしくむしゃむしゃと食べていた。
不思議に思いながら無人の家の扉を開ける。
「おかえりになられましたか、シドさん」
無人のはずの家の中から声が聞こえた。
腰の剣に手をかけながら部屋に入る。
「今日からこの家に共に住まわせていただきます」
そこで見たのは台所で夕食の支度をしているのであろう、リーレの姿だった。