第十八話 「報告」
エドナはノンばあにワルン捜索の旅を詳細に語った。嘘はつかなかった。ワルンの死についても話して聞かせた。
ミゲルはミートスパゲティのミートボールをフォークで何度も突き刺していた。女王の言葉を繰り返し、自分に刻む。
ノンばあは言った。
「頼んだわけじゃないが、ねぎらいの言葉ぐらいかけようかね。ご苦労さん」
「まだ話は終わってないんだよ」
エドナが目を輝かせた。フォークにスパゲティを巻きつける。
「私は今回の旅で思ったことがあるの。私はね。私は――。人がどんなに汚くても、私は、ワルンさんに会いたかった。その気持ちは今も私の中にちゃんとある。ずっとある。だから、私は、泣いちゃう」
突然、エドナは泣き始めた。泣き声が店内にかかっていたピアノの曲をかき消した。涙が皿に落ちる。ごめんなさい。エドナはそう言っていた。
「謝らんでええ。さっさと食べな」とノンばあは言った。
ミゲルはハンカチでエドナの顔を拭いてやる。泣きはらした赤い目と目が合う。泣き虫の王女を思い出した。この目の前では、自分は馬鹿で傲慢な王子でいるしかないのだ。エルフの女王が正論を吐こうと、今さら変えられない。
「食わないなら、俺がもらうぞ」
「ダメ」
エドナは大きく口を開けて食べ物を詰め込んだ。
帰り際、ミゲルはお代を払おうとした。ノンばあは受け取らなかった。
「その金であの子においしいモンブランでも買ってやりな」
ミゲルは頷いて外に出た。誰かの欠けた世界が広がっていた。




