第十三話 魔獣の罠
食事を終えて森に入った俺たちはそれぞれ少し間隔を開けて探索を始めた。
「どうして、少し間隔を開けるんだ?」
疑問に思った俺はロズに質問する。
「近すぎると、互いの行動の邪魔になるからな。逆に間隔を開けすぎると、対処が遅れる場合があるからだ」
「なるほど、これぐらいが丁度いいってことか。おっと……」
ロズと話していると地表から剥き出た木の根に躓きそうになった。
「気を付けろよ、この森は足場が悪いからな」
「そうだな、この森は遥か昔から人の手があまり入らなかったからな。慎重に調査をしないと足元を掬われるぞ」
躓きそうになった俺をアランとロズが注意する。
「気を付ける。それにしても鬱蒼としているな……」
俺は周辺を見回すと家よりも大きい大木が無数に生え、さらにその周りに蔓や草木が生い茂っている。
「そろそろ、魔獣が出てもおかしくないんだがな……」
ロズが首をかしげる。
「確かに、森に入ってから魔獣を見てないな」
「何はともあれ魔獣が出ないってことは調査が捗るってことだ」
そう言って俺たちは奥に進んでいく。
「魔獣の数が少なすぎる……」
「そうだな、大分奥に進んだが魔獣を二匹しか見かけてない。流石におかしいな」
ロズの言葉に俺も同意する。
「日も傾いているし、そろそろ戻るか」
「森で夜を迎えるのは危険だな。私もアランの意見に賛成だ」
アランの提案にロズが賛成する。
「森に詳しい二人がそう言うなら、俺に異論はない」
こうして俺たちは帰路に就く。
俺は初めての森に疲労がたまり口数が少なくなり、それに合わせるように二人も静かになる。
俺たちは無言のまま歩くが不慣れな俺が足を引っ張り、日が沈んでしまう。
「今日は野宿だな……。私は枯れ木を集めて来る。アランは水を汲んできてくれ」
「分かった。シドはここで荷物を見ておいてくれ」
アランとロズがそう言うとそれぞれ準備をしようとする。
「俺はまだ歩ける……」
俺がそう言うとアランが
「そうかもしれないが、夜の移動は危険なんだ。方向を間違えてさらに奥に行ってしまうこともあるしな。それに今は休んでおいた方がいいさ」
俺はアランの言葉に頷き荷物を置いて周囲を警戒する。
「それじゃあ、俺は水を組んでくる。荷物を頼んだぞ!」
「任せてくれ、アランも気を付けろよ!」
俺たちが話しているとロズも枯れ木を探しに行こうとする。
「ロズも気を付けろよ」
「あ……ああ、私も気を付けよう」
一瞬ロズは驚いたようだったがそう言って歩いて行った。
二人が行った後、俺は周囲を警戒するが魔獣の気配は感じない。
「日が暮れても魔獣の気配がしない……。レーネの近くですら夜中は魔獣が跋扈しているのに、この森にいないはずがない。どこにいるんだ?」
俺はそう呟いて思案する。
どれくらい思案に暮れていたのだろうか、気づくとロズが戻ってきていた。
「ロズ、戻ってきていたのか」
「ああ、少し前にな」
ロズはそう言いながら火をおこす。
「アランは?」
「まだ、戻ってきていないな」
パチパチと薪がはじける音が響く。
「流石に遅くないか?」
「アランが道に迷うとは思えないが……、心配なら見に行こうか」
俺の質問にロズは答えて立ち上がる。
「いや、二人で行こう。嫌な予感がする」
「ふむ、本当はここに一人は火の番をしていないといけないんだがな。だが、大体の方向はわかっているし、すれ違うこともないだろう」
俺とロズは武器を持ってアランが水を汲みに行った方向に向かう。
嫌に静かな森を二人で進んでいく。
「この感じ……、何かが息を潜めているみたいだな。気を引き締めていくぞ、シドの予感通りだ」
