表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗は警部で探偵  作者: 仙葉康大
最終章 「怪盗は警部で探偵」編
35/37

第三十話 「無力」

 王女殺しの首飾りは保管庫Aに眠っている。保管庫AのAはA(最高)クラスを示している。国宝のみを保管している倉庫なのだ。


 王女殺しの首飾りはルシー・フェルナンデスが死亡時に身に着けていたものだ。サファイアのペンダントで、製作者は不明。


 三月二十四日当日、ミカエルとファカは保管庫Aに直接飛んだ。保管庫Aにある品は十に満たなかった。警備の者はいない。保管庫Aは警備のためであっても立ち入ることができないのだ。


 ミカエルは紺色の布を足元に広げる。ファカが七つの首飾りを置いていく。サファイアはどれも冷たく光を放っていた。


 突如、ルカが目の前に現れた。


「フェイクを用意したのか?」

「技巧的な品じゃなかったから、簡単だったよ」


 有名な産地から天然のサファイアを調達し、宝石店に加熱処理とカットを頼んだ。


「ルカ。お前に審美眼はないだろ?」

「ミッシェル。お前こそ、どれが本物か判断できないんじゃないのか?」


 ルカはペンダントをかき混ぜた。しかし、ミカエルは本物を目で追う必要がなかった。


「私が見分けれます」


 ファカが小さく手を挙げた。


「手袋をつけて、本物を何時間も何日も触らせてもらいました。絶対に間違えません」

「七分の一に賭けてみるか」


 右端のサファイアを掴む。銀の鎖が布を離れる。


「どうだ? 正解か?」


 ファカがしゃがみ込んだ。サファイアを両手で包んで立ち上がる。


「これが真作です」

「まいったな」


 ルカは偽のペンダントを指で回した。


「今から本物を盗んでもいいんだぜ」

「そんなことしても気持ち的には負けのままだ。ミッシェル、お前の勝ちだよ」

「俺は何もしていない。ファカが勝ったんだ」


 ファカがサファイアをミカエルに握らせる。


「私はミッシェルだから協力したんです。私たちの勝ちですよ」


 ファカはそう言って唇を内にしまい込んだ。見つめ合っていると、ルカの声がした。


「盗みに失敗したから、俺は逃げるぞ。逃げていいか?」


 ルカは待ってくれていた。ミカエルは焦らず、まずファカを隠れ家に帰すことにした。


「隠れ家にいてくれ。心配しなくていい。明日までには帰る」 

「はい。ミッシェルも心配しなくていいですよ。私は帰りを待ってます。ずっと」


 ファカを隠れ家に飛ばす。


「ここからは俺が相手だ」


 ミカエルは服を飛ばし、すぐに警官の制服を瞬間移動させ、一瞬で着替えた。水の入った容器を出現させ、頭にぶっかける。ミカエルは変装の為、水で落ちる軽めの頭髪染料を使っていたのだ。黒髪が金髪に変わる。


「待たせたな」


 ルカとミカエルはエントランスホールに飛んだ。キンリエ以外の警官は消えていた。ルカの仕業だろう。


 二人はルカを挟撃する。ルカは軽やかなステップを踏んで、攻撃を躱す。キンリエの攻撃はヒットするものもあったが、浅かった。


 ルカはミカエルにのみ反撃した。ルカの蹴りが腹にヒットし、ミカエルは膝をつく。


「なぜ私には攻撃しないのですが?」


 戦いの最中、キンリエが問う。


「もうお前は俺より弱い。弱い者いじめはしたくない」

「マイケル警部も、あなたより、弱いと、思い、ますけど」

「奴は例外だ」

「無駄口叩いてんじゃねえ」


 ミカエルは立ち上がり、ルカに向かって拳を振る。ルカは躱し、ミカエルを殴ろうとした。刹那、ミカエルはキンリエとアイコンタクトを交わす。


 ルカは拳を止めた。拳の先にはキンリエがいた。ミカエルはキンリエと自分の位置を入れ替えたのだ。ミカエルの右ストレートとキンリエの回し蹴りがルカの体に入った。ルカは短くうめき、片膝を突いた。


「拳を止めるべきではなかったですね」


 キンリエが手錠をかけようとした。


「キンリエ。すまん」

「まさか」


 怒り出す前にミカエルはキンリエを警察庁に飛ばした。


「部下の手柄を横取りか?」

「いや、ここからは俺が相手だ」


 ミカエルはトレンチコートとスラックスに着替えた。目の下にアイシャドウを入れ、エルフの涙で瞳の色を灰色に変える。


「逃げてみろ。怪盗」


 ルカは出口に向かって駆け出した。風のように速かった。ミカエルが外に出たときには、姿をくらましていた。


「やっと来た。デートに遅れる男ってモテないよ」


 出入り口付近に待機させていたエドナが言った。


「デートじゃないって言ったろ。追えるか?」

「もちろん」


 エドナは鼻を手でこすった。


 博物館の前の通りを右に曲がり、住宅街に入る。入り組んだ道を匂いだけを頼りに進む。住宅街を抜け、再び博物館の方へ向かった。行き着いた場所は、シトラスカ広場だった。噴水前にルカは立っていた。


「思ったより早かったな」

「ウチの助手は優秀だからな」


 エドナが胸を張る。


「エドナ。助かった。ここからは俺の問題だ」

「ひどい。もう帰れって言うの?」

「夜更かしせずに寝るんだぞ」

「徹夜で映画見るもんね」


 ミカエルはエドナを家に飛ばす。消える直前、エドナはあっかんべをしていた。


 ミカエルは探偵の服を着替える。白シャツに綿パン。どちらにもリキル王国の紋章が刺繍してあった。噴水で顔を洗い、アイシャドウを落とす。エルフの涙を目にさし、瞳の色を緑色に戻す。


 ルカに向き直る。


「ミカエル。お前は無力だな。ファカの審美眼、キンリエの格闘技術、エドナの追跡能力はお前にはもったいないぐらいだ。お前は何をした? 軸を使って移動するばかりだ」


 ミカエルは頷く。


「俺は無力だよ」


 ルカはミカエルに詰め寄った。


「決して軸の力に溺れないと誓え」

「誓う。ミカエル・スパティウムは決して軸の力を過信しない。己の力を過信しない」


 ルカは覆面を取りながら消えた。


「首飾りの真作を持ってこい」


 ミカエルは噴水の上で輝く星を見上げた。どこに行けばいいかは分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