第十二話 南の森へ
「すまん! 寝坊した!」
約束の小屋の前でロズは待っていた
「自分たちから頼んでおいて寝坊とは、ずいぶんと舐められたものだな」
アランの能天気なあいさつに待たされていたロズは不満を漏らす。
「それで今から何をするんだ、アラン」
俺の質問にアランが持ってきた地図を広げる
「まずは南の村の周りをぐるっと回ってみよう。やっぱり戦うであろう場所は見ておきたいしな。ロズには案内をしてもらおうと思う」
「私は構わない」
「俺もだ」
俺たちの同意を取り付けたアランはそれぞれに小包を手渡してきた。
「来る途中にアルダ爺にもらったんだ。景色のいい場所で食おうぜ」
俺の前を二人が歩く
アランは距離を縮めようとしているのか、ロズに話しかけ続けている。
ロズを見る。
腰には長さの違う二本の剣を下げている。
二刀使いだったのか。
手加減しててあの強さかと、ため息が漏れる。
「止まれ」
ロズが俺達を制止する。
「魔獣か?」
「ああ。気配からして四、五匹か、お前らは一匹ずつやれ。残りは私がやる」
「よし、行くぜ!」
アランの合図とともに三人共飛び出す。
先には五匹の魔獣が狩ったであろう動物の肉を貪っていた。
俺は一番手前の魔獣に狙いをつける。
直前まで俺たちに気づいていなかった魔獣は、突然の奇襲に対応できなかった。
一撃、首を狙ったが狙いが逸れ、致命傷にならなかった。
返し刀で今度こそ首をはねる。
ふと辺りを見回すと不満そうなロズと、手を振るアランが見えた。
どうやら終わったのは俺が最後らしい。
「奇襲をかけたのに一撃で倒せなくてどうするんだ」
「二撃目で沈めただろう。文句があるのか」
「力任せで剣を振るっているからそうなるんだ。そんな様子ではもっと多くの魔獣は対処できないぞ」
「まあまあ勝てたからいいじゃないか。今は村の周りの探索だろ」
チッと舌打ちをする。
力任せが自分の短所だとはわかっているが、ロズに指摘されると腹が立つ。
ロズも言い足りないようだったがアランに言われて渋々先に進む。
それから、魔獣と戦うたびにロズが俺に食って掛かり俺が言い返すということを繰り返して剣吞な空気が俺たちに流れていた。
アランも魔獣と戦いのせいというよりよりこの空気のせいでげんなりしていた。
そんな時森の中でも比較的開けた場所に出た。
「そうだ、みんな疲れてきただろう。ここらで昼食にしないか? いやするべきだ」
アランがそう提案して俺達の返事を待たずにその場に座り込んでしまった。
仕方ないのでアランとロズから少し離れて座った。
ロズも座り広場に10メートル位の三角形ができた。
朝、アランから受け取った小包の中には干し肉を挟んだパンと小さな赤い木の実がいくつか入っていた。
「赤い実と一緒に食べてみろ、うまいぞ!」
アランが俺達に届くように大きな声を出す。
赤い木の実をパンに挟み、頬張る。
香ばしいパンと塩味のきいた肉に加え赤い木の実が口の中でプチプチと破裂し程よい酸味がアクセントになっている。
そして何より今まで10匹くらいの魔獣戦ってきて疲労がたまっていた。
空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。
パンをペロリと平らげたが腹の虫はまだ足りないとなっていた。
「おう二人共、物足りなさそうな顔をしているじゃないか」
アランが立ち上がり何かを取り出す。
「実はもう一つアルダ爺からもらっているんだ。お前らが仲良く分けるっていうならやってもいいぜ」
「「なっ!」」
「早くしないと俺が食っちまうぞ」
腹の虫が再び鳴る。
空腹には勝てないと俺がアランの元に向かうと、それを見たロズも駆け寄ってきた。
ロズが付くのを待ってから、アランが俺に小包をほうる。
パンをできるだけ均等に分けようとするが3:7くらいになってしまった。
「っ……ほらロズ、おまえの分だ」
「っと」
少し迷ったが大きいほうをロズに渡しその場に座る。
それを見てロズもその場に座った。
二人とも無言のままパンを食べる。
アランはその辺を見てくるといって森に入っていった。
「…………なあ、ロズ」
「……なんだ、急に」
「さっきの注意だけじゃどうやって一撃で倒すかわからん」
「そうか」
「だから後で教えてくれ」
「……わかった」
「以上だ。アランの所にいくぞ。もたもたしていたら日が暮れる」
俺は立ち上がりアランが入っていった道に向かう。
「シド!」
「なんだ」
「……お前の気遣い、感謝している」
言い終わるとロズは小走りで俺を追い越してゆく。
「フン、大したことじゃない」
そうつぶやき、後を追う。
少しだけロズとの距離が近くなった、そんな気がした。