「分かった。アラン、無事でいてくれ……!」
二人で周囲を警戒しながら慎重に進むと小川が見えてきた。
「恐らくここら辺だろう……」
「ここからは川沿いに手分けして探そう」
俺たちは二手に分かれて川沿いを辿りアランを探す。
「シド! アランが倒れている。すぐに来てくれ!」
俺が周辺を探していると向こうからロズの声が聞こえる。
「分かった! 今行く!」
そう言ってロズの方に走っていく。
そこには肩から血を流して倒れているアランがいた。
「アラン! 大丈夫か!」
俺はアランに大声で安否を尋ねる。
「あぁ...。大丈夫だ……けど、早く逃げろ。あいつらが来る前に……」
「アランを傷付けたやつのことか?」
ロズがアランに尋ねる瞬間、周囲に無数の気配を感じる。
「チッ! 誘いこまれたっていうのか!」
気配を感じてロズはすぐに武器を構える。
「嫌な予感はこいつらか……、アランを傷つけた報いを受けさせてやる!」
俺も遅れて武器を構える。
木々の隙間から魔獣達の姿が見える。
「一、二、三……、15匹か……。多いな」
「ロズ! 俺が前の奴をやるから後ろを頼む!」
俺はそう言って魔獣に切りかかる。
「後ろは任せろ」
ロズもそう言って戦闘に突入する。
俺はアランに教わった立ち回りを思い出しながら魔獣と戦うが如何せん数が多い。
「チッ、一匹殺そうとすると他の魔獣に邪魔されるな」
悪態をつきながら魔獣に剣を振るう。
「無理に殺そうとするな。隙を伺って一瞬の隙をついて一撃で仕留めろ」
俺の苦戦に気づいたロズがアドバイスをする。
「一撃で仕留めろって言われてもなっ!」
ロズに返事をしながら魔獣の攻撃をはじく。
「魔獣はその身体を武器にして攻撃を行う。それを弾いていると隙をつくのは難しい、相手の一撃を避けて最小限の動きで相手の顔面を突け」
「無茶言ってくれる……。けど、やらなきゃやられるならやるしかないな!」
相手の爪を使った一撃を、半歩下がり避ける。
わずかに掠ったが、一歩踏み込む。
前のめりになった魔獣の顔面に剣を突き刺す。
「うぉおおお!」
気迫の声とともに血しぶきが吹き出す。
「よくやった、シド。けど、喜んでいる暇はないぞ。すぐに三歩さがれ!」
俺はロズの声を聴き慌てて三歩下がると先ほど居た位置に魔獣の爪が振り下ろされる。
「あぶねえ...。ありがとな、ロズ」
「大したことは言ってない。それよりさっさと終わらせるぞ!」
「ああ、任せろ!」
先程と同じように最小限の動作で避けて渾身の一撃をくらわす、それを繰り返す。
避ける。
もっと速く!
突く。
もっと強く!
避ける。
もっと速く!
突く。
もっと強く!
無我夢中に繰り返していたら、目の前には魔獣の魔獣はすべて倒してたみたいだった。
「よくやった、シド。さっさとアランを火を起こした場所まで運ぼう」
「ああ、そうだな」
俺とロズがアランを抱え上げようとすると異様な音が響く。
「なんだ……。この音は……」
ベキベキと木々がきしむ音。
ヌチェヌチェと地面を這いずる音。
そして、姿を現す三つの目を赤く光らす異形な化け物。
「あいつは……。なんだ……」
アランが呟く。
「あいつが中継所を襲った魔獣だよ……」
ロズがアランの呟きにこたえる。
「この距離じゃ……、逃げれないな……」
俺は怪物との距離を目算で測るが逃げ切れるとは思えない。
「戦うしかないな……」
ロズはそう言ってアラン地面におろし、武器を構える。
「やるしか……ないか……」
俺もそう言って武器を握る。
魔獣達との戦いで傷ついた俺たちの前に立ちふさがる異形な化け物。
夜が更ける中、魔獣との第二戦が始まろうとしていた。