第十話 辺境の少女ロズ
「さて、魔獣の対処を任されたわけだが、我々に足りないものが何かわかるかなシド君」
「どうしたんだそのテンション……足りないものか、南の村周辺の情報か?」
「確かにそれも大事だ。しかし俺たち二人じゃさっきのような魔獣の群れ、対処できないだろ? 要するに今必要なのは、南の村の自衛団に所属していないこの辺の情報を持った強い奴だ!」
アランが自信満々に言い切る。
「いや、そんな都合のいい奴いないだろ」
俺の突込みにもアランはその余裕を崩さない。
「いやいや、よく思い出せ。俺たちは知っているはずだ、そんな都合のいい人物を」
「……おい、まさかあの女か?」
その通り! とアランが指を鳴らす。
「どうやらロズは中継地を襲っていた魔獣をあの場所まで引き離したらしい。それに南の森にも単身で潜っているらしいから、この辺の地理に強いはずだ。どうだ、完璧だろ!」
「まあいいが……いやにあの女を押してくるな」
そうアランに押し切られ俺達は先ほど助けたロズを訪ねることとなった。
南の村の人から教えてもらった場所に行ってみるとそこにはお世辞にも人が暮らす場所とは言えない小屋が立っていた。
「なんだここ! 馬小屋のほうがまだましな作りをしているぞ」
「馬小屋以下で悪かったな。なぜここに来た、関わるなといったはずだが」
やはりここに住んでいるのかと、つい感想がもれてしまったアランの声に反応してロズがため息をつきながら小屋から出てきた。
「そのことに関してはこちらの失言だった、すまん。だが話だけでもきいでくれないか」
アランが謝罪する。
「まあいい、おまえらには借りがあったな。来い、こんな小屋の中でよければ話は聞くが」
ロズに招き入れられた小屋の中には簡易的なベッドといくつかの長さの違う剣、変えたばかりであろう血の付着した包帯が地面に散乱していた。
「茶はない。好きなところに座れ」
ロズは散乱していた物を端に寄せベッドに座る。
「けが人に茶など期待していない。俺達がここを訪ねたのはこの村付近の魔獣共の対処の協力を求めるためだ」
俺の後にアランが続ける。
「うちの村は近々大がかりな魔物狩りを行うんだ。俺たちはこの村にその協力を求めにきたんだが、中継所が襲われてこちらに戦力が割けない。だから俺たちでこの村の周辺の魔物を抑えて、その間に村々が協力して中継所を襲った魔物もろとも殲滅しようって話だ」
「南の村の守りを担う? お前らが? 馬鹿馬鹿しいな」
ロズはそういって俺達の求めを一蹴する。
「なんだ、期待外れだな。もう少し気概のある女かと思ったが女々しい奴だ」
「お前はよそ者か? 辺境ではお前みたいなやつから死んでいくんだ」
「この女……!」
売り言葉に買い言葉で、仕方ないがロズの言い方に頭きて、立ち上がる。
「落ち着けシド! 俺たちはロズに協力を求めに来たんだろ」
アランが俺とロズの間に入る。
「なあロズ、考え直してくれないか?」
「変わらん。せいぜい二人仲良く死にに行け」
話は終わりだというようにロズがベッドに寝そべる。
俺が立ち上がり出口に向かおうとした、その時だった。
「ナイトメア……」
「お前、今なんて言った」
アランの一言にロズが反応する。
「俺は七年前ナイトメアを見た。キミが追っている奴だ」
「……お前、レーネの……」
「交渉だ、ナイトメアの情報はそう多くないだろう」
今までの小馬鹿にした雰囲気は消え去り、ロズの口ぶりに真剣さが帯びる。
「……いいだろう、その無謀な話に乗ってやる。そのかわりにお前が持っている情報、話してもらうぞ」
「ありがとう、俺はアランでもう一人はシドっていうんだ。じゃあシド少し外で待っててくれ」
まさかの交渉成立に驚いていると、アランに退出を促される。
「待たせたな、シド。これで準備完了だ!」
外で待っていると話を終えたであろう二人が出てきた。
「アランにシド、協力するにあたってお前らの実力を測る。二人とも剣を抜け」
ロズはそういうと剣を構えた。
「手加減はいらないぞ、私は強いからな」
「二対一か? なめやがって、のしてやる」
俺は一足早くロズに斬りかかる。
その一太刀は軽々と受けとめられる。
一連の流れを見ていたアランも剣を抜く。
二人がかりでの攻撃
(なぜ当たらない)
俺とアランのコンビネーションは決して悪くないはずだ
どれだけの剣撃を躱されただろう
その時アランがロズをとらえた
ロズが迫る剣を真上に弾き飛ばす
「はあああ!」
その隙をつき、がら空きの左身に剣を振る
ガキン
蹴りを腹部に受け吹き飛ばされる
「こんなものか……アランは及第点だがシド、お前本当にあいつと戦えたのか?」
ロズの左手を見る
そこには打ち上がったアランの剣があった
(アランの剣で攻撃を受けたのか、こいつ)
「じゃあ明日私の家に来てくれ、話はそれからにしよう」
そういうとロズは自分の小屋に入っていった。
「大丈夫か」
アランの手を借り立ち上がった俺は小屋を見る。
フリュムから逃げてから強くなっていると思っていた。
でも違った。
「まだまだ弱いな」
そのつぶやきは茜色の夕日に溶けていった。